

監修医師:
高橋 孝幸(医師)
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国家公務員共済組合連合会 立川病院 産婦人科医長。大阪市立大学卒業後、慶應義塾大学大学院にて医学博士号を取得。足利赤十字病院、SUBARU健康保険組合 太田記念病院、慶應義塾大学病院の勤務を経て、現職。理化学研究所 革新知能統合研究センター 遺伝統計学チーム/病理解析チーム 客員研究員。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。日本産科婦人科学会専門医・指導医。専門は婦人科腫瘍、がん治療認定医、日本産科婦人科学会内視鏡技術認定医(腹腔鏡)、ロボット支援下手術など。診療科目は産婦人科、消化器内科、循環器内科。
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ガードナー症候群の概要
ガードナー症候群とは、家族性大腸ポリポーシスの一型で、大腸に多数のポリープが発生するとともに、消化管の外の骨や皮膚など全身のさまざまな組織にも腫瘍が現れる疾患です。 遺伝性に起こるまれな病気で、FAP全体の有病率は約7,000~2万2,000人に1人ですが、特にガードナー症候群と分類されるケースは100万人に1人程度と報告されています。この症候群では大腸ポリープを放置するとほぼ全例で大腸がんに進行することが知られており、早期発見と対策が極めて重要です。また、大腸以外の部位にも良性腫瘍(骨の骨種や皮膚の嚢胞・線維腫など)が多発する特徴があります。ガードナー症候群の原因
ガードナー症候群は、APC遺伝子(Adenomatous Polyposis Coli遺伝子)の変異によって起こります。APC遺伝子は細胞の増殖を抑制するがん抑制遺伝子で、この遺伝子に先天的な変異があると大腸粘膜の細胞増殖が過剰になり、多数のポリープが生じてしまいます。APC遺伝子は通常は5番染色体の長腕(5q)に存在し、この変異は親から子へ優性遺伝(常染色体優性遺伝)します。片方の親がガードナー症候群の場合、その子どもは50%の確率で変異を受け継ぎます。患者さんの約80%は親から遺伝子変異を受け継いだケース(家族性)ですが、残り約20%では家族歴がなく、新たな遺伝子変異によって発症します。ガードナー症候群の前兆や初期症状について
ガードナー症候群の症状は幼少期から徐々に現れ始めます。多くの場合、小児期から思春期にかけて骨や皮膚に現れる良性腫瘍が最初の兆候となります。例えば、頭蓋骨や顎の骨に骨種と呼ばれるコブ状の骨の腫瘍が現れることがあり、これは大腸にポリープができ始めるより前に生じることが多いと報告されています。 また、歯並びの検査で通常より本数の多い歯(過剰歯)が見つかる場合もあります。皮膚には思春期頃から表皮嚢胞や軟部組織の良性腫瘍(脂肪種、線維腫など)が多発することがあります。これらは痛みなどを伴わないことが多く、自覚症状に乏しい場合もあります。 大腸のポリープそのものは思春期頃から数を増やしますが、初期には症状が出にくく、ポリープが大きくなったり増えたりしてから血便や腹痛などで気付きます。 このような初期症状に気付いた場合は、症状に応じた診療科を受診することが重要です。血便や下痢、腹痛など、大腸の症状があれば消化器内科を受診してください。頭や顎の骨の腫れやしこりに気付いた場合は整形外科や歯科・口腔外科で検査を受けるとよいでしょう。皮膚に多数のしこりができる場合はまず皮膚科を受診するようにしましょう。ガードナー症候群の検査・診断
ガードナー症候群が疑われる場合、診断を確定するために以下のような検査が行われます。これらの検査結果と臨床症状を総合して診断を行います。また、遺伝子検査でAPC遺伝子変異が確認されれば確定診断となりますが、遺伝子結果を待たずとも、大腸に無数のポリープが認められ骨種や皮膚腫瘍など特徴的な所見が揃えば、臨床的にガードナー症候群と診断されます。大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡を挿入して大腸全体を観察し、ポリープの数や大きさを調べます。例えば、大腸内視鏡で数十~数百個ものポリープが見つかった場合、本症である可能性が極めて高く、組織検査や後述の遺伝子検査によって確定診断を行います。遺伝子検査
血液などを用いてAPC遺伝子の変異を調べる検査です。本症に特徴的な遺伝子変異が見つかれば診断が確定します。家族に本症の患者さんがいる場合には、症状が出る前の段階で積極的に遺伝子検査を受けることも推奨されます。上部消化管内視鏡検査
