監修医師:
高宮 新之介(医師)
内痔核の概要
内痔核とは、肛門内部に発生する痔の一種で、肛門の静脈が膨らんでしまうことによって引き起こされます。
通常、便秘や下痢などで肛門に長期間負担がかかり、血液の循環が悪くなることで、肛門の内部にある静脈叢がうっ血し、腫れを引き起こします。
この腫れた状態が「内痔核」と呼ばれるもので、主に肛門の歯状線より内側に発生します。
内痔核は、一般的に30歳以上の成人に多く見られる疾患ですが、若年層にも発生することがあります。
特に、妊娠や出産、便秘が続く人、長時間座りっぱなしの生活を送る人に多く発症する傾向があります。
また、内痔核は再発しやすい疾患でもあり、適切な治療と生活習慣の改善が重要です。
内痔核の治療には、軽度のものは生活習慣の改善や薬物療法で対処することが可能ですが、重度の場合は手術が必要になることがあります。
内痔核の原因
内痔核の原因は、肛門に長期間負担がかかることによって引き起こされます。
この負担はさまざまな要因によって生じることがあり、日常生活の中で特に注意が必要です。
まず、内痔核の主要な原因として挙げられるのが、排便時に強くいきむことです。
便秘により硬い便を排出する際、強くいきむことが必要になることがありますが、これが肛門内の静脈に圧力をかけ、血液の流れが悪くなり、静脈が膨らんでしまいます。
特に、便秘が慢性化している場合や、繰り返し強くいきむ習慣がある場合は、内痔核が発生しやすくなります。
次に、長時間座り続けることも内痔核の原因となります。
デスクワークや長時間の運転などで座りっぱなしの状態が続くと、肛門周辺の血液の循環が悪くなり、静脈に負担がかかることになります。
これにより、肛門内の静脈が膨らみ、内痔核が発生することがあります。
座りっぱなしの仕事やライフスタイルを送っている方は、定期的に立ち上がって体を動かすことが予防の一環として重要です。
さらに、妊娠や出産も内痔核の発生リスクを高める要因です。
妊娠中はホルモンバランスの変化や子宮の圧迫によって便秘が起こりやすくなるほか、出産時のいきみも肛門に大きな負担をかけます。
これにより、妊婦や産後の女性は内痔核を発症しやすくなります。
加えて、過度なアルコール摂取や香辛料の摂取も肛門周辺の血液の循環を悪化させ、内痔核のリスクを高める要因となります。
これらの飲食習慣が長期間続くと、肛門内の静脈に負担がかかりやすくなり、内痔核が発生しやすくなります。
最後に、冷え性も内痔核の一因とされています。
体が冷えると血液の循環が悪くなり、特に末端である肛門周辺の血流が滞りやすくなります。
これが内痔核の発生リスクを高める要因となります。
内痔核の前兆や初期症状について
内痔核の初期症状を早期に発見することで症状の進行を防ぐことができます。
内痔核の前兆や初期症状としては、排便時の出血が最も一般的です。
出血は通常、鮮やかな赤色で、便やトイレの水に血が混ざる形で確認されることが多いです。
この出血は、痔核が腫れて出血しやすくなっていることを示しており、初期の段階では痛みを伴わないことが一般的です。
また、肛門からの脱出も内痔核の初期症状として現れることがあります。
脱出は、排便時に腫れた痔核が肛門の外に出てくることを指します。
初期の段階では、排便後に自然に戻るか、手で戻すことができることが多いですが、進行すると戻りにくくなることがあります。
脱出は、痔核が大きくなっている兆候であり、早期に治療が必要です。
加えて、肛門周囲のかゆみや不快感も内痔核の初期症状として挙げられます。
痔核が腫れて肛門周辺の皮膚が刺激されることで、かゆみや不快感が生じることがあります。
この症状は、座っているときや歩行中に感じることが多く、日常生活に支障をきたすこともあります。
これらの症状が現れた場合、放置すると症状が悪化し、強い痛みや大量の出血を伴うことがあります。
そのため、早期に医療機関を受診することが重要です。
内痔核の症状が疑われる場合は、肛門科や消化器内科の受診を検討してください。
内痔核の検査・診断
内痔核の診断には、いくつかの検査手法が用いられます。
内痔核は、初期段階では無症状のことも多いため、早期に正確な診断を受けることが重要です。
診断は、問診、視診、直腸診、肛門鏡検査などの方法を組み合わせて行われます。
問診
問診では、患者さんの症状について詳しく尋ねます。
具体的には、出血の有無や頻度、排便時の痛み、腫れの程度、脱出の有無などを確認します。
また、排便の習慣や食生活、過去の痔核の治療歴なども問診で確認します。
問診で得られた情報は、内痔核の診断に重要な手がかりとなります。
視診
視診では、医師が肛門周囲の状態を直接観察し、痔核の有無や腫れの程度を確認します。
外痔核が併発している場合は、視診で確認できることが多いです。
