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漏出性便失禁
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)

漏出性便失禁の概要

漏出性便失禁とは、便を自分の意思でコントロールできず、無意識のうちに漏れ出てしまう状態を指します。便失禁の一種であり、特に直腸や肛門周囲の機能に問題がある場合に発生します。便の固さに関係なく起こることがあり、高齢者や神経疾患のある患者さんに多く見られる症状です。日常生活に大きな影響を及ぼすため、適切な診断と治療が求められます。

この症状は、腸の運動機能が低下したり、肛門括約筋がうまく機能しないことによって発生します。長期間便秘が続いた後に、液状の便が硬い便の周囲から漏れ出すケースもあります。また、神経障害や直腸の構造的異常によっても起こることがあります。治療を受けることで改善が期待できるため、適切な医療機関を受診することが重要です。

漏出性便失禁の原因

漏出性便失禁の主な原因として、以下のようなものが挙げられます。

慢性的な便秘

長期間にわたる便秘が続くと、直腸に硬い便が溜まり、周囲から液状の便が漏れ出すことがあります。この状態は「便塞栓(べんそくせん)」と呼ばれ、高齢者や腸の運動機能が低下した方に多く見られます。便が長く腸内に留まると、水分が吸収されてより硬くなり、排出が困難になるため、結果として便の漏れが発生しやすくなります。

肛門括約筋の機能低下

肛門括約筋は、便を適切に保持し、排便をコントロールする役割を担っています。この筋肉が加齢や外傷、手術の影響で弱まると、便を十分に保持できず漏れやすくなります。特に出産や骨盤の手術後にこの筋肉が弱まることがあり、力を入れても便を抑えられなくなるケースがあります。

神経障害

脳卒中、糖尿病、多発性硬化症、脊髄損傷などにより、肛門括約筋や直腸の感覚が低下すると、便意を感じにくくなり、無意識に便が漏れてしまうことがあります。神経の異常が原因となる場合、便意をコントロールする脳や脊髄の信号がうまく伝わらず、突然の失禁につながることがあります。

腸の炎症や感染症

クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患、または感染症による下痢が長期間続くと、腸の機能が低下し、便のコントロールが困難になることがあります。特に下痢が頻繁に起こる場合、直腸の刺激が強くなり、肛門の締まりが弱くなることで便が漏れやすくなります。

直腸脱や骨盤底の異常

直腸が外に飛び出してしまう直腸脱や、出産や加齢による骨盤底筋の緩みが影響して、便の保持が難しくなることがあります。骨盤底筋が弱まると、肛門を締める力が低下し、わずかな腹圧の変化でも便が漏れることがあります。

漏出性便失禁の前兆や初期症状について

漏出性便失禁の初期段階では、以下のような症状が現れることがあります。

  • 排便後に肛門周囲に便が付着していることが多い
  • 下着が汚れるが、排便の感覚がない
  • 突然の腹痛や強い便意を感じるが、トイレに間に合わないことが増える
  • 便が完全に出きらず、少量ずつ漏れることがある
  • 慢性的な便秘があり、時折液状の便が漏れ出す
  • ガスが出る際に便が一緒に漏れてしまうことがある

このような症状が現れた場合、できるだけ早めに医療機関を受診することが大切です。受診すべき診療科は、消化器内科肛門科です。特に、便秘や下痢を伴う場合は消化器内科が適しており、肛門括約筋の機能低下や直腸脱が疑われる場合は肛門科の診察を受けるのがよいでしょう。適切な診断を受けることで、治療の選択肢が広がり、症状の改善が期待できます。症状が軽いうちに対処することで、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。

漏出性便失禁の検査・診断

漏出性便失禁の診断には、まず患者さんの症状について詳しく聞き取ることが大切です。医師は排便の頻度、便の状態、失禁が起こる状況、日常生活での影響などを詳しく確認し、原因を探ります。その後、より詳しく評価するため、以下のような検査が行われます。

