

監修医師:
田中 茉里子(医師)
目次 -INDEX-
術後肛門障害の概要
術後肛門障害とは、肛門に対する手術をした後に起こる肛門障害です。痔の手術や直腸がんの治療など、肛門周辺の外科的処置の後に発症することがあります。
術後肛門障害の症状は人によってさまざまですが、排便回数の増加、突然の強い便意、便やガスの漏れ、残便感など多岐にわたります。こうした症状は、日常生活のあらゆる面に大きな支障をきたします。
しかし、早期の適切な対応と治療によって、多くの場合は徐々に改善します。
術後肛門障害の原因
術後肛門障害は、肛門の手術や、直腸がん・S状結腸がんの手術後などに生じることが多いです。昔行われていた手術や、肛門周囲組織の過度の侵襲、患者さんの不養生などが原因で起こります。 代表的な術後肛門障害には、「ホワイトヘッド肛門」「術後肛門狭窄」「術後肛門括約筋不全」などがあります。
ホワイトヘッド手術による障害
ホワイトヘッド手術は、痔核のみならず、周囲の肛門上皮をリング状にすべて取り除く手術法です。 肛門の周りの皮膚と直腸の粘膜を縫い合わせるため、肛門を支える筋肉が弱くなります。その結果、手術から数年後に肛門の粘膜が外に出てきたり、出血したり、肛門が狭くなったりすることがあります。この状態を「ホワイトヘッド肛門」と呼びます。 なお、このような合併症が多かったことから、現在ではホワイトヘッド手術は行われていません。
痔瘻(じろう)手術による障害
痔瘻(直腸と肛門周囲の皮膚に膿が流れる通路ができる痔)の手術や肛門周囲の膿みの処置で、肛門を締める筋肉を過度に切除してしまうと、肛門の形が変わったり、きちんと閉じられなくなったりします。その結果、便やガスが漏れる、肛門から粘膜が出る、便が真っ直ぐに出ないなどの症状が出ることがあります。
痔核手術による肛門狭窄
痔核(いぼ痔)の手術で肛門の皮膚を採りすぎると、肛門が硬く狭くなることがあります。排便時の痛み、出血、便が出にくいなどの症状があらわれます。
その他の原因
痔に注射する治療法や、痔を縛って切り取る方法でも、適切に行われないと肛門に傷が残って硬くなったり、狭くなったりすることがあります。
術後肛門障害の前兆や初期症状について
手術直後に、排便回数の増加や減少、残便感があらわれることがあります。多くの場合は時間とともに徐々に改善していきますが、症状や程度、改善までの期間には個人差があります。
排便回数の増加は、特にS状結腸がんや直腸がんの手術後に起こりやすいです。手術前は1日1〜2回だった排便が、術後は5〜6回、多い場合には10回以上になることもあります。また、少量ずつしか排便できなくなることもあります。
また、残便感によってトイレで排便した後も便が残っている感覚が生じたり、肛門括約筋の低下により低下により便意のコントロールが困難となり、予期せぬ場面でガスや液状の便が漏れてしまったりすることがあります。
術後肛門障害の検査・診断
術後肛門障害の診断は、問診・視診によって症状を確認することから始まり、必要に応じて肛門の機能を調べる検査を行います。検査結果に基づいて、治療方針を決めていきます。
問診・視診
問診では、排便の回数や状態、便漏れの有無、日常生活への影響などを詳しく聞きます。症状の程度を客観的に評価するために専用の質問票を使うこともあります。
視診では、肛門周囲の皮膚の状態、発赤、腫脹、手術の傷跡、組織の変形を確認します。肛門括約筋の機能を評価するため、安静時と収縮時の肛門の状態を観察し、患者に力んでもらうことで排便時の状態も確認します。
肛門機能検査
必要に応じて肛門の機能を調べる検査を行います。肛門に細い管を挿入して圧力を測る検査や、直腸の感覚を調べる検査などがあります。これらの検査で排便を抑える筋肉の力や、直腸の状態を評価します。
画像検査
直腸の形や機能を調べるために画像検査を行うこともあります。CT検査やMRI検査の検査結果をもとに、障害の原因や程度を詳しく評価し、適切な治療法を決めていきます。
術後肛門障害の治療
術後肛門障害の治療は、骨盤低筋トレーニングや薬物療法が優先的に行われますが、改善が見られない場合は外科的治療が検討されます。
骨盤底筋トレーニング
肛門周りの筋肉(骨盤底筋)を鍛えるトレーニングが効果的です。肛門を締める運動を定期的に行うことで、便のコントロール機能を高めることができます。専門家の指導のもとで行います。
薬物療法
便の状態に合わせて、下痢を抑える薬や便の形を整える薬を使うこともあります。薬は医師の指導のもとで使用することが重要です。
外科的治療
保存的な治療で十分な効果が得られない場合、外科的な治療を検討します。肛門が狭くなっている場合は広げる手術を、便漏れがひどい場合は肛門の筋肉を修復する手術を実施します。症状が重く、日常生活に大きな支障がある場合には、人工肛門を検討することもあります。
術後肛門障害になりやすい人・予防の方法
術後肛門障害を予防するには、適切な手術と術後のケアが重要です。近年はホワイトヘッド手術よりも、肛門の機能や形態を温存する手術が推奨されています。
痔核手術などの肛門疾患に関する術後障害を防ぐためには、経験豊富な医師のもとで治療を受けることが大切です。 また、S状結腸がん・直腸がんなどの手術後に生じる排便機能障害は、根本的な改善が難しい場合もあり、治療方針については主治医と相談することが重要です。 すでに術後障害がある場合は、早めに専門医に相談してください。
参考文献




