

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
脳室内出血の概要
脳室内出血(のうしつないしゅっけつ)とは、「脳室」と呼ばれる、脳の内部にある脳脊髄液で満たされた空間に血液が漏れ出した状態です。
脳の実質組織内に出血する「脳出血(脳内出血)」や、脳を包むくも膜下腔に血液が流れ込む「くも膜下出血」とは症状や治療方針が異なり、通常は区別されます。(動脈瘤破裂や外傷などの発症理由によっては上記が併発することはあります。)
脳室内出血は、新生児から高齢者まで幅広い年齢で発生する可能性があり、原因や症状は年齢によって異なります。出血の程度によっても症状は変わり、小さな出血では軽い症状だけのこともありますが、大量の出血では意識が急速に低下し、生命が危険にさらされることもあります。
脳室内出血の診断には、成人では頭部CT検査、新生児では経頭蓋超音波検査が用いられます。治療は患者の状態安定化と脳圧上昇への対処、原因疾患への対応が基本です。
予防には、成人では高血圧の管理、適切な生活習慣の維持が重要です。新生児では早産予防や出生後のNICUでのケアが発生率低減につながります。
脳室内出血の原因
脳室内出血は年齢によって原因が大きく異なります。
新生児の場合
早産で生まれた赤ちゃんでは、脳の発達が未熟なことが主な原因となります。出生体重が1,500g未満の極めて低い出生体重の赤ちゃんに発生しやすい傾向があります。また、未熟児では脳の血流を自動調節する機能も十分に発達していないため、血圧や血流の急な変化によって出血しやすい特徴があります。
参考:未熟児脳室内出血と出血後水頭症の周術期管理//脳神経外科ジャーナル/22巻/2013年/4号/p.276-282
小児の場合
新生児期を過ぎた小児では脳室内出血は、基礎疾患が原因です。脳の血管の形が先天的に異常な「脳動静脈奇形」や「脳腫瘍」、血液が固まりにくい「血液凝固異常」などが代表的です。事故などによる頭部の強い打撲でも脳室内に出血することがあります。
成人の場合
成人の脳室内出血は、ほかの脳卒中に伴う「二次性」のものが多いです。高血圧が原因となる脳出血が脳室に破れ込むケースが多く、中高年で起こる脳室内出血の大半を占めるとされます。高血圧性の出血が起きやすい部位は脳室に隣接しているため、出血が脳室へ広がりやすいためです。
そのほか、「脳動脈瘤」の破裂によるくも膜下出血や脳腫瘍からの出血も原因となることがあります。
脳室内出血の前兆や初期症状について
脳室内出血は突然発症することが多いため、明確な前兆はあまりないのが特徴ですが、いくつかの初期症状があります。
新生児や幼児の場合
新生児や乳児では、軽度の出血であれば症状が目立たないこともあります。重度になると、元気がなくなる、呼吸が不安定になる、手足がぴくつくような痙攣(けいれん)を起こす、泣き声が弱くなる、ミルクの飲みが悪くなるなどの変化が現れることがあります。頭頂部の柔らかい部分(大泉門)が膨らむこともあります。
成人の場合
成人の場合、高血圧による頭痛が続いた後に突然の激しい頭痛や嘔吐が起こります。また、意識がぼんやりして反応が鈍くなったり、言葉がうまく話せなくなったりすることもあります。脳内出血に伴う脳室内出血では、手足の麻痺やしびれなどの症状が先に現れ、その後に意識障害が悪化しやすいです。出血が脳室内に限局している場合は、麻痺などの症状がなく、意識障害だけが主な症状となることもあります。
脳室内出血の検査・診断
脳室内出血が疑われる場合、画像検査による迅速な診断が最も重要です。年齢や状況によって最適な検査方法が異なります。
頭部CT検査
頭部CTは、出血した血液は画像上で白く映るため、脳室内の出血を即座に確認することができます。急性期の脳出血はMRIよりCTのほうが発見しやすいため、救急の現場ではCTが優先されます。検査で脳室内に血液が認められれば脳室内出血と診断され、出血の広がりや水頭症(脳脊髄液の流れが滞って脳室が拡大する状態)の有無も同時に評価されます。
経頭蓋超音波検査