必要に応じて胃や十二指腸の内視鏡検査を行い、これらの部位にポリープや腫瘍がないか確認します。FAPでは十二指腸や胃にポリープができることもあるため、胃腸全体のチェックが推奨されます。画像検査
骨の骨種や腹腔内のデスモイド腫瘍など、消化管以外の病変を評価するためにX線写真やCT、MRI検査が用いられることがあります。例えば頭部のレントゲンやCTで頭蓋骨の骨腫を確認したり、腹部のCT/MRIでデスモイド腫瘍の有無を調べたりします。ガードナー症候群の治療
現在、ガードナー症候群そのものを根本的に治す治療法は存在しません。しかし、大腸ポリープに対する適切な対策を行うことで、大腸がんの発症リスクを大きく下げ、健康な生活を送ることが期待できます。主な治療方針は次のとおりです。外科的治療(手術)
大腸に発生する多数のポリープはやがてがん化するため、予防的に大腸を切除する手術が推奨されます。一般には思春期後半から20代前半の時期にかけて、大腸ポリープの数が増えてきた段階で大腸全摘術や直腸結腸全摘術といった手術が行われます。大腸をあらかじめ摘出しておくことで、将来的な大腸がんのリスクを抑えることができます。術式によっては肛門を温存し小腸と肛門をつなぐ再建手術が行われる場合と、人工肛門(ストーマ)が必要になる場合があります。手術後は排便のしかたが変化しますが、適切なリハビリや生活指導により社会生活を十分に送ることが可能です。内視鏡的・薬物的治療
大腸ポリープに対しては、手術前の段階では定期的な大腸内視鏡によるポリープ切除術を繰り返し行うことがあります。また、一部の消炎鎮痛薬(NSAIDs)やCOX-2阻害薬にはポリープの増殖を抑制する効果があり、手術までの間や手術後の残存部位のポリープ管理に用いられることがあります。合併症や他臓器病変への対応
ガードナー症候群では大腸以外にもさまざまな良性腫瘍が生じます。それらの多くは緊急の治療を要しませんが、症状に応じた対症療法が行われます。例えば、過剰歯があれば歯科口腔外科で抜歯や歯列矯正を行い、顎の骨種が大きくなって咀嚼や発語に支障がある場合は摘出を検討します。 デスモイド腫瘍は良性ではあるものの周囲の臓器を圧迫しうるため、抗がん剤やホルモン療法などによる縮小治療を行うことがあります。皮膚にできた嚢胞や繊維腫、脂肪腫などは経過観察が可能ですが、美容上の理由や炎症や感染を起こした際には皮膚科や形成外科で切除されます。ガードナー症候群になりやすい人・予防の方法
ガードナー症候群は遺伝性の疾患であるため、血縁者に本症の患者さんがいる場合には注意が必要です。特に、親のどちらかがガードナー症候群の場合、その子どもは50%の確率で変異を受け継ぎ発症します。実際、患者さんの約80%は家族内での遺伝が原因となります。残り約20%は親に原因遺伝子のない突然変異で起こる散発例ですが、このような場合でも一度発症すればその後は子孫に遺伝する可能性があります。 一方、環境要因などによる発症リスクの上昇は知られていません。本症になるかどうかは基本的に遺伝子によって決まるため、生活習慣などでガードナー症候群自体の発症を予防する方法はありません。しかし、予防の方法として大切なのは、リスクの高い方に対して発症を早期に発見し、重篤化を防ぐための対策をすることです。家系内に本症の患者さんがいる場合、幼少期から遺伝子検査や定期的な大腸内視鏡検査を行って、ポリープの有無を監視することが推奨されます。また、本症と診断された場合には、定期検診や必要な手術を受けることで、将来発生するがんを未然に防ぐことが可能です。 なお、ガードナー症候群の患者さんがお子さんを望む場合、遺伝カウンセリングを受けるのも一つの方法です。そして、必要に応じて出生前診断や着床前診断などについて専門家と相談し、お子さんへの遺伝リスクと向き合ったうえで計画を立てることも選択肢の一つです。こうした対策はあくまで希望者に対するものであり必須ではありませんが、遺伝リスクが気になる場合には専門医に相談すると安心です。参考文献
- https://medlineplus.gov/genetics/condition/familial-adenomatous-polyposis
- https://dermnetnz.org/topics/gardner-syndrome
- https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22013-gardner-syndrome
- https://www.mdanderson.org/cancerwise/gardner-syndrome-8-insights-on-this-rare-inherited-syndrome-that-causes-colon-cancer.h00-159542901.htm