また、痔核が脱出している場合や、肛門周囲に炎症や感染が見られる場合も、視診で把握することができます。
直腸診
直腸診では、医師が指を使って肛門内を触診し、痔核の位置や大きさ、硬さなどを確認します。
直腸診によって、痔核の内部状態や、他の肛門周囲の疾患の有無を把握することが可能です。
直腸診は、多少の不快感を伴うことがありますが、内痔核の診断において有効な手法です。
肛門鏡検査
肛門鏡検査は、専用の器具を用いて肛門内部を直接観察する検査です。
肛門鏡を肛門に挿入し、内痔核の位置や大きさ、出血の有無を確認します。
肛門鏡検査は、痔核の状態を詳細に把握するための重要な検査であり、痔核の他にポリープや腫瘍が存在する場合も検出することができます。
内痔核の治療
内痔核の治療は、症状の進行具合や患者さんの生活状況に応じて、さまざまな方法が選択されます。
治療法には、薬物療法、硬化療法、ゴム輪結紮術、手術療法などがあり、症状が軽度であれば生活習慣の改善と併用して薬物療法で十分に対処できることが多い傾向です。
薬物療法
薬物療法は、内痔核の初期段階や症状が軽度の場合に使用されます。
薬物療法には、外用薬と内服薬の2種類があります。
外用薬
痔核に直接塗布する軟膏や坐薬が一般的で、これにより炎症を抑え、痛みやかゆみを軽減します。
内服薬
痔核に対する血行促進薬や鎮痛剤が使用され、これにより痔核の症状を和らげることができます。
薬物療法は、短期間で効果を発揮することが多いですが、痔核が完全に治癒するわけではなく、生活習慣の改善が重要です。
硬化療法
硬化療法は、内痔核が中等度に進行している場合に選択される治療法で、痔核の血流を止めるための注射を行います。
この注射により、痔核が縮小し、出血や脱出の症状が改善されます。
硬化療法は、比較的侵襲の少ない治療法ですが、効果が現れるまでに時間がかかる場合があり、また再発する可能性もあります。
そのため、硬化療法を行う際には、治療後の生活習慣の見直しが必要です。
ゴム輪結紮術
これは、痔核にゴム輪をかけて血流を遮断し、痔核が自然に脱落するのを待つ方法です。
ゴム輪結紮術は、内痔核が中等度から重度に進行している場合に適用されます。
手術の必要がなく、短期間で効果が現れることが多いですが、治療後に一時的な痛みを伴うことがあります。
また、痔核が再発するリスクもあるため、治療後の経過観察が重要です。
手術療法
手術療法は、内痔核が重度に進行している場合や、他の治療法で効果が見られない場合に行われます。
手術には、痔核を切除する方法や、痔核の血管を縛る方法などがあります。
手術は、根治的な治療法として効果的ですが、入院が必要となる場合が多く、術後の管理が重要です。
また、手術後には一時的に痛みが伴うことがありますが、適切な痛み止めを使用することで快適に過ごすことができます。
いずれの治療法を選択する場合でも、治療後の生活習慣の改善が再発防止に重要です。
食生活の見直しや、排便習慣の改善、適度な運動を取り入れることで、内痔核の再発を防ぐことができます。
内痔核になりやすい人・予防の方法
内痔核は、特定の生活習慣や体質を持つ方に発症しやすい疾患です。
内痔核を予防するためには、日常生活での習慣を見直し、肛門に負担をかけないようにすることが重要です。
以下に、内痔核の予防に役立つ要点をまとめました。
便秘や下痢を避ける
便秘や下痢が続くと、排便時に強くいきむことが多くなり、肛門に過度な負担がかかります。
食物繊維を多く含む食事や水分をしっかり摂ることが、適切な排便習慣の維持に役立ちます。
また、下痢を防ぐためにも、腸内環境を整えるバランスの取れた食生活を心がけることが大切です。
排便時には無理をせず、リラックスして行う
排便時に力を入れすぎると、肛門に負担がかかります。
リラックスして排便できる環境を整え、無理なく排便するよう心掛けることが予防のポイントです。
日常的に清潔に保ち、冷えを防ぐ
肛門周囲を清潔に保つことで、感染症を防ぎ、痔核の発生リスクを減らすことができます。
また、冷えは血行不良を引き起こし、内痔核のリスクを高める可能性があるため、体を冷やさないように注意することが重要です。
特に冬場は、適切な衣類で体を温めるよう心がけましょう。
長時間座り続ける生活習慣は避ける
長時間座り続けると、肛門周囲の血流が悪化し、痔核の原因となります。
デスクワークや長時間のドライブなどでは、定期的に立ち上がり、軽い運動を行うことが予防に効果的です。
また、座る際にはクッションを利用して肛門への圧力を軽減することも役立ちます。
刺激物やアルコールを控える
アルコールや香辛料などの刺激物は、肛門の血流を悪化させ、内痔核のリスクを高めます。
これらの摂取を控えるか、適量にすることで、内痔核の予防に効果があります。