新生児や乳児では、頭蓋骨がまだ薄く柔らかいため、経頭蓋超音波検査が第一選択です。超音波で出血が確認されると、重症度(1度~4度)が評価され、治療方針の決定に役立てられます。
頭部MRIや脳血管造影
脳室内出血の原因を特定するため、CTで明らかな出血源が見当たらない場合や、もやもや病(脳の血管が細くなる病気)や血管奇形などの基礎疾患が疑われる場合には、頭部MRIや脳血管造影が行われます。脳動脈瘤(脳の血管の一部が膨らんだ状態)や脳動静脈奇形、脳腫瘍などの存在を詳しく調べることができます。
脳室内出血の治療
脳室内出血では、まず患者の全身状態を安定させる集中治療が優先されます。さらに、脳室に溜まった血液の治療を行い、状態が安定すればリハビリテーションを行います。
急性期全身管理
成人の場合、意識障害があれば気道確保や人工呼吸管理を行い、脳圧を下げるために頭位挙上や鎮静が実施されます。高血圧が原因の出血では、降圧薬で血圧を厳格に管理します。
未熟児の脳室内出血では新生児集中治療室(NICU)での専門的管理が基本です。多くの場合は外科的介入を行わず自然回復を待ちますが、出血後に水頭症が発生したときは、体重や全身状態に応じて脳脊髄液排出や脳室腹腔シャント術(脳室から腹部へ脳脊髄液を流す手術)などの処置が検討されます。
脳室ドレナージ術
脳室内に血がたまって脳脊髄液の流れが詰まると、水頭症と呼ばれる状態になります。水頭症の場合、頭蓋骨に小さな穴を開けて脳室内に細い管を挿入し、余分な脳脊髄液や血液を体外に排出する脳室ドレナージ術が行われます。ドレナージによって脳室の圧力が下がり、命に関わる合併症を予防できます。
内視鏡手術
内視鏡手術では小さな開頭創から内視鏡を挿入し、モニターで確認しながら脳室内の血の固まりを吸い出します。限られた施設で行われる高度な治療法です。
原因疾患の治療
脳動脈瘤、もやもや病、や脳動静脈奇形といった血管の異常が原因の場合、治療するための動脈瘤クリッピング術やコイル塞栓術などが検討されます。高血圧性の脳出血であれば、継続的な降圧療法による再出血予防が重要です。
リハビリテーション療法
急性期治療が落ち着いた後は、機能回復のためのリハビリテーションをおこないます。出血によって生じた麻痺や言語障害、認知機能の問題を改善します。新生児の重度脳室内出血では、早期からの発達支援型リハビリを行います。
脳室内出血になりやすい人・予防の方法
脳室内出血のリスクは年齢層によって異なります。リスクが高いのは早産の低出生体重児、特に出生体重1,500g未満の赤ちゃんです。予防のために母体へのステロイド薬投与や出生後のNICUでの血圧維持、体温管理などの細心のケアがおこなわれます。
小児期以降では血友病などの血液凝固異常症、もやもや病や脳動静脈奇形といった脳血管の先天異常がある場合にリスクが高まります。先天異常が診断された際には早期に治療介入を行い、出血リスクを下げることが重要です。
成人では高血圧症のコントロールが不十分な人、糖尿病や脂質異常症、喫煙習慣のある人が高血圧性脳出血を起こしやすく、脳室内出血のリスクも高まります。脳動脈瘤を持つ人や抗凝固薬を内服中の高齢者も注意が必要です。
予防の基本は高血圧の管理です。塩分控えめの食事、適度な運動、禁煙、過度の飲酒を避けるといった生活習慣の改善と、医師の指導のもとでの降圧薬の服用が大切です。
参考文献
- 未熟児脳室内出血と出血後水頭症の周術期管理//脳神経外科ジャーナル/22巻/2013年/4号/p.276-282
- 小児によく見られる脳卒中:特徴と原因疾患/脳卒中/36巻/2014年/2号/p.96-98
- 原発性脳室内出血の臨床的検討/脳神経外科ジャーナル/9巻/2000年/10号/p.672-678
- 脳血管障害における脳室内出血の病態と予後について/Neurol Med Chir(Tokyo)/22巻/1982年/p.822-828
- 脳室内出血を主体とする破裂脳動脈瘤の治療/脳卒中の外科/42巻/2014年/6号/p.447-452
- 脳室内出血における内視鏡下血腫除去術の有用性/脳卒中の外科/41巻/2013年/6号/p.411-415