

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
食道潰瘍の概要
食道潰瘍は、食道内壁がただれて穴があく状態を指し、消化器官の潰瘍の中でも稀な疾患です。
通常、食道内壁は酸に強く保護されています。しかし、胃酸が過剰に逆流したり、何らかの刺激により保護機能が低下すると、食道の粘膜が損傷を受け、潰瘍が発生することがあります。
食道潰瘍の主な原因は逆流性食道炎によるものが多いです。胃酸が食道に逆流すると、強力な酸によって食道の粘膜が炎症を起こし、やがてただれが潰瘍に進行する場合があります。さらに、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用や、ピロリ菌感染、アルコールや喫煙などの生活習慣もリスク要因として知られています。
食道潰瘍の症状としては、胸焼けや食後の胸の痛み、飲み込み時の違和感、酸っぱいものが口まで上がってくる不快感などが代表的です。症状が進行すると、食べ物を飲み込む際の強い痛みや、食欲低下、体重減少が見られることもあります。場合によっては、潰瘍が深くなることで出血が起こり、吐血や黒い便が出ることもあり、これが重大な症状のサインとなります。
食道潰瘍の診断には、内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)が一般的に用いられます。内視鏡によって食道内を直接観察し、潰瘍の有無や状態を確認します。また、潰瘍の発生原因としてピロリ菌が疑われる場合には、呼気テストや血液検査も併せて行われることがあります。
治療は、主に胃酸の分泌を抑える薬物療法が中心です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬が処方され、胃酸を抑えることで潰瘍の治癒を促進します。また、生活習慣の改善も不可欠で、アルコールや喫煙の制限、食事内容の見直しが勧められます。
食道潰瘍の原因
食道潰瘍は、食道内壁が深く傷ついて潰瘍が形成される疾患です。その主な原因は、胃酸や消化酵素の逆流によるものです。通常、胃酸は食道に上がらないように食道下部にある括約筋が機能しますが、この括約筋が緩むと胃酸が食道に逆流し、食道内壁が刺激されて炎症や潰瘍が発生します。これは、胃食道逆流症(GERD)の重症化によって食道潰瘍が引き起こされるケースが多いです。
また、ピロリ菌感染も食道潰瘍の一因として挙げられます。ピロリ菌は胃酸の分泌を促進し、胃酸の逆流リスクを高めるため、食道の粘膜を傷つける可能性があります。さらに、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の長期使用も原因の一つです。これらの薬は、炎症や痛みを和らげる作用がある一方で、胃や食道の粘膜を保護する働きを弱め、潰瘍を引き起こしやすくします。
食生活や生活習慣も関係しています。特にアルコールや喫煙は食道の粘膜を刺激し、潰瘍を悪化させる要因となります。アルコールは胃酸の分泌を増加させ、さらに粘膜のバリア機能を低下させるため、食道が刺激を受けやすくなります。また、脂肪分の多い食事や刺激の強い食べ物や飲み物も胃酸の逆流を誘発し、食道への負担を増やします。
食道潰瘍の前兆や初期症状について
食道潰瘍の前兆や初期症状は、食道の粘膜が胃酸や消化液により損傷し、炎症や潰瘍が発生することによって現れます。初期症状として最も多く見られるのが「胸やけ」です。胸の中央部が焼けるように感じたり、酸味のある胃酸が逆流してくることで喉の奥に不快感を覚えたりすることがあります。胸やけは、特に食後や横になった時、また空腹時にも強く感じられる場合があります。
また、食道潰瘍の初期段階では、食べ物を飲み込む際に痛みや違和感を感じることも多いです。この痛みは、食べ物が食道を通過する際に炎症部位を刺激するために起こります。痛みが強くなると、食事中や食後に胸や喉の奥に刺すような痛みを覚えることもあり、食べることへの恐怖感が生まれることもあります。
口臭が悪化するのも食道潰瘍の前兆の一つです。食道が胃酸に晒されていると、胃酸が口に逆流することが増え、その酸味が口臭の原因となります。また、酸っぱい液体が喉に戻ってきて、苦味や酸味を感じる「呑酸(どんさん)」も起こりやすくなります。このような不快な感覚は日常生活に支障を来すことがあり、早期の対応が必要です。
これらの症状が現れた際は消化器内科を受診しましょう。
食道潰瘍の検査・診断
食道潰瘍の検査・診断は、まず症状や既往歴についての問診から始まります。食道潰瘍は、胸焼けや胸痛、嚥下時の痛みなどの症状が特徴的であり、特に食後にこれらの症状が悪化することが多いです。問診により、食道潰瘍が疑われる場合には、内視鏡検査が行われます。
