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胃マルトリンパ腫
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

胃マルトリンパ腫の概要

胃マルトリンパ腫(胃MALTリンパ腫とも言います。最近は英語ではMarginal Zone Lymphomaと呼ぶこともあります)は、胃の粘膜関連リンパ組織(MALT:Mucosa-Associated Lymphoid Tissue)に発生するB細胞性の非ホジキンリンパ腫です。
このリンパ腫は、消化器に発生する腫瘍の中では稀なものですが、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染との関係が深く、胃の慢性的な炎症状態が発症の背景にあるとされています。胃マルトリンパ腫は低悪性度で進行が遅く、根治率が高いことが特徴です。ピロリ菌の除菌などの適切な治療を行わずに放置した場合、より侵襲的な形態に進展する可能性があります。そのため、早期発見と治療が重要です。

胃マルトリンパ腫の原因

胃マルトリンパ腫の原因には以下の要素が挙げられます。

ヘリコバクター・ピロリ感染
最も重要なリスク要因はヘリコバクター・ピロリ感染です。この細菌は胃粘膜に慢性炎症を引き起こし、リンパ組織の持続的な活性化をもたらします。この過程で異常な免疫反応が誘導され、リンパ腫の発生につながります。他にも胃がんの原因にもなることが知られています。

慢性的な炎症
ヘリコバクター・ピロリ感染以外にも、胃の慢性炎症がマルトリンパ腫の背景因子となる場合があります。特に免疫抑制状態や自己免疫疾患(例:シェーグレン症候群など)は、発症リスクを高める要因となるとされています。

遺伝的および環境的要因
特定の遺伝子異常(t(11;18)転座など)がリンパ腫の形成に関連する場合があります。また、喫煙や食事習慣などの生活環境要因がリスクに寄与する可能性も指摘されています。

胃マルトリンパ腫の前兆や初期症状について

胃マルトリンパ腫の初期症状は一般的な胃炎や胃潰瘍と区別がつきにくい場合が多いですが、以下のような症状が見られることがあります。

胃部の鈍痛や不快感
慢性的な胃の違和感や、食後に込み上げてくる感じがしたり、食後に悪化する痛みを伴うことがあります。

吐き気や嘔吐
特に進行した段階でみられることが多いですが、軽度の吐き気を訴えるケースもあります。

体重減少や食欲不振
胃の不調に伴い、食事量が減ることで現れます。

黒色便(メレナ)
腫瘍による微小な出血が原因で、便が黒くなることがあります。

ただし、症状が軽微なために見過ごされることも少なくありません。こうした症状を含む胃の不調が長期間続く場合には、早期に消化器内科、血液内科、腫瘍内科の受診が推奨されます。

胃マルトリンパ腫の検査・診断

胃マルトリンパ腫の診断には、複数の検査を組み合わせて行います。以下の検査により病気の状態を調べ、ステージを診断します。

1. 内視鏡検査

内視鏡(胃カメラ)を使用して胃内部を直接観察し、病変部を詳細に確認します。胃マルトリンパ腫は胃の特定の部位に限局していることが多いため、病変の特徴や範囲を把握するために不可欠です。また、疑わしい部位から組織を採取し、生検による診断を行います。検査の結果が出るまでに1〜2週間程度を要することが多いです。内視鏡画像では、潰瘍びらん、あるいは隆起性病変として観察されることが多いです。

2. 病理組織検査

内視鏡検査で採取した組織を顕微鏡下で観察します。マルトリンパ腫では、リンパ濾胞の形成や異常なB細胞増殖が認められます。さらに、遺伝子異常の有無(t(11;18)転座など)を確認するための分子生物学的検査を追加することがあります。

3. ヘリコバクター・ピロリ検査

ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を確認するために、尿素呼気試験、血清抗体検査、便中抗原検査、または内視鏡下の迅速ウレアーゼ試験といった複数の方法があります。かかりつけの医療機関でご相談いただくとよいでしょう。これらにより感染の有無を評価します。また、除菌終了後にもこうした検査を行い、治療効果の判定を行います。

4. 画像診断(CTまたはPET-CT)

胃マルトリンパ腫は早期に見つかることが多く、胃自体の病変は厚みがないことが多いため、評価は通常は内視鏡検査の方が見えやすいとされています。CTやPET-CTといった画像検査はリンパ腫がほかの臓器に広がっているかどうかを調べるために行います。これにより腫瘍の局在や大きさを確認します。

5. 血液検査

腫瘍マーカー(LDHなど)や炎症反応の測定を行い、肝臓や腎臓などの臓器の状態などを確認し、治療方針の検討の際に用います。

胃マルトリンパ腫の治療

治療方針は患者さんの病期や状態に応じて異なりますが、通常はヘリコバクター・ピロリの除菌から行います。

1. ヘリコバクター・ピロリの除菌治療

ヘリコバクター・ピロリ感染が確認された場合、第一選択として抗生物質(アモキシシリンとクラリスロマイシンなど)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を組み合わせた治療を行います。多くの早期の胃マルトリンパ腫では、この治療のみで腫瘍が消失します。

2. 放射線療法

上記の除菌治療が無効であった場合やヘリコバクター・ピロリ陰性例では、局所治療として放射線療法が用いられます。高い治療成功率が期待されますが、副作用を最小限に抑えるため、照射範囲と線量を慎重に調整します。通常は2〜3週間の連日の通院が必要になります。通常のがんでは放射線治療後に効果が出るまでに1〜2ヶ月程度ですが、胃マルトリンパ腫では6ヶ月程度は必要とされており、ここが少し特殊な点です。

3. 化学療法

進行例や他臓器への転移が認められる場合には、リツキシマブを含む化学療法が行われます。これにより腫瘍の進行の勢いを制御することが可能です。

4. 外科手術

病変が限局しているがほかの治療が適さない場合、ごく稀に胃の部分切除が行われることもあります。

喫煙や飲酒は手術や放射線治療の副作用や合併症が増加、悪化しやすくなることが知られており、病気になってからも中止するように指導されます。実際の治療方法は病変の進行度や患者さん個人の健康状態により異なりますので、担当の医師と相談してください。

胃マルトリンパ腫になりやすい人・予防の方法

ヘリコバクター・ピロリの早期検査と治療
ヘリコバクター・ピロリは胃マルトリンパ腫だけでなく、もっと一般的な疾患である胃がんの原因になることも知られています。感染が疑われる場合、早期に医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
健康的な生活習慣
禁煙、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけることで、胃粘膜の健康を維持できます。
定期的な健康診断
症状がなくても、定期的に検診を受けることで早期発見が可能な場合もあります。

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参考文献

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