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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

大腸憩室出血の概要

大腸憩室出血とは、大腸の壁の一部が嚢状に膨隆した憩室から出血を起こす疾患を指します。多くの場合、突然血便が見られ、腹痛などの前兆がないまま発症するのが特徴です。憩室そのものは加齢とともに形成されやすく、日本人においても高齢化に伴い増加傾向にあります。出血は自然に止まることも多い一方で、大量出血により貧血やショックをきたす場合もあるため、早期の診断と適切な対応が重要です。

大腸憩室出血の原因

大腸の壁には、内側の粘膜層と外側の筋層が存在しますが、仮性憩室の場合、筋層が欠落した部分から袋のように膨らみます。 腸管内圧(便秘や食物繊維の少ない食生活などで上昇)に加え、加齢や血管壁の脆弱化によって憩室が形成されやすくなり、そこを貫いて走行する直動脈破綻することで出血を引き起こします。 さらに、以下の要因も大腸憩室出血のリスクとして指摘されています。

  • 高血圧 血管に対する圧負荷が増す
  • 肥満 内臓脂肪の蓄積が腸管内圧の上昇に関与
  • 抗血栓薬(低用量アスピリンやその他抗血小板薬・抗凝固薬) 血液が固まりにくくなるため、出血時に止まりにくい
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 腸粘膜へのダメージや血管脆弱化を助長

大腸憩室出血の前兆や初期症状について

大腸憩室出血の大きな特徴は、無症状で突然発症しやすい点です。一般的には、腹痛がほとんどなく鮮血便や暗赤色便、凝血塊状の便が>急に排出されます。以下に前兆や初期症状をまとめます。

  • 血便(鮮紅色、暗赤色、凝血塊状など)
  • 顕著な腹痛がないまま突然始まる
  • 大量出血の場合、めまい血圧低下、動悸などショック症状
  • 軽度の出血では貧血による倦怠感、動悸のみで見逃されることも

受診する診療科としては>内科(消化器内科)が基本となります。

大腸憩室出血の検査・診断

大腸憩室出血が疑われる際には、以下のような検査が行われます。

身体所見・問診

  • 全身状態の確認(バイタルサイン:血圧、脈拍、意識レベルなど)
  • 出血量の推定、下痢・発熱・腹痛の有無
  • 服薬歴(NSAIDs・抗血栓薬など)の確認

血液検査

  • 貧血の程度(ヘモグロビン値)
  • 凝固機能(PT、APTTなど)の評価
  • 造影検査に備えて腎機能の評価

腹部造影CT

  • 血管外漏出像の有無(少量の出血では検出困難な場合あり)
  • ほかの消化管出血や鑑別疾患(大腸癌、虚血性腸炎、感染性腸炎など)を排除
  • 今後の治療(内視鏡やIVR、手術)に向けた解剖学的情報を得る

大腸内視鏡検査

  • もっとも重要な検査であり、出血源の特定内視鏡的止血が可能
  • 腸管洗浄や前処置が必要だが、ほかの疾患(腫瘍、潰瘍など)の鑑別ができる
  • 出血部位を直接視認し、治療へ移行できる

大腸憩室出血の治療

大腸憩室出血自然止血するケースが多い(70~80%程度)一方で、短期間での再出血率も20~40%と高めです。大量出血を起こした場合には生命に関わる可能性もあるため、以下の流れで治療を検討します。

保存的治療(自然止血待機)

  • バイタルサインが安定し、出血量が軽度~中等度である場合
  • 輸液や感染予防をしながら血液検査の経過を観察
  • NSAIDsや抗血栓薬を使用している場合、必要性を評価しながら休薬や減量を検討
  • 多くの症例で自然に出血が止まる可能性がある

内視鏡的止血術

大腸内視鏡下で、出血源を特定し直接止血する第一選択肢

主な手技

(1)クリップ止血法
出血血管をクリップで挟む、あるいは憩室口を縫縮
(2)結紮法(EBL:EndoscopicBandLigation)
出血憩室を吸引・結紮
(3)エピネフリン局注法
粘膜下に薬液を注入し血管収縮を誘導(単独では再出血の可能性)

EBLが近年有用性を示しており、再出血を低減するという報告が多い

外科的手術

  • 大腸憩室出血のうち、ごく一部が手術適応(大量出血で内視鏡的止血やIVRが不成功の場合など)
  • 出血部位の同定が手術前に得られれば、部分切除で済む
  • 不明な場合には結腸亜全摘など大きな手術が必要となるリスクあり
  • 高齢者や合併症の多い患者さんでは周術期管理が困難となるケースがある

大腸憩室出血になりやすい人・予防の方法

大腸憩室出血のリスクを高める方として、高齢者高血圧、肥満、抗血栓薬やNSAIDsを使用中の方などが挙げられます。 これらの背景を考慮すると、以下のような予防策や配慮が有効です。

生活習慣の見直し

  • 食物繊維を十分に摂取(便通を整え、腸内圧の上昇を抑える)
  • 適度な運動で内臓脂肪を減らし高血圧や肥満を改善
  • 禁煙節酒も全身的な血管の健康管理に寄与

薬剤調整

  • NSAIDsやアスピリンなどの抗血栓薬の必要性を主治医と検討
  • 別の鎮痛薬や胃粘膜保護薬を併用するなどの工夫

定期検診

  • 便潜血検査などで便中の血液を早期発見
  • 消化器内科での大腸内視鏡検査により憩室の有無やほかの疾患をチェック

早期受診

  • 血便や暗赤色便を自覚した際は、強い症状がなくとも早めに受診
  • 抗血栓薬などの服用履歴がある場合、自己判断で休薬しないで必ず医師に相談

参考文献

  • 日本消化管学会大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン(2017)
  • 日本消化器内視鏡学会ガイドライン関連文書(大腸内視鏡的治療、出血性疾患など)
  • 石井直樹ほか:「大腸憩室症の診断と治療」外科84(3):2022

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