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外傷性脳内血腫
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)

外傷性脳内血腫の概要

外傷性脳内血腫は、打撲のような頭部への衝撃や外的な圧力が原因で、脳内に出血が生じ血液の塊(血腫)ができる病気です。

日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank,JTDB)の集計によると、2019年1月~2021年12月までの3年間の頭部外傷患者数は86,776名でした。受傷者の年齢層のピークは二峰性で、20代前半と40代から漸増を始めて80代後半にあります。

脳内の出血により、脳の機能に異常をきたし、重篤な場合は命に関わることもあります。多くの場合、24時間以内に止血しますが、周囲の腫れはその後も継続し、意識状態の悪化につながることもあります。

外傷性脳内血腫は、受傷後時間が経過してから症状が重症化することも少なくありません。頭を強く打った場合は、直後に症状がなくても慎重に様子をみて、何らかの症状があるときは速やかに救急外来や脳神経外科を受診する必要があります。

血腫ができる場所や大きさによって、症状や治療方法が異なりますが、いずれの場合も早期の発見と治療が必要です。

外傷性脳内血腫の原因

外傷性脳内血腫の原因は、頭部に強い衝撃(頭部外傷)を受けることです。
頭部外傷の原因で最も多いのが転倒・転落(55.2%)で、交通事故(28.3%)が続きます。また、ボクシング、サッカー、ラグビーなどの激しい接触を伴うスポーツでは、頭部への衝撃により出血が起こることがあります。

道路交通法の改定、道路交通環境の整備、自動車の先進安全技術の導入などに伴い、交通事故による頭部外傷は年々減少傾向にあります。

しかし、65歳以上の高齢者においては、歩行時の転倒や対自動車事故、脚立からの転落事故、自転車による事故による頭部外傷が増加しています。
高齢者は、軽い転倒でも血腫ができることがあります。また、抗血小板薬や抗凝固薬(どちらも血液をサラサラにする薬)を内服している場合が多く、薬剤の作用により止血しにくいため、頭部外傷によって脳内にできた血腫が増大して重症化することがあるので注意が必要です。

外傷性脳内血腫の前兆や初期症状について

頭部に外傷を負うまで、前兆はありません。

初期症状について

外傷性脳内血腫は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことがあります。

頭部外傷により損傷された脳の部位によって症状は変わりますが、一般的には次のような症状が現れることがあります。

  • 頭痛
  • 嘔吐
  • 運動麻痺(特にまっすぐ歩けない、立てない、顔が曲がるなどの半身運動麻痺)
  • 感覚障害(特にびりびりする、触っても感覚が弱いなどの半身のしびれ)
  • 言語障害(言葉が話せない、呂律が回らない、理解できない、会話が成り立たないなど)

意識障害は、受傷してすぐの時点ではなくても、後から悪化する場合があります。血腫の周りの浮腫がはっきりとわかるようになる48〜72時間後に、意識障害(反応が鈍い、目を覚まさないなど)や麻痺、けいれん発作などの症状が明らかになることもあり、放置しておけば最終的には死に至ります。

受診すべき診療科

頭部外傷後は、救急外来または脳神経外科を受診しましょう。

以下のような症状がみられる場合は、意識障害が進行して生命に関わる可能性があるため、速やかに救急車を要請しましょう。

  • 激しい頭痛
  • 気分不快
  • 嘔吐
  • 一時的または継続的な意識障害や麻痺

外傷性脳内血腫の検査・診断

外傷性脳内血腫の検査と診断は以下となります。

検査

外傷性脳内血腫が疑われる場合、頭部CTやMRIなどの画像検査で、出血部位、血腫の大きさ、脳の腫れの状態を確認します。受傷6時間以内は、血腫や腫れが時間とともに変化するため、定期的なCT検査が必要となります。

頭部CT(コンピュータ断層撮影)