直腸診

医師が指を使って肛門や直腸を触診し、筋肉の緩みや異常の有無を確認します。特に括約筋の強さや直腸の状態をチェックします。

肛門括約筋の圧力測定(肛門内圧測定)

細いチューブを肛門に挿入し、括約筋がどの程度の力で便を保持できるかを測定します。これにより、肛門括約筋の機能が十分に働いているかが分かります。

肛門超音波検査

肛門に専用のプローブを挿入し、肛門括約筋の状態を詳しく調べる検査です。特に内肛門括約筋の損傷や菲薄化を診断するのに優れ、産後の肛門括約筋損傷の評価にも有用です。

肛門 MRI

磁気を使って肛門括約筋や骨盤底筋の構造を詳しく調べる検査です。特に外肛門括約筋の萎縮や損傷の診断に適しており、便失禁の原因を明らかにするのに役立ちます。

大腸内視鏡検査

内視鏡を用いて、大腸の内部を直接観察します。炎症やポリープ、腫瘍などが便失禁の原因となっているかを確認するために行います。

これらの検査を組み合わせることで、漏出性便失禁の原因を詳しく特定し、患者さんに治療法を提案することができます。

漏出性便失禁の治療

漏出性便失禁の治療は、患者さんの原因や症状の程度に応じて異なります。まず、生活習慣の改善が重要です。食事の工夫として、食物繊維が豊富な食品を積極的に摂取し、腸内環境を整えることがすすめられます。また、水分を適切に摂取することで便を柔らかくし、規則正しい排便習慣を身につけることも大切です。適度な運動を取り入れることで、腸の動きを促進し、便秘や下痢の予防につながります。

薬物療法としては、便秘が原因の場合には便を柔らかくする薬や浣腸が用いられ、下痢が原因の場合には整腸剤や止瀉薬が処方されます。さらに、腸の動きを調整する薬を使用することで、腸の正常な働きを取り戻すことができます。筋力の低下が関係している場合は、骨盤底筋のトレーニングが有効です。肛門を締める力を強化することで、便のコントロールを改善することが期待できます。特に、バイオフィードバック療法を併用することで、より効果的に排便機能を調整することができます。

症状が重度の場合は、外科的な治療が必要になることもあります。肛門括約筋の損傷が原因である場合は、括約筋を修復する手術が行われます。また、直腸脱や骨盤底の異常が見られる場合は、それらを修正する手術が検討されます。さらに、便が腸内に溜まりすぎるケースでは、人工肛門(ストーマ)の設置が選択肢となることもあります。このように、患者さんの症状に応じた適切な治療を選択することで、日常生活の質を向上させることが可能です。早めの診断と治療が、漏出性便失禁の改善には重要なポイントとなります。

漏出性便失禁になりやすい人・予防の方法

漏出性便失禁は、高齢による筋力の低下、慢性的な便秘、神経疾患、出産後の骨盤底の筋力低下などが原因で発生しやすくなります。特に高齢者では肛門の締める力が弱まりやすく、排便のコントロールが難しくなることがあります。また、脳卒中や糖尿病などの病気が影響する場合もあります。

予防のためには、まず腸内環境を整えることが重要です。食物繊維を多く含む食品を摂取し、水分を十分に取ることで便を柔らかくし、排便をスムーズにすることが効果的です。適度な運動を行い、腸の働きを活発にするとともに、骨盤底筋を鍛えることで排便のコントロールを向上させることが期待されます。毎日の排便習慣を整えることも大切です。決まった時間にトイレに行く習慣を持ち、便意を感じたら我慢せずに排便することで腸のリズムを維持できます。また、ストレスが腸の機能に影響を与えるため、適度にリラックスし、睡眠をしっかり確保することも予防には欠かせません。

もし便の異常を感じた場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。消化器内科肛門科で相談することで、適切な治療や指導を受けることができます。生活習慣の改善と適切な医療のサポートを受けることで、漏出性便失禁の予防と改善が期待できます。

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