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黄色ブドウ球菌食中毒
居倉 宏樹

監修医師
居倉 宏樹(医師)

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浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。診療科目
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。

黄色ブドウ球菌食中毒の概要

黄色ブドウ球菌食中毒は、黄色ブドウ球菌という細菌が食品の中で繁殖する時に産生されるエンテロトキシンという毒素を摂取することにより引き起こされる毒素型の食中毒です。エンテロトキシンを含む食品を食べると、0.5〜6時間(平均3時間)後に激しい吐き気や嘔吐、疝痛性腹痛(差し込むようなキリキリとした痛み)、下痢などを引き起こします。
黄色ブドウ球菌食中毒は1年を通して発生していますが、5〜10月はとくに増加する傾向があります。また日本では、2000年6〜7月に大規模な黄色ブドウ球菌による食中毒が発生しました。このときに原因となった食品は加工乳で、原材料である脱脂粉乳の不適切な温度管理によりエンテロトキシンが発生したようです。

エンテロトキシンとは

エンテロトキシンは、たんぱく質の毒素です。エンテロトキシンはたんぱく質であるにもかかわらず、たんぱく質分解酵素であるトリプシンなどの消化酵素や熱に対して抵抗性があります。100度で20分加熱しても活性は失われないため、通常の加熱調理ではエンテロトキシンを無毒化できません
また、エンテロトキシンはいくつかの型に分類されます。日本では抗原性の違いによって分けられる「コアグラーゼ型別法」というものが実用化されています。現時点で報告されている型はA~L型、食中毒の発生件数がもっとも多いのはA型です。

黄色ブドウ球菌とは

黄色ブドウ球菌は、私たちの身の回りに広く分布している細菌です。人の鼻腔や喉、腸管にも存在しており、健康な方の黄色ブドウ球菌保有率は20〜30%といわれています。
また黄色ブドウ球菌は化膿菌の1種でもあり、化膿巣(かのうそう/膿がたまった部分)には多くの黄色ブドウ球菌が存在しています。黄色ブドウ球菌は食中毒の原因となるだけでなく、おでき(せつ)やとびひなど化膿性疾患の原因となる代表的な細菌です。

黄色ブドウ球菌食中毒の原因

黄色ブドウ球菌食中毒は、さまざまな食品が原因となります。

  • おにぎり
  • 寿司
  • 肉や卵、乳などの調理加工品
  • 肉や卵、乳などを使用した菓子

たとえば調理する方の手指に傷があると、傷口から食品に黄色ブドウ球菌がうつり、食中毒が発生することもあるでしょう。
また黄色ブドウ球菌は牛の乳房炎の原因ともなりうる細菌で、生乳や生肉を汚染することもあります。そのため欧米では乳製品やハムなどの畜産物が原因となり、黄色ブドウ球菌食中毒が発生するケースも多いようです。
なお黄色ブドウ球菌食中毒の原因施設は、下記の通りです。
飲食店
全体のおおよそ35~45%
家庭
全体の20%前後

そのほか、仕出弁当屋や旅館でも黄色ブドウ球菌食中毒が発生しています。

黄色ブドウ球菌食中毒の前兆や初期症状について

黄色ブドウ球菌食中毒では、吐き気や嘔吐があらわれます。嘔吐の回数は数回~十数回など、毒素の量や感受性などの違いによって個人差がみられます。ほかにも腹痛や下痢などがあらわれることもありますが、通常は1日か2日で治ることが多いです。一方で、重症化する場合もあり、発熱や脱水、血圧の低下、脈拍微弱などショック症状がみられることもあります。
黄色ブドウ球菌食中毒が疑われるときには、内科、消化器内科などを受診しましょう。

黄色ブドウ球菌食中毒の検査・診断

黄色ブドウ球菌食中毒と診断するには、食べてから症状が出るまでの時間(潜伏時間)や臨床症状のほかに、次のような内容を確認します。
1.患者さんの便や吐物などの検体から高率に黄色ブドウ球菌が見つかる
2.原因となる食品から黄色ブドウ球菌が見つかる
3.1と2で見つかった黄色ブドウ球菌がエンテロトキシン生産性であり、コアグラーゼ型が一致する
4.原因となる食品から、直接エンテロトキシンが見つかる

