監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
心房中隔欠損症の概要
心房中隔欠損症は、右心房と左心房の間の壁に穴が開いている先天性心疾患の一つです。
100人に1人が先天性心疾患(生まれつき何らかの心臓の病気がある)をもって産まれると言われています。
心臓には右心房、右心室、左心房、左心室と4つの部屋があり、それぞれの部屋は筋肉の壁で仕切られています。右心房と左心房を仕切る筋肉の壁を心房中隔といい、心房中隔欠損症は心房中隔の壁に穴が開いている病気です。
心房中隔欠損症の原因の一つに、胎児期に存在する卵円孔と呼ばれる心臓の穴がふさがらないことが挙げられます。穴がふさがらない理由は、はっきりわかっていません。
子どもの頃は症状がみられないことが多く、乳児健診で心雑音を指摘されたり、学校検診で心電図異常があったりしてみつかることもあります。
中には病気がわからないまま成長し、大人になってから発見され治療をおこなうケースもあります。
穴が小さければ自然にふさがることもあるため、子どもの頃に見つかると経過観察となる場合もあります。しかし10mm以上の穴であればほとんど塞がることはないため、治療が必要です。
子どもの頃に手術をした場合、ほとんどの人が運動などの制限なく日常生活を送っても問題ありません。
しかし大人になるまで長年穴が空いたまま過ごした場合、心臓に負担がかかり心臓の動きが悪くなったり、肺高血圧症になったりしていることが多いといわれています。
40歳をこえると心房細動や心房粗動などの命にかかわる不整脈が出現することや、脳梗塞を起こすこともあります。放置している期間が長くなればなるほど、命の危険に関わる病気が出現する可能性が高まります。
大人になり定期健診等で心雑音や心電図異常がみつかった場合には、症状がなくても循環器内科等の専門医を受診し必要であれば治療を受けましょう。
心房中隔欠損症の原因
心房中隔欠損症は生まれつき心房に穴が開いている病気であり、原因は明らかではありません。
母親のお腹の中にいたころには、心房中隔には誰もが卵円孔と呼ばれる穴が開いています。胎児のときには、母親から酸素を多く含む血液が胎盤を通して送られます。胎児期の卵円孔は母親から血液が送られてくる大事な穴ですが、産まれてその役割を果たすと自然に閉じるとされています。しかし心房中隔欠損症では出生後も卵円孔が穴としてそのまま残ってしまいます。
心房中隔欠損症は穴が開いている位置によって4つに分けられます。卵円孔の位置に穴が開いているパターンが全体の75%を占め、残りの3つは卵円孔以外の位置に穴が存在します。
心房中隔欠損症の前兆や初期症状について
心房中隔欠損症の多くは、子どもの頃は無症状で経過することがほとんどです。
病気に気づかずに大人になり成人期・中年期にさしかかると、しだいに自覚症状が現れます。症状は動悸や息切れ、疲れやすさなどです。
また穴の大きさによって、症状の程度や出る時期が異なります。
穴が小さいと穴を通る血液の量は少ないため、肺への血液量は増えず、症状はほどんどありません。
穴が大きければ穴を通る血液の量が増えるため、肺への血液量も増えて肺への負担が大きくなります。そのため子どもの頃から息切れや疲れやすさなどの症状が出ることもあります。
病状が進むと下記のような合併症が出現することがあります。
心房中核欠損症の合併症
- 心不全
心臓は肺と全身に血液を送り出すポンプのはたらきがあります。通常血液は、左心室→全身→右心房→右心室→肺→左心房→左心室の順に流れています。
心房中核欠損症がある場合、左心房が右心房より圧が高いため、心房中隔の穴を通って左心房から右心房、右心室へ流れる通常とは異なる血液の流れが生じます。これに対応するために右心房と右心室の部屋が大きくなり、大きくなった心臓は風船のゴムが伸びきったような状態となります。そしてポンプのはたらきが弱くなり心不全を起こします。
- 不整脈(脈の乱れ)
心臓が大きくなり心臓の壁の筋肉が伸びきると、心臓の電気信号の伝達に異常がおき、心房細動や心房粗動などの不整脈が出現します。
- 心臓の弁の病気
心臓の4つの部屋には、それぞれドアのようにはたらく「弁」があります。心房から心室に流れた血液が、逆流しないようにする弁が三尖弁と僧帽弁、心室から動脈に流れた血液が逆流しないようにする弁が肺動脈弁と大動脈弁です。
心房中隔欠損症では通常の血液の流れと異なる流れが生じます。正常に弁が閉じなくなることで逆流を起こしてしまう心臓弁膜症を引き起こすことがあります。
- 肺高血圧症
心房中隔欠損症では、左心房から右心房・右心室へ血液が流れるため、肺に流れる血液量が増えます。重症になると心臓から肺へ血液を送る肺動脈の圧が高くなる、肺高血圧症と呼ばれる病気になります。
心房中隔欠損症の検査・診断
聴診所見、心電図、胸部X線検査などで異常がみつかった場合、心疾患が疑われます。
さらに循環器を専門にする病院で、心臓超音波検査(心エコー)を受ければ確定診断がつきます。治療の適応に迷う場合や合併症が疑われる場合には、心臓カテーテル検査もおこないます。
心電図
洞調律とよばれる正常な波形であることが多いですが、中年以降は心房細動などの不整脈がみられる場合があります。
胸部X腺検査
右心房、右心室を流れる血液量が増えるため、右心室の拡大がみられます。
心臓超音波検査(心エコー)
穴の大きさや形、位置などを正確に確認します。また右心房・右心室の肥大や弁の異常などもくわしく観察することができます。
心臓カテーテル検査
40歳を超えると、心臓の筋肉に酸素や栄養を運ぶ冠動脈と呼ばれる血管が狭くなっている可能性があるため、心臓カテーテル検査をおこないます。心臓や血管の形や血液の流れなど、心臓の状態をくわしくみることができます。
心房中隔欠損症の治療
心房中隔欠損症の治療には、カテーテル治療と外科手術があります。
穴が小さい場合(5mm未満)は自然に閉じることもあり、しばらく経過観察となる場合もあります。心不全になっていればすぐに手術が必要ですが、無輸血開心術が可能な4〜6歳に手術をおこなうのが一般的です。
カテーテル治療
穴が小さい場合は、カテーテルと呼ばれる細長い管を使って心房の穴をふさぐ治療をおこないます。
具体的には、太もものつけ根の太い血管から心臓(左心房)までカテーテルを入れて、折りたたみ傘のような形をした装置(閉鎖栓)を穴のところでずれないよう確認しながら広げ、穴を閉じます。
外科手術
穴が大きい場合や穴が空いている位置によってはカテーテル治療が難しいため、手術をおこないます。また心房中隔欠損症以外に一緒に手術した方がよい、その他の心臓病がある場合も手術の適応となります。
手術には2種類あり、①心臓を開き穴にパッチというあてものをする方法、②直接心臓の穴を縫って閉じる方法があります。
手術中は心臓の動きを止める必要があるので、人工心肺とよばれる心臓と肺の役割を果たしてくれる装置を使用します。
穴が大きい場合は穴を通る血液の量が多くなり、心臓に負担がかかりさまざまな合併症をおこすため、症状がなくても見つかったら早めに治療します。
心房中隔欠損症になりやすい人・予防の方法
生まれつきある心臓の病気であるため、予防はできません。
子どもの頃は無症状で経過することが多く、気づかないまま大人になることもあります。
健康診断等で心雑音や心電図の異常を指摘された場合には、必ず循環器内科等の専門医を受診しましょう。