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虚血性心疾患
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

虚血性心疾患の概要

冠動脈(心臓に栄養や酸素を含む血液を送りこむ血管)が狭くなったり閉塞したりして、心臓に血液が行き渡らなくなってしまう「心筋虚血」のために発生します。突然死など、命に関わる病気です。
心臓に血液が届かないと、必要としている酸素や栄養素が不足して心筋が壊死してしまったり、心筋の収縮力が弱まったりして症状が起こります。心筋虚血によって起こった心不全を「虚血性心不全」といい、心筋虚血のために心室細動などの不整脈を引き起こすこともあります。症状が続くと命の危険もあるため、なるべく早い冠動脈の血流回復が大切です。

虚血性心疾患の原因

虚血性心疾患には、血管が詰まって起こる心筋梗塞と、血管が一時的に狭くなって血流量が低下する狭心症があります。どちらも冠動脈の動脈硬化が原因です。

心筋梗塞

主に動脈硬化によって冠動脈を含む心臓の血管に血栓が生じ、血管が詰まって流れなくなってしまうために心筋細胞が壊死して起こります。心筋細胞が壊死すると心臓壁の動きが悪くなり、血液を身体に送り出すポンプ機能が低下してしまいます。
心筋梗塞が起こった直後は心臓の動きが弱っているため、できるだけ安静にして心臓への負担をかけないことが大切です。

狭心症

動脈硬化や血栓によって心臓の血管が狭くなり、血流が低下して心筋細胞に必要な酸素や栄養が届きにくくなるために起こります。狭心症は主に以下の3種類に分けられます。

安定狭心症
労作性狭心症とも呼ばれ、動脈硬化によって冠動脈が狭くなり生じます。
不安定狭心症
プラークが冠動脈の狭窄部位に存在し、心筋梗塞の前段階となっている状態です。
冠攣縮性狭心症
冠動脈の痙攣によって一時的な狭窄が起こって生じます。安静時に発症すること、発作以外のときは血管に狭窄が確認できないことが特徴です。

激しく運動したり、強いストレスがかかったりすると、一時的に胸周辺が締め付けられる痛みなどの症状が現れることがあります。症状は数分で治まりますが、段々悪化してくるためなるべく早めの対応が必要です。

最近では、不安定狭心症と心筋梗塞を合わせて「急性冠症候群」と呼ばれることがあります。

虚血性心疾患の前兆や初期症状について

心筋梗塞も狭心症も、胸が締め付けられるような痛みや圧迫感が起こります。痛みを感じる場所は胸だけではなく、みぞおちや肩、背中、お腹、首、歯、喉などさまざまです。
狭心症の場合は1~5分、長くても15分ほどすると症状は落ち着きます。しかし、心筋梗塞の場合は20分以上、長ければ数時間に渡って痛みが続くことがあります。
狭心症であれば、ニトログリセリンの舌下服用ですぐに症状が治まります。

糖尿病の患者さんは、神経障害の影響で感覚が鈍っているため症状を感じないこともあります。心電図などの検査で発見される無症候性の虚血性心疾患であり、注意しなければなりません。

虚血性心疾患の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、循環器内科です。虚血性心疾患は心臓への血流が不足する疾患であり、循環器内科で診断と治療が行われています。

虚血性心疾患の検査・診断

虚血が起こっている部分は心臓のどこかを調べるための検査、心筋壊死の有無を調べる検査が主に行われます。

心電図

虚血性心疾患を調べるための確実性の高い簡便な検査です。梗塞を起こした部位に虚血性の変化が現れます。狭心症の場合、症状が出ているときでないと心電図の変化を捉えられません。また、症状がない無症候性の虚血性心疾患の場合も心電図で発見できることがあります。
心筋虚血を誘発するために運動しながら心電図を記録する運動負荷心電図、24時間連続で記録するホルター心電図などが行われる場合もあります。

画像検査

心臓超音波検査、心筋シンチグラム、MRIなどで虚血がある部分や心筋の収縮力の度合いなどを調べます。冠動脈のどこに病変があるか調べる場合は、冠動脈CTや冠動脈カテーテル造影検査を行います。

血液検査

血液マーカーと呼ばれる、壊死した心筋から出てくる細胞内の成分を測定します。虚血性心疾患のマーカーとしてはCK、AST、 ALTや心筋トロポニン、ミオグロビンなどがあります。

虚血性心疾患の治療

狭くなっている、または詰まっている冠動脈を広げて血液が流れるようにする治療が主な方法です。心筋梗塞が起こっている場合は、症状発生から時間が経つにつれて心不全の合併リスクが高まるので早急な治療が必要です。
最初に薬物療法を行って症状の改善を図りますが、効果が今一つと判断された場合は冠動脈に対して処置が行われます。そのほか、心臓の筋肉の動きを改善するリハビリ、食事など生活習慣指導も行われるときがあります。

薬物治療

血管を拡げて血液の流れを確保する薬、LDLコレステロールの増加を抑制して動脈硬化の進行を抑える薬、血液が固まりにくくする薬などを用います。心臓の負担を減らす目的で行われ、狭心症の基本的な治療法です。

冠動脈カテーテル治療(PCI)

冠動脈の狭い部分にカテーテルを挿入してバルーンによって拡げる方法です。手足の付け根から治療目的の部分までカテーテルを挿入し、バルーンで狭窄した血管を拡張します。また、ステントという器具を入れて固定する方法もあります。局所麻酔で行われ、患者さんの身体の負担は少なく済む方法です。
この治療の後は血液が固まりにくくなる薬(抗血小板薬)を飲んで、血栓の発生を防ぎます。

時間の経過と共に治療した狭窄部分が再度狭くなってくることがあり、糖尿病、慢性腎臓病の患者さんはリスクが高いと言われています。さらに、病変の状態によってはPCIが難しいことがあります。

冠動脈バイパス手術(CABG)

カテーテル治療が難しいほど症状が重かったり、カテーテル治療を行っても再発を繰り返すときは冠動脈バイパス手術が行われます。冠動脈の狭くなった部分より先の部分に小さなメスで穴を開け、取っておいた自分の血管に存在する血管を縫い合わせ、冠動脈の血流を改善させる治療です。
全身麻酔で行う手術であり、術後は合併症に気を付ける必要があります。

虚血性心疾患になりやすい人・予防の方法

原因から考えると、冠動脈に動脈硬化を起こしやすい人が虚血性心疾患になりやすいと言えます。虚血性心疾患は生活習慣病の一部であり、生活習慣の改善は予防に有効です。

なりやすい人

虚血性心疾患の4大リスクとして、

  • 喫煙
  • LDLコレステロール高値
  • 高血圧
  • 糖尿病

が挙げられています。
また、メタボリックシンドロームに該当する人も高リスクに該当します。
これらの条件に当てはまる方は、虚血性心疾患の予防のためにも改善が望ましいでしょう。

虚血性心疾患は生活習慣とも密接に関係しており、

  • 飽和脂肪酸の過剰摂取
  • 過度の飲酒
  • 塩分の摂り過ぎ
  • 運動不足
  • ストレス

などもリスク因子となります。

予防法

健康診断や人間ドックでLDLコレステロール高値や高血圧を早めに発見し、改善に取り組むことは大変に重要です。

  • 日常の中等度な運動(1回30分以上、週3~4回)
  • 食事制限(塩分、脂肪、アルコールの制限)
  • 禁煙
  • 適度な休息

といった生活習慣を心がけることも虚血性心疾患の予防につながります。

また、魚や野菜、大豆製品の摂取は虚血性心疾患の予防効果があると言われています。日常の食生活に積極的に取り入れましょう。

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