注意点は、黄色ブドウ球菌が検出された事実だけで、黄色ブドウ球菌による食中毒と診断しないことです。なぜなら黄色ブドウ球菌食中毒以外の原因で嘔吐や下痢が生じた場合にも、患者さんから黄色ブドウ球菌が検出されることもあるからです。たとえば、小型球形ウイルス(SRSV やNLV)による嘔吐、下痢の場合にも30%程度の割合で患者さんの便から黄色ブドウ球菌が検出されます。
また食品衛生法では、食中毒が疑われるときは診察した医師が24時間以内に最寄りの保健所に届け出るよう定められています。

検査方法①

黄色ブドウ球菌食中毒の検査では、原因となった食品、患者さんの便、患者さんの吐物から黄色ブドウ球菌を取り出します。そして取り出した黄色ブドウ球菌によるエンテロトキシン生産性を調べ、型別を確認します。なぜなら黄色ブドウ球菌による食中毒と判定するには、取り出した黄色ブドウ球菌が健康保菌者(※)由来でないことを確認する必要があるからです。
(※)健康保菌者とは、体内に菌を保有していても症状や自覚症状がない人のこと

検査方法②

黄色ブドウ球菌の検査方法として、原因となった食品から直接エンテロトキシンを検出する方法もあります。直接エンテロトキシンを検出する際、簡単、迅速かつ正確に行うことができれば、黄色ブドウ球菌を取り出す方法よりも短時間での診断が可能になります。また黄色ブドウ球菌は加熱により死滅するため、熱に強いエンテロトキシンだけが食品中に検出されることもあるようです。

現在日本で市販されている、エンテロトキシン検出用キットは6種類です。
SET-RPLA「生研」
検出感度1~2ng/ml、所要時間18~20時間
バイダスSET
検出感度0.25~1ng/ml、所要時間80分
黄色ブドウ球菌毒素ELISA kit SETVIA48(TECRA製)
検出感度1ng/ml、所要時間約4時間
黄色ブドウ球菌毒素 ELISA kit R4101(R‐Biopharm製)
検出感度1ng/ml、所要時間約4時間
トランジアプレートブドウ球菌エンテロトキシン(Diffchamb製)
検出感度0.25~1ng/g、所要時間約90分
RIDAスクリーン黄色ブドウ球菌エンテロトキシン
検出感度0.2~0.7ng/ml、所要時間約3.5時間

黄色ブドウ球菌食中毒の治療

黄色ブドウ球菌食中毒の患者さんに対し、特別な治療法はありません。下痢症状があっても下痢止めは使用せずに、補液と対症療法を行いながら、経過を観察します。
基本的に予後は良好で、1日か2日で回復するとされています。

黄色ブドウ球菌食中毒になりやすい人・予防の方法

黄色ブドウ球菌食中毒になりやすい人

食品の衛生管理が不十分な方は、黄色ブドウ球菌食中毒になりやすいでしょう。調理の前に手洗いをしなかったり、食品を適切な温度で保存しなかったりすると、黄色ブドウ球菌が食品に増殖しやすくなり食中毒のリスクが高まります。

予防の方法

黄色ブドウ球菌食中毒を予防するには、黄色ブドウ球菌を食品にうつさない、食品中の菌が増殖するのを防ぐことが重要です。

  • 手指に傷がある人は、食品に直接触れない
  • 手洗いや手指の消毒を徹底して行う
  • 食品を10度以下で保存し、菌が増えるのを防ぐ
  • 調理の際は、帽子やマスクを着用する
  • 調理から食べるまでの時間を短くする

手指に傷があるときは調理を避けることが望ましいですが、どうしてもの場合は手袋を着用し食品に直接触れないようにしましょう。


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