内視鏡検査は、食道潰瘍の診断で重要かつ正確な方法とされています。内視鏡を用いて食道内部を直接観察し、潰瘍の位置や大きさ、形状、深さを確認します。内視鏡検査により、潰瘍があるかどうかの判断だけでなく、その進行度や食道のほかの部位への影響も評価できます。また、食道がんなどほかの疾患と区別するため、内視鏡検査時に組織を採取して病理検査を行うことがあります。病理検査では、潰瘍部の組織を顕微鏡で観察し、炎症やがん細胞の有無を確認します。
ピロリ菌感染が食道潰瘍に関与しているケースがあるため、ピロリ菌の有無を確認する検査も行われることがあります。ピロリ菌検査には、尿素呼気試験や抗体検査などの方法があり、陽性の場合には除菌治療が推奨されます。ピロリ菌除菌は、再発防止に役立つことが確認されています。
食道潰瘍の診断には、バリウムを使用したX線検査も有効です。バリウム検査では、食道の形状や潰瘍の有無を確認でき、特に内視鏡検査が難しい場合や補助的な診断として用いられることがあります。ただし、X線検査では細かな状態まで観察することが難しいため、内視鏡検査ほどの精度は期待できません。
診断結果に基づき、食道潰瘍の治療計画が立てられます。食道潰瘍は進行が進むと出血や狭窄などの合併症が発生することもあるため、正確な検査と早期の診断が重要です。
食道潰瘍の治療
食道潰瘍の治療は、原因に応じて適切な方法を選択することが重要です。食道潰瘍は、主に胃酸の逆流やピロリ菌感染、薬剤の影響、ストレスなどが原因で発症します。治療の基本方針として、胃酸の分泌を抑制し、潰瘍の修復を促進することが挙げられます。胃酸が食道に逆流しないようにするため、胃酸分泌抑制薬や制酸薬が用いられます。
代表的な薬剤として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)が使用されます。PPIは胃酸の分泌を強力に抑え、潰瘍の治癒を早める効果が期待される薬で、逆流性食道炎による潰瘍にも有効です。H2ブロッカーも胃酸の分泌を抑える働きを持ち、PPIよりも作用は穏やかですが、長期的な効果が期待できます。
ピロリ菌感染が原因の場合には、ピロリ菌の除菌療法が行われます。ピロリ菌除菌には抗生物質とPPIの併用が一般的で、これによりピロリ菌の活動を抑え、再発のリスクを軽減します。また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によって食道潰瘍が引き起こされた場合は、NSAIDsの使用を中止するか、ほかの薬剤に変更することが検討されます。
加えて、生活習慣の改善も食道潰瘍の治療と再発予防において重要な役割を果たします。食事の際にアルコールやカフェイン、辛い食べ物、酸味の強い食品を控え、胃酸の逆流を避けるために、食後すぐに横になることを避けるのが望ましいです。また、喫煙や過度の飲酒も食道の粘膜に悪影響を与えるため、禁煙や飲酒量の調整が推奨されます。
重症の場合や、薬物療法で効果が見られない場合には、外科的な治療が検討されることもあります。手術では、逆流を防ぐために胃と食道の境界部分を調整し、胃酸が食道に逆流しにくくする手法が用いられます。ただし、外科的治療は一般的なケースではなく、薬物療法で改善しない難治性の潰瘍や重篤な合併症が見られる場合に限られます。
食道潰瘍になりやすい人・予防の方法
食道潰瘍になりやすい人の特徴として、主に長期間薬剤を服用している人や特定の生活習慣がある人が挙げられます。骨食道潰瘍は、特に鎮痛剤や抗炎症薬、ビスホスホネート系の骨粗しょう症治療薬を服用することで発生リスクが高まります。
ビスホスホネート系薬剤は、骨密度を増やす効果がある一方で、食道に刺激を与えやすく、服用方法が適切でない場合には潰瘍を引き起こすことがあります。特に高齢者は、これらの薬剤を多く使用する傾向があるため、食道潰瘍に注意が必要です。
また、過度な飲酒や喫煙、食生活の偏りもリスク要因となります。これらの生活習慣は、胃酸の分泌や食道の粘膜を刺激し、食道粘膜の防御機能が低下するため、薬剤による刺激に対して弱くなります。さらに、飲み込みが困難な状態や、服用する際に横になったまま服用することも潰瘍発生の原因となるため、服用方法に注意を払うことが重要です。
予防方法としては、まずビスホスホネート系薬剤や鎮痛剤などの服用方法に従うことが推奨されます。具体的には、薬を服用する際にはコップ一杯の水で飲むこと、服用後は横にならないようにすることが基本的な予防策となります。
こうすることで、薬剤が食道に留まるのを防ぎ、刺激を最小限に抑えることができます。症状が軽度のうちに医師に相談し、薬剤の種類や服用方法の見直しを検討することも予防につながります。
参考文献