一般的な検査方法です。脳内での出血を迅速に確認できます。特に、急性期における脳内の血腫や圧迫の状態を把握するのに有効です。

MRI(磁気共鳴画像法)

脳の詳細な画像を得るための検査で、CTでは確認できない細かい異常を発見することがあります。

診断

外傷性脳内血腫の診断は、病歴の確認、神経学的評価を行ったのち、画像診断によって確定します。

病歴の確認

外傷の有無や外的な衝撃、転倒、交通事故など、脳への外力が加わった状況を確認します。また、頭痛、嘔吐、昏睡、けいれん、麻痺、言語障害などの症状がいつから始まったか、意識障害や記憶喪失、運動や感覚に異常があるかなど、症状の経過を確認します。

神経学的評価

  • 意識レベル: Glasgow Coma Scale(GCS)で意識の状態を評価
  • 運動機能: 麻痺や不随意運動がないかを確認
  • 感覚機能: 感覚障害があるかを確認
  • 瞳孔反応: 瞳孔の大きさや反応を評価

これらにより、脳圧の上昇や神経学的損傷の程度を推測します。脳圧とは、頭蓋内の圧力のことで、高くなると脳に損傷が起こったり最悪の場合は生命に関わります。

画像診断

外傷性脳内血腫の診断において重要なのは、CTやMRIなどの画像診断です。これにより、脳内の出血の位置や大きさ、重症度を評価します。

CT(コンピュータ断層撮影)

外傷性脳内血腫の診断において一般的に使用されます。出血部分は白く、腫れが強いところは黒く映ります。

MRI(磁気共鳴画像法)

血腫の周囲の脳組織の状態などの脳の詳細な評価が可能で、慢性の血腫や微細な損傷を評価する際に有用です。

外傷性脳内血腫の治療

治療は、CT所見や症状、脳圧の状態により、保存的治療または手術の適応が選択されます。

保存的治療

血腫が小さい場合は、保存的治療が選択されることがあります。治療は、脳圧を下げるために脳圧降下薬などを用いた薬物治療が行われます。
また、血腫が自然に吸収されて消失することもあり、入院して経過観察を行うこともあります。

手術

以下のような場合、手術が検討されます。

  • 血腫が大きい場合
  • 血腫が時間の経過とともに拡大がみられる場合
  • 脳圧が上昇している場合
  • 意識レベルの低下など意識障害が進行している場合

手術は、開頭による血腫の除去やドレナージにより脳圧を減少させるなどの方法があります。

外傷性脳内血腫になりやすい人・予防の方法

外傷性脳内血腫になりやすい人および予防の方法は以下となります。

なりやすい人

高齢者

高齢者は、血管が脆くなっているため、軽い衝撃でも脳に影響を及ぼすことがあります。

抗血栓薬を服用している方

薬剤の作用により出血が止まりにくいため、軽度の外傷でも外傷性脳内血腫を発症するケースがあるため注意しましょう。

スポーツ選手

ボクシング、アメリカンフットボール、サッカー、ラグビーなどのスポーツは、頭部に衝撃を受ける機会が多いため注意が必要です。

予防法

外傷性脳内血腫は、転倒・転落や交通事故などで頭部に外傷を負うことで発症します。そのため、可能な限り事故を防ぐことが大切です。

頭部の保護

  • 自動車に乗る際はシートベルトを着用する
  • 幼児にチャイルドシートを使用する
  • 自転車やバイクに乗る際はヘルメットを着用する
  • スポーツを行う際はヘルメットを着用する

転倒・転落の防止(特に高齢者)

  • 家の中に手すりをつける
  • 屋外では杖やシルバーカーを使用する
  • 脚立など不安定なものの使用を制限する
  • 家の中の段差をなくす
  • 筋力やバランスを鍛える運動を行う

交通交通事故の防止

  • 車を運転する際は、交通ルールを守り、安全運転を心がける
  • 歩行中や自転車に乗る際も周囲の安全に十分注意を払う

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