監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
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レックリングハウゼン病の概要
レックリングハウゼン病(神経線維腫症1型)は、遺伝性の病気で、多くの臓器で異常が起こる病気です。約3,000人に1人の割合で発生し、日本には約40,000人の患者がいると推定されています。
(出典:日本皮膚科学会ガイドライン「神経線維腫症 1 型(レックリングハウゼン病)診療ガイドライン 2018」)
レックリングハウゼン病の症状は多岐にわたりますが、代表的な症状として皮膚や神経組織の腫瘍(神経線維腫)と、「カフェオレ斑」と呼ばれる皮膚上の淡い茶色の斑点があります。
レックリングハウゼン病の原因
レックリングハウゼン病は遺伝性の病気で、第17染色体が原因遺伝子です。常染色体優性遺伝で遺伝し、片方の親が遺伝子変異を持っている場合、子どもが同じ変異を引き継ぐ確率は50%です。
しかし、レックリングハウゼン病は遺伝子の変異によって起こるため、両親にレックリングハウゼン病患者がいなくても、発症することがあります。実際、レックリングハウゼン病患者の半数以上は、両親がこの病気をもっていないケースで発症しています。
レックリングハウゼン病の原因遺伝子である第17染色体は、細胞の増殖を抑える役割がある「ニューロフィブロミン」の産生に関わっています。第17染色体に異常があると、ニューロフィブロミンの機能が正常に働かなくなり、細胞の異常増殖が起こることで、多岐にわたる病変が生じると考えられています。
また、細胞はあらかじめ自身を破壊するようにプログラム(アポトーシス)されていますが、遺伝子異常によってアポトーシスも抑制されます。通常はアポトーシスのおかげで細胞内の分泌物が放出されませんが、アポトーシスができずに細胞死した場合、分泌物が放出され、周囲の細胞や組織を傷つけてしまいます。
レックリングハウゼン病の前兆や初期症状について
レックリングハウゼン病は、幼少期からさまざまな症状が現れることが多いです。あらわれる症状は個人差がありますが、典型的なものとして皮膚や骨、神経に関する症状が見られます。代表的な症状は以下のとおりです。
カフェオレ斑
最も早く現れる兆候の一つが「カフェオレ斑」と呼ばれる淡い茶色の斑点です。これらの斑点は、出生時または幼児期に見られることが多く、年齢とともに数が増えたり、大きさが変わったりすることがあります。一般的に、6つ以上のカフェオレ斑が見られる場合、レックリングハウゼン病を疑う要因となります。
神経線維腫
皮膚や皮膚の下に「神経線維腫」と呼ばれる柔らかい腫瘍が発生する場合があります。多くの神経線維腫は良性ですが、稀に悪性化することもあります。また、神経付近に生じることがあるため、神経の圧迫による痛みやしびれなどの機能障害を引き起こすケースもあります。
視神経膠腫
視力の低下や視野欠損を引き起こす可能性がありますが、進行が遅い場合や無症状のことも少なくありません。レックリングハウゼン病患者では、視神経膠腫を小児期に発症することが多いです。視神経膠腫の治療は、症状や腫瘍の進行具合によって異なり、放射線治療や手術が検討されることがありますが、慎重な経過観察が選ばれるケースもあります。
リッシュ結節(虹彩小結節)
虹彩にできる「リッシュ結節」も主な症状です。小さな茶色の斑点で、基本的に視力には影響しません。リッシュ結節は、レックリングハウゼン病の診断基準の一つです。
骨の異常
骨の異常も見られることがあります。脊柱側弯症(背骨が側方に湾曲する状態)や、手足の骨の異常な発達、頭蓋骨の欠損などが挙げられます。また、長骨に偽関節が作られることで、骨が正常に治癒しないこともあります。
レックリングハウゼン病の検査・診断
レックリングハウゼン病の診断は、遺伝子検査または臨床所見をもとに行われます。
レックリングハウゼン病の原因遺伝子が同定されれば、レックリングハウゼン病だと診断されます。もし、同定できなかった場合は、以下の「臨床診断基準」をもとに判断されます。
- 6つ以上のカフェオレ斑(小児なら5mm以上)
- 2つ以上の神経線維腫、または1つのびまん性神経線維腫
- 脇の下や鼠径部の「そばかす」のような色素斑
- 視神経膠腫(視神経に発生する腫瘍)
- 2つ以上のリッシュ結節(虹彩の色素性結節)
- 特定の骨異常(脊柱の変形や頭蓋骨の欠損など)
- レックリングハウゼン病が家族内にいる
また、レックリングハウゼン病の診断後、合併症の有無を確認するために各種検査も行います。合併症は多岐にわたるため、それぞれの専門家の意見をうかがう必要があります。
レックリングハウゼン病の治療
現時点では、レックリングハウゼン病を根本的に治す治療法は存在しませんが、症状の管理や合併症の予防を目的とした治療が行われます。
レックリングハウゼン病の治療は、個々の患者さんの症状や合併症に応じて異なります。症状が多岐にわたるため、検査結果をもとに症状に合わせた治療を行っていきます。以下は、症状や合併症に応じて推奨または検討される治療法です。
びまん性神経線維腫に対するイマチニブ
手術が難しいびまん性神経線維腫(広範囲に広がる神経線維種のこと)に対して、抗がん剤であるイマチニブの使用が検討できますが、長期的な効果はまだ明確になっていません。
イマチニブは、特定のタンパク質の働きを抑え、腫瘍の成長を防ぐ効果が期待されています。動物実験でその効果が確認され、神経線維腫への有効性が報告されました。ヒトを対象にした試験も行われていますが、腫瘍が縮小したのは一部の患者に限られています。長期的な使用による効果や安全性には、さらなる研究が必要とされています。
ADHDに対するメチルフェニデート
ADHD(注意欠陥・多動性障害)を合併したレックリングハウゼン病の患者には、メチルフェニデートが効果的で、推奨されている治療法です。
メチルフェニデートは、脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあり、ADHDの治療に広く使われています。レックリングハウゼン病の患者に対して行った1年間の治療で、有効性が確認されました。ただし、他の病気がある場合は使用できないこともあります。
脛骨偽関節症に対する外科的治療
脛骨偽関節症(すねの内側の骨が頻繁に骨折する病気)治療では、保存療法での骨癒合が難しいため、外科的治療が推奨されています。
年齢や症状によって異なる手術方法が選ばれますが、代表的なものに創外固定や骨移植、髄内釘と骨移植などがあります。手術での骨癒合率は70%以上とされていますが、再骨折のリスクや足関節の機能障害といった問題が残る場合があります。
脊椎変形に対する外科的治療
レックリングハウゼン病の脊柱変形は、dystrophic typeと non-dystrophic typeに分けられます。dystrophic typeは急な曲線や椎体の変形が特徴で、装具での矯正が困難です。そのため、早期の「脊椎矯正固定術」が推奨されています。dystrophic typeの側弯症は、放置すると進行が早いため、悪化する前に手術が必要です。non-dystrophic typeは、変形の進行度に応じて装具治療や手術が検討されます。
レックリングハウゼン病になりやすい人・予防の方法
レックリングハウゼン病は遺伝性の疾患のため、家族に遺伝的要因をもつ人がいる場合、発症リスクが一般より高いと言えます。しかし、家族がレックリングハウゼン病の原因遺伝子をもっていなくとも発症するケースも多いため、一概には言えません。
遺伝性の病気であることから予防は困難ですが、早期発見・早期治療は可能です。具体的には、出生前診断や出生後の検査で、レックリングハウゼン病の有無を確認できます。早い段階で、症状の進行を抑えるための治療が受けられます。