監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
拡張型心筋症の概要
拡張型心筋症(DCM:Dilated cardiomyopathy)は、心臓の収縮機能が低下し、左心室(心臓の左下の部屋)が拡張する病気です。
心臓の壁を構成している筋肉の構造や機能が障害される病気のことを「心筋症」といい、主な病型には以下の3つがあります。
- 拡張型心筋症
- 肥大型心筋症
- 拘束型心筋症
心臓は、収縮と拡張を繰り返すことで全身に血液を送り届けています。拡張型心筋症になると、心臓の筋肉が収縮する能力が低下し左心室が拡張するため、全身に十分な血液を送り出すことが難しくなります。
その結果として、心不全を引き起こす可能性があります。
厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例 統計表 年度報」によると、拡張型心筋症の患者数は18,234人とされています。
この病気は子どもから高齢者までの幅広い年齢層で発症する特定疾患(難病)に指定されています。重症化を防ぐために、早期の診断と適切な治療が重要です。
拡張型心筋症の原因
拡張型心筋症の主な原因は、次のとおりです。
- 遺伝的な要因
- ウイルス感染症
- 自己免疫疾患
拡張型心筋症の原因は、完全には解明されていない部分も多いのが現状です。また複数の要因が絡み合って発症することもあります。
遺伝的な要因
拡張型心筋症の主な原因は遺伝的な要因であり、その割合は約20〜40%といわれています。
心筋の細胞の一部であるタンパク質の遺伝子変異によって発症します。
親が拡張型心筋症の場合は、子どもの遺伝子検査が推奨されます。反対に、先に子どもの拡張型心筋症が見つかった場合は、家族が検査を行うこともあります。
ウイルス感染
ウイルス感染が心筋に影響を及ぼし、心臓の筋肉が拡張してしまうことがあります。
一部のウイルスが心筋に感染し炎症を起こすことで、時間とともに筋肉が拡張して収縮力が低下するためです。
例えば、コクサッキーウイルスやアデノウイルス、C型肝炎ウイルスなどが拡張型心筋症を発症する原因となることがあります。
このようなウイルス感染による拡張型心筋症は「心筋炎後拡張型心筋症」と呼ばれます。
自己免疫疾患
自己免疫疾患が心筋に影響を与え、拡張型心筋症を引き起こす場合もあります。
自己免疫疾患では、体の免疫システムが誤って心筋を攻撃し、炎症を引き起こすことがあります。その結果、心臓のポンプ機能が正常に機能しなくなり、心不全に至る恐れがあります。
自己免疫による拡張型心筋症の場合は、免疫吸着療法が期待できるため早めの受診が大切です。
拡張型心筋症の前兆や初期症状について
拡張型心筋症の前兆や初期症状は、自覚しにくいことが多いです。
心臓のポンプ機能が低下して、十分な血液を全身に送り出せなくなることで次のような症状が現れることがあります。
- 息切れ
- 倦怠感
- 動悸
- 胸の圧迫感
これらの症状は、始めのうちは、歩いたり階段を登ったりなど何らかの動作をしたときにのみに感じられますが、症状が進行すると安静にしていても感じるようになります。
また、心臓の機能低下によって体内に水分が溜まることで発生する足や足首の浮腫(むくみ)も初期症状の一つです。
さらに、症状が進行すると不整脈が現れることもあります。心室頻拍(通常よりも脈が早くなる)は急死のリスクを伴うため、早めに症状を認識して医師に相談することが重要です。
適切な診断と治療が進行を抑える鍵となります。
拡張型心筋症の検査・診断
拡張型心筋症の検査・診断は「心内腔の拡大(心室の壁厚が増し内腔が狭くなること)」と「収縮不全(うまく収縮できなくなること)」を特徴とする心筋疾患のうち、ほかの原因である心筋症を除くことです。
具体的には、次のような検査で冠動脈疾患や高血圧、弁膜症、先天奇形ではないことを確認します。
検査 | 特徴 |
---|---|
胸部X線検査 | 心臓の大きさや肺うっ血の所見がないかを確認 |
心電図検査 | ・不整脈の評価 ・ホルター心電図といって24時間心電図を測定する検査を実施 |
血液検査 | BNPと呼ばれる項目を測定して心不全の状態を評価 |
心エコー検査 | 左心室の内腔の拡大がないか、うまく収縮の機能が働いているかを確認 |
心臓カテーテル検査 | ・狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患がないかを確認 ・心筋生検といって心筋の一部を採取して顕微鏡で検査 |
心筋シンチグラフィー | 心筋血流SPECT検査で虚血性心疾患はないかを確認 |
心臓MRI(磁気共鳴画像)検査 | 心臓の形態を評価 |
参考:心筋症ガイドライン|日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
拡張型心筋症の最終的な診断は、これらの検査結果を総合的に判断し専門医によって確定されます。
拡張型心筋症の治療
拡張型心筋症の治療は、症状の緩和と病気の進行を抑えることが目的です。
治療の基本は薬物療法であり、β遮断薬やACE阻害薬、利尿薬が一般的に使用されます。これらの薬は心臓の負担を軽減し、心不全の症状を改善する効果があります。
さらに、症状が進行した場合には、心臓のリズムを整えるために抗不整脈薬やペースメーカーの装着が推奨されることもあります。
拡張型心筋症の重症例では、心臓の機能を補助するために左室補助装置(LVAD)を使用したり、最終的には心臓移植が必要となる場合もあります。
また、拡張型心筋症の治療には、生活習慣の改善が不可欠です。
具体的には、塩分や水分の摂取制限、禁煙、適度な運動を医師の指示のもとで行います。
定期的な医師の診察と心臓リハビリテーションを実施することで、病気の進行を抑え、生活の質の向上を目指します。
拡張型心筋症になりやすい人・予防の方法
家族に拡張型心筋症の既往がある場合は遺伝的要因が関与しているケースがあり、発症リスクが高まると考えられます。
また、ウイルス感染による心筋のダメージや過度なアルコール摂取もリスクを増加させる要因です。
さらに、高血圧や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病を持つ人も、拡張型心筋症を発症しやすい傾向があります。
予防には、まず健康的な生活習慣を維持することが不可欠です。適度な運動やバランスの取れた食事、禁煙、適度な飲酒が推奨されます。
また、家族歴がある場合は定期的な健康診断を受け、心臓に負担をかける習慣を避けることが重要です。