サルモネラ腸炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

サルモネラ腸炎の概要

サルモネラ腸炎は、自然界に広く存在するサルモネラ属の一部である Salmonella enterica によって引き起こされる腸管感染症です。鶏肉の不適切な取り扱いによる経口感染が有名な感染経路ですが、他にも汚染された生乳の摂取、十分に洗浄されていない野菜からの感染、哺乳類・鳥類・爬虫類などのペットからの感染も知られています (参考文献 1, 2)。

潜伏期間は6〜72時間 (通常12-36時間) で、悪心・嘔吐から始まり、数時間後に腹痛・下痢が現れます。下痢は一日数回から十数回続き、3〜4日持続します (参考文献 1, 2)。多くの患者は特別な治療なしで自然に回復しますが、幼児や高齢者では治療が必要な脱水状態に陥ることがあります。

予防には一般的な食品衛生を心がけることが重要です。調理前・調理中の手洗いや調理器具の十分な洗浄のほか、調理場を清潔に保つなど、基本的なことができているか、今一度確認してください。

サルモネラ腸炎の原因

サルモネラ腸炎は、サルモネラ属に含まれる細菌によって引き起こされる腸管感染症です。サルモネラ菌は自然界のあらゆる場所に生息しています。「鶏卵の不適切な取り扱いはサルモネラ感染症のリスクになる」ということが有名で、これ自体は正しいのですが、サルモネラ菌は家畜の腸の中や自宅のペットといった様々な動物が保菌しています (参考文献 1) 。

    ヒトへのサルモネラ菌の感染には次のような経路が知られています (参考文献 1) 。

    • 動物由来である卵や肉、生乳などにサルモネラ菌が含まれていた場合に、その汚染された食べ物を食べることで感染
    • 野菜を十分に洗浄しないまま食べてしまうことでも感染
    • ペットとして飼育されている犬、猫、カメなどから感染

    サルモネラ腸炎の前兆や初期症状について

    通常、12~36時間の潜伏期間の後、悪心・嘔吐の症状で発症、数時間経過すると腹痛・下痢の症状が現れます (参考文献 1, 2) 。下痢は一日数回から十数回にわたり、3~4日持続します(参考文献 1)。いわゆる「胃腸炎」の症状が出てくると考えてもらえば大丈夫です。

    ほとんどの患者では特段の治療を必要とせずに自然軽快していきますが、幼少期や高齢者層では重度の脱水状態に陥り、治療を必要とする場合があります。

    胃腸炎の原因は多岐にわたります。サルモネラ腸炎は食中毒の一つとして発症することが多いですが、同じような潜伏期間で同じような症状が出る原因菌も多いです。家で症状の軽快を待ってもほとんどの場合は問題ないですが、辛いと思いますし、重症化の徴候が無いかや、他の緊急性の高い疾患が隠れていないかをチェックすることは大切です。疑い症状があればお近くの内科を受診してください。休日などで受診まで時間が空く場合には意識的に水分補給をして、脱水が進行しないように努めましょう。

    サルモネラ腸炎の検査・診断

    サルモネラ腸炎の診断は、主に臨床症状患者の食歴、接触歴に基づいて行われます。38℃以上の発熱・頻繁な水溶性の下痢・腹痛・血便が見られる場合にはサルモネラによる胃腸症が疑わしいです (参考文献 2) 。
    糞便からの細菌検出をもって確定診断としますが、この検査までやるかどうかは状況によりけりです。

    サルモネラ腸炎の治療

    サルモネラ腸炎の治療は主に対症療法が中心となります。脱水症状を防ぐために、口からの水分・電解質の補給が重要です。嘔吐などの症状で口からの水分摂取が難しい場合には、点滴での水分補給も検討されます。症状が軽度であれば、特別な治療を行わなくても自然に回復することが多いです。
    重症例や免疫力が低下している患者、高齢者、乳幼児では、抗菌薬の投与が検討されます。

    重症化リスクの低い人への抗菌薬投与は、抗菌薬によるメリットがないどころか、抗菌薬により耐性菌を作り出してしまうデメリットが大きいため、推奨されていません (参考文献 1) 。

    サルモネラ腸炎になりやすい人・予防の方法

    サルモネラ腸炎の予防に最も重要なのは食材の適切な衛生管理です。サルモネラだからといって特別な対策は必要ありませんが、基本的なことをおさらいしましょう (参考文献 3) 。

    • 十分に加熱する
    • 中心温度75℃以上1分間の加熱が有効です
    • 卵の生食をする際には、賞味期限内の卵にする
    • 肉や卵を室温に放置せず、冷蔵庫に入れる
    • 調理前や、生の肉や卵を触った後は手を洗う
    • 調理器具は使用後にしっかりと洗浄・消毒し、使用前にも清潔な状態であることを確認する
    • ネズミやゴキブリが発生しないよう、調理場周辺を清潔にする

    「調理器具は使用前によく洗浄する」に関してですが、生の肉を切った後に生鮮食品を切りたい場合、包丁やまな板は一度洗うか、他の物を使ってください。調理器具を不衛生な状態のまま使うと、調理器具を介して違う食材にまで汚染が広がってしまいます。
    手洗いも同様です。手が汚染されたまま調理を続けると、調理器具や食材に菌が移り、汚染が広がってしまいます。

    普段の調理方法に改善点がないかチェックすることが予防の第一歩です。衛生的な調理は他の食中毒の予防にもなりますので、この機会に見直してみましょう。

    また、サルモネラ菌はペットとの接触も感染経路になります (参考文献 1, 2) 。犬や猫、カメなどと触れ合った後にはよく手を洗いましょう。小さな子は重症化リスクも高いので、これらの動物とのふれあいの機会にはよく見守ってあげて、適切なタイミングで手洗いをするよう指導してあげましょう。


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    参考文献

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