

監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
目次 -INDEX-
頭蓋骨縫合早期癒合症の概要
頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)は、新生児の頭蓋骨のつなぎ目(縫合線)が通常よりも早く閉じてしまう(癒合してしまう)疾患です。
新生児の頭蓋骨は、乳児期の脳の急速な発達(体積増加)に備えた柔軟な構造をしています。比較的やわらかな頭蓋骨は数枚に分割されており、それらの間には「縫合線」と呼ばれるつなぎ目構造が存在します。
この縫合線が、骨の発達とともに徐々に閉じていくことで、生後1年で脳の体積が約2倍になるような急速な発達を、適切にサポートすることができます。しかし、頭蓋骨縫合早期癒合症によって縫合線が早期に閉まることで、頭の形状に異常を生じたり、場合によっては頭蓋内圧の上昇などの問題を招いたりすることがあります。
頭蓋骨縫合早期癒合症は比較的まれな疾患で、頭蓋のみに異常が見られる「非症候群性」と、顔面や手足にも異常をきたす「症候群性」に大別されます。非症候群性では明確な発症原因は突きとめられていませんが、症候群性では遺伝的要因により発症リスクが判明しているものもあります。
複数ある縫合線のうち、どの縫合線が閉じるかによって頭の形状が変わる可能性があります。特徴的な外見の変化が診断の手がかりとなることもあります。
頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は主に外科的手術によっておこなわれます。
正常な頭の発達を促すため、また頭蓋内圧上昇による合併症を予防するために、早期発見と適切な治療が重要となる疾患です。

頭蓋骨縫合早期癒合症の原因
頭蓋骨縫合早期癒合症の原因は、非症候群性と症候群性によって異なります。
非症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症
非症候群性は遺伝との関連性は低いとされていますが、明確な原因は特定されていません。
一般的に1つの縫合線だけが閉じているケースが多く、頭蓋骨の変形は見られるものの頭蓋内圧上昇による症状は現れにくいとされています。
症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症
症候群性は遺伝子変異が関与しているケースが多いと考えられています。とくに「クルーゾン症候群」や「アペール症候群」「ファイファー症候群」などの症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症は、特定の遺伝子変異が原因とされています。
症候群性は複数の縫合線が閉じていることが多く、頭蓋内圧の上昇によるさまざまな症状を招く可能性があるため、外科的治療を要する場合も少なくありません。
遺伝子変異が特定されている症候群性のケースでも、詳細な発症メカニズムに関しては研究段階にあり、さらなる解析が求められています。
頭蓋骨縫合早期癒合症の前兆や初期症状について
頭蓋骨縫合早期癒合症の症状は、閉じてしまう縫合線の位置や数、さらに非症候群性か症候群性かによって異なります。
非症候群性と症候群性に共通している症状
一般的な前兆は赤ちゃんの頭の形の異常です。たとえば、矢状縫合(縦の縫合線)が早期に癒合すると頭が前後に長い舟状頭(しゅうじょうとう)となり、冠状縫合(横の縫合線)が片側だけ早期癒合すると頭が斜めに傾いた斜頭症(しゃとうしょう)になります。
両側の冠状縫合が早期に癒合すると頭が前後に短い短頭症(たんとうしょう)になり、前頭縫合(頭の前側の縫合線)が早期に癒合すると三角頭(さんかくとう)と呼ばれる形状になりやすいことが知られています。
非症候群性、症候群性ともに縫合線が閉じる時期や数によっては頭蓋内圧が上昇し、それによって脳の発達に影響が出ることがあります。
新生児や乳児では哺乳力が低い、活気がないなどの様子がみられ、年長児では頭痛や視力低下、発達や言葉の遅れ、多動などの問題が生じることがあります。
非症候群性
非症候群性は頭の形の異常が主な症状で、通常は1つの縫合線だけが早期に閉じており、頭蓋内圧の上昇や随伴症状がみられるケースは、あまり多くないとされています。
症候群性
症候群性の場合は頭の形の異常に加えて、顔や手足にも特徴的な症状が認められるケースが知られています。
たとえばクルーゾン病では目が飛び出して顔の中心部が凹んだように見え、鼻が鷲のようになり下あごが前に出ます。アペール症候群ではこうした顔の特徴に加えて、手や足の指がくっついています。ファイファー症候群では親指の形が特徴的に変わります。
頭蓋骨縫合早期癒合症の検査・診断
頭蓋骨縫合早期癒合症は、赤ちゃんの頭の形や特徴的な顔貌の観察、頭部の画像検査によって診断します。
視診
視診では頭の形状や大きさ、対称性などを観察します。頭囲の成長が標準より遅い場合や、大泉門が早期に閉じている場合は頭蓋骨縫合早期癒合症を疑うきっかけになります。
画像検査
画像検査では頭部のX線検査やCT検査、MRI検査などによって頭蓋骨の形状や縫合線の状態を確認します。
頭蓋骨の立体的な構造を詳細に観察でき、どの縫合線が早期に閉じているのか判断できます。また、頭蓋内の状態も確認できるため、脳の圧迫状による合併症の有無も評価できます。
頭蓋骨縫合早期癒合症の治療
頭蓋骨縫合早期癒合症は、頭蓋を拡大して脳の成長のための十分なスペースを確保し、頭蓋内圧の正常化を図ることを目的として、外科的手術を中心に治療します。
手術の時期は脳が急速に成長する乳児期におこなうことが望ましいですが、頭蓋内圧亢進がある場合や呼吸障害がある場合などは、より早く手術する場合があります。
手術方法の基本的な方法は、早期癒合した縫合線を切除する「縫合切除術」です。
ほかにも、頭蓋骨を分割して再構築する「頭蓋形成術」や、骨延長器を用いて頭蓋骨を徐々に拡大する「骨延長術」などがあります。
顔面や手足の症状が出ている場合は、それらに対する手術が必要となる場合もあります。
頭蓋骨縫合早期癒合症になりやすい人・予防の方法
頭蓋骨縫合早期癒合症のリスクや予防法は、現在のところ解明されていません。
非症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症は、胎児期の子宮内環境が関連している可能性が示唆されていますが、明確なリスク因子は特定されていないのが現状です。
症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症は、遺伝的要因が関与していることが知られており、クルーゾン症候群やアペール症候群、ファイファー症候群は特定の遺伝子変異が原因とされています。
この場合、家族歴がある人は発症のリスクが高い可能性があるといえるため、今後の出産計画などについての情報提供や支援を受けることをおすすめします。
現時点では、頭蓋骨縫合早期癒合症の発症を予防する方法は確立されていませんが、脳の正常な発達を促し合併症を予防するためには、早期発見や早期治療が重要です。
赤ちゃんの頭の形に異常を感じたり頭囲の成長が遅いと感じたりした場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
関連する病気
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