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バルサルバ洞動脈瘤
佐藤 浩樹

監修医師
佐藤 浩樹(医師)

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北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。

バルサルバ洞動脈瘤の概要

バルサルバ洞動脈瘤は、体内で最も大きな動脈である大動脈の根本にあるバルサルバ洞という部分が膨らんでしまうまれな病気です。

血液は心臓の左心室から大動脈を通って全身に送られます。左心室の出口には大動脈弁があり、大動脈弁を抜けた大動脈の入口部分にバルサルバ洞と呼ばれる3つの小さな袋状の構造があります。
バルサルバ洞動脈瘤は、このいずれかの洞の壁が薄くなり、こぶのように膨らむ病気です。
バルサルバ洞動脈瘤は、3つのどの洞にも発生する可能性があります。特に多いのは右大動脈洞で患者さんの67~85%を占め、次いで無冠動脈洞、まれに左大動脈洞に発生します。

破裂していないバルサルバ洞動脈瘤は自覚症状がないことが多く、症状が現れるまで、または別の理由で画像検査を受けるまで発見されないことがあります。しかし、動脈瘤が大きくなると、大動脈弁の機能が障害されるため、息切れ、動悸、失神といった心不全症状が現れることもあります。
バルサルバ洞動脈瘤が破裂すると、心臓内の右心室や右心房に向かう穴となり、血液の逆流が起こります。この状態を大動脈心臓シャントと呼び、重篤な心不全症状を引き起こします。

なおバルサルバ洞動脈瘤は小児慢性特定疾患に指定されています。

バルサルバ洞動脈瘤の原因

大動脈の壁は3層(外膜、中膜、内膜)からできていて、そのうちの中膜が大動脈線維輪から分離することによって動脈瘤の拡張が起こります。
バルサルバ洞動脈瘤の多くは遺伝子突然変異による先天的なものと考えられています。突然変異は、どのように遺伝するか明確なパターンがないことを意味します。出生時に明らかな動脈瘤拡張が見られることはまれです。
その他いくつかの要因や状態が動脈瘤の発生または進行に関係している可能性があります。

心室中隔欠損

特に肺動脈下の心室中隔欠損は、寄与因子となる可能性があります。

全身性疾患

マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群、ターナー症候群、ウィリアムズ症候群、二尖弁、および骨形成不全症などの状態は、大動脈基部の拡張および歪みに関連しています。

感染症

かつては梅毒が大動脈瘤の既知の原因でした。

外傷

まれですが、胸部直接圧迫による大動脈基部の外傷が、破裂を引き起こすことがあります。

バルサルバ洞動脈瘤の前兆や初期症状について

破裂していないバルサルバ洞動脈瘤は無症状であることが多く、目立った症状を引き起こしません。このような場合、症状が現れるまで、またはほかの理由で画像検査が行われるまで発見されないことがあります。

症状が現れる場合、以下のような症状が一般的です。

  • 息切れ
  • 動悸(心臓がドキドキしたり、脈が速くなったりするように感じる)
  • 心筋虚血(心臓の筋肉への血流減少)
  • 失神(気絶または意識消失)

より重篤ではあるもののまれなケースとして、バルサルバ洞動脈瘤が冠動脈を閉塞することにより塞栓性脳卒中または心筋梗塞を引き起こすことがあります。

動脈瘤が破裂すると、大動脈心臓シャントを引き起こし、進行性に心不全が悪化します。破裂したバルサルバ洞動脈瘤の具体的な症状と兆候は、破裂が起こる場所によって異なります。

右心房や右心室などの低圧領域に破裂した場合、連続性雑音(異常な心音)が聞こえることがあります。この雑音は通常、左胸骨傍領域に位置し、表在性のスリル(胸部に感じる振動)を伴います。

受診すべき診療科は循環器科・小児外科です。

バルサルバ洞動脈瘤の検査・診断

バルサルバ洞動脈瘤を検出および評価する診断方法として、以下が挙げられます。

心エコー検査

超音波を使用して心臓の画像を作成する検査です。痛みや放射線などの負担がありません。動脈瘤を視覚化し、そのサイズと位置を評価するのに役立ちます。また、シャントを通じて逆流する血流を視覚化して血流速度や流量も測定できます。

心臓MRI検査

磁場と電波を使用して、心臓と血管の詳細な画像を生成します。動脈瘤とその周囲の構造への影響をより正確に評価できます。

造影大動脈撮影

カテーテルを手首や足の付け根から挿入し、大動脈へ向けて進め、バルサルバ洞の近くから造影剤を注入する瞬間をX線画像で撮影する検査です。動脈瘤やシャントを通じて逆流する血流を視覚化し、動脈瘤のサイズや形状を評価するのに役立ちます。

バルサルバ洞動脈瘤の治療

バルサルバ洞動脈瘤の治療は、手術が原則です。
未破裂動脈瘤が見つかった場合の治療方針は以下の通りです。

通常切開手術

破裂した洞の位置、破裂孔の大きさや穿孔先、大動脈弁や心室中隔の形態異常の有無などを考慮して術式を選択します。
大動脈、右心房、右心室あるいは肺動脈のいずれか1〜2ヵ所を切開し、破裂孔の直接閉鎖またはパッチ閉鎖を行う手術が一般的です。

カテーテル手術

近年ではカテーテル手術が選択されることもあります。心室中隔や動脈管閉鎖の治療に使われる occluderを用いて破裂部を閉鎖する手術で、体外循環などを必要としないため開心術に比べると負担が軽く済みます。

血圧管理

未破裂の動脈瘤で手術の必要がないと判断された場合、血圧を管理することで動脈瘤への負担を軽減し、動脈瘤の成長や破裂を防ぐのに役立ちます。

バルサルバ洞動脈瘤になりやすい人・予防の方法

バルサルバ洞動脈瘤の発生率が高い特定の集団が知られています。

アジア人

アジア人では上室稜下心室中隔欠損の有病率が高いため、バルサルバ洞動脈瘤の発生率が高いとされています。これらの欠損は、特に右大動脈洞の大動脈洞の不安定性に関わっている可能性があります。

先天性心臓異常を持つ方

バルサルバ洞動脈瘤は、すべての先天性心臓異常の約0.1〜3.5%を占めています。

遺伝性疾患を持つ方

マルファン症候群ロイス・ディーツ症候群、および二尖弁を持つ方では大動脈洞動脈瘤を合併する可能性が高まります。

バルサルバ洞動脈瘤の多くは先天性であり完全に予防することはできませんが、リスクを最小限に抑え、全体的な心臓の健康を促進するためのいくつかのステップがあります。

基礎疾患の管理

マルファン症候群やほかの結合組織疾患などの状態がある場合は、医療提供者と緊密に連携して、効果的に管理してください。

血圧管理

高血圧は、大動脈に余分なストレスをかけ、動脈瘤の発生または破裂のリスクを高める可能性があります。健康なライフスタイル(食事、運動、ストレス管理)を維持し、必要に応じて薬物の服用により、健康な血圧を維持しましょう。

健康的なライフスタイル

バランスの取れた食事をとり、定期的な身体活動を行い、喫煙を避けることによって、心臓に健康的なライフスタイルを採用してください。

定期的な健康診断

動脈瘤の家族歴またはほかの危険因子がある場合は、医師との定期的な健康診断を検討してください。

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