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アルツハイマー型認知症
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

アルツハイマー型認知症の概要

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が減少し、脳が萎縮することで症状が現れる進行性の認知症です。アルツハイマー型認知症は、脳内でアミロイドβという異常なたんぱく質が蓄積し、神経原線維変化が起こることで進行します。

初期には記憶障害が見られますが、病気が進行するにつれて、見当識障害、計算障害、失語、失行、失認などの知的機能の低下が進み、最終的には人格の崩壊や臥床状態になることがあります。

アルツハイマー型認知症には、初老期に発症するアルツハイマー病(AD)と、65歳以降に発症するアルツハイマー型老年認知症(SDAT)の2つのタイプがあります。
いずれのタイプも、神経細胞の脱落、大脳皮質に広がる老人斑、そして神経原線維変化という病理学的特徴を持ち、総称してアルツハイマー型認知症と呼ばれます。
アルツハイマー型認知症の進行はゆるやかですが、早期診断と適切な対応が重要です。

アルツハイマー型認知症の原因

アルツハイマー型認知症の原因は複数の要因が関与していると考えられています。主な原因は、以下のとおりです。

【加齢】
アルツハイマー型認知症の発症リスクは年齢とともに増加します。なかでも65歳以上の高齢者に多く見られます。

【遺伝】
家族性アルツハイマー病という遺伝的なタイプも存在しますが、発症割合は低いとされています。

【生活習慣】
喫煙、不適切な食事、運動不足などの生活習慣の乱れが発症リスクを高めます。

【病歴】
高血圧糖尿病脂質異常症などの基礎疾患があると、脳内にアミロイドβが蓄積しやすくなります。なかでも糖尿病の患者さんは、発症リスクが2.1倍高いとされています。

【教育歴】
教育期間が短い方は、アルツハイマー型認知症を発症しやすいとされています。教育の機会が少ないことが、認知症リスクを高める一因と考えられています。

【頭部外傷と社会的孤立】
頭部外傷や社会的孤立も発症リスクを高めます。これらの要因は脳の健康に直接的な影響を与え、認知症の発症リスクを増加させる可能性があります。

アルツハイマー型認知症はこのような原因が関与しているため、規則正しい生活を送り予防することが大切です。

アルツハイマー型認知症の前兆や初期症状について

アルツハイマー型認知症の前兆や初期症状は、多岐にわたります。

まず、記憶障害が顕著になります。数分前や数時間前の出来事をすぐに忘れてしまうことが増え、同じ内容の話や質問を繰り返すことが多くなります。
また、財布や鍵などの物の置き場所を思い出せなくなることもよくあるとされています。

次に、見当識障害が現れます。日付や曜日がわからなくなったり、通い慣れた場所で道に迷うことが増えます。
また、季節に合った服装を選ぶことが難しくなることも特徴です。これにより、日常生活に支障が出ることがあります。

実行機能障害も初期症状の一つです。仕事や家事の要領が悪くなり、スイッチの消し忘れが増えることがあります。
また、薬をきちんと飲めなくなるなど、複雑な行動が難しくなります。

行動・心理症状としては、イライラする場面が増え、些細なことで腹を立てることが多くなります。
さらに、誰もいないのに誰かがいると主張する幻覚や、自身の物を誰かに盗まれたと主張する物盗られ妄想も見られます。無目的に歩き回る徘徊行動もみられることがあります。

その他の初期症状には、抑うつや不安感の増加があり、これに伴い睡眠障害も発生します。
最近の行動や出来事をよく忘れる一方で、昔の記憶は保たれていることが多いとされています。

これらの症状が見られた場合、まずはかかりつけ医に相談し、その後神経内科や精神科の受診が推奨されます。
アルツハイマー型認知症は緩やかに進行し、個人差が大きいため、早期の対応が重要です。

アルツハイマー型認知症の検査・診断

アルツハイマー型認知症の検査・診断は、まずかかりつけ医に相談し、医師を紹介してもらうことから始まります。
かかりつけ医がいない場合は、自治体の相談窓口や地域包括支援センター保健センターに問い合わせることが推奨されます。

【問診】
問診では、患者さんと家族に対して、異変に気付いた時期、出現している症状、家族構成や生活環境の変化、日常生活で困っている点、病歴や服用中の薬などが質問されます。これらの情報を事前にメモしておくと診断しやすいとされています。

【診察】
診察では、患者さんの健康状態を総合的に評価します。
血圧測定、聴診、聴力検査、発語の評価、歩行状態の確認、精神状態の評価などが行われます。

【検査】
・神経心理検査
詳細な検査として、神経心理検査が行われます。図形を描いたり質問に答えることで認知機能をチェックします。
絵を見せられた後にその内容を思い出す課題では、ヒントを出しても正確に答えることが難しくなります。

・画像検査
画像検査では、頭部MRIや頭部CTを使用して脳の萎縮や脳梗塞の有無を確認します。側頭葉内側の海馬やその周囲の萎縮が見られることが特徴です。
また、アミロイドPET検査では、脳内のアミロイドβを画像化し、その蓄積を確認します。

問診や検査結果をもとに、医師から診断結果が伝えられます。
アルツハイマー型認知症と診断された際には、家族や周囲のサポートが重要となります。

アルツハイマー型認知症の治療

アルツハイマー型認知症の治療は、薬物治療、非薬物治療、終末期ケアの三種類あります。

【薬物治療】
薬物治療は、認知機能を増強する治療行動・心理症状(BPSD)を抑える治療の二つにわかれます。
認知機能を増強する治療では、記憶障害や見当識障害の改善を目指し、コリンエステラーゼ阻害薬や受容体拮抗薬が使われます。

行動・心理症状を抑える治療では、徘徊や抑うつ、妄想などを軽減するために、抗精神病薬や抗うつ薬、睡眠薬などが処方されます。
薬の効果と副作用を観察しながら適切な薬剤が選ばれます。

【非薬物治療】
非薬物治療は、患者さんの自発性を引き出し、脳を活性化させることを目的としています。

運動療法では、有酸素運動や筋力強化訓練を行い、身体機能を維持・向上させます。
認知リハビリテーションでは、音読や計算問題を通じて認知機能を刺激します。
音楽療法では、音楽鑑賞や歌唱、楽器演奏が行われます。
回想法では、過去の話を語ることで認知機能の向上を目指します。
日常生活では、料理や洗濯などの役割を持たせることで、自尊心や自立心を支えます。

【終末期ケア】
アルツハイマー型認知症の診断後、平均生存期間は10年程度とされます。
終末期には肺炎や心疾患、脳卒中などの合併症が多いため、患者さんと家族が穏やかに過ごせるように、緩和ケアやホスピスケアが重要です。

これらの治療とケアは、患者さんの生活の質を向上させるために重要です。

アルツハイマー型認知症になりやすい人・予防の方法

アルツハイマー型認知症になりやすい方の特徴として、神経質で些細なことが気になる方や、短気で他者との交流が少ない方が挙げられます。引きこもりがちでストレスや不安を過度に感じる生活を送っている方もリスクを高めます。
さらに、食生活が乱れている方、運動不足睡眠不足の方の生活習慣も影響します。

予防のためには、バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠が重要です。禁煙節酒、そして知的活動も効果的とされています。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動、音読や計算問題を通じた認知リハビリテーションも推奨されます。
さらに、日常生活での役割を持つことや、他者との交流を増やすことで、脳への刺激を保ち、予防につながります。

アルツハイマー型認知症は早期発見のため、健康診断や認知症のサインに注意することも重要です。

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