監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
胃ポリープの概要
胃ポリープとは、胃の内側の粘膜表面がいぼのように盛り上がったものをいいます。
自覚症状はほとんど現れず、健康診断の上部消化管検査(バリウム検査)や内視鏡検査(胃カメラ)によって発見されることが多いです。
胃ポリープは胃底腺ポリープ、過形成性ポリープ、特殊型(炎症性、症候性、家族性)の3つに分けられます。頻繁に見られるのは胃底腺ポリープまたは過形成性ポリープで、どちらであるかの判別は内視鏡検査でポリープの見た目や周りの粘膜の特徴により判断できることがほとんどです。
胃底腺ポリープは周囲の粘膜と同じような色調のポリープで、ヘリコバクター・ピロリ感染などによる炎症がおきていない胃粘膜に発生します。炎症を起こしていないので、胃粘膜表面およびポリープはピンク色を呈しています。
胃底腺ポリープはがんの発生の頻度が低いため経過観察となることが多く、基本的に治療は必要ありません。
過形成性ポリープは赤みの強いポリープで、主にヘリコバクター・ピロリ菌に感染している慢性胃炎のある胃粘膜に発生します。ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌すると、ポリープが小さくなった・あるいはなくなったという報告もあります。
胃底腺ポリープと違い、過形成性ポリープはがん化する場合があり、定期的に胃カメラによる検査が必要です。基本的には治療ではなく経過観察をおこないますが、ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌してもポリープが大きくなる・がんの発生が疑われる・貧血を起こしている場合は、内視鏡治療を検討することもあります。
胃ポリープの原因
胃ポリープは胃底腺ポリープ、過形成性ポリープ、特殊型(炎症性、症候性、家族性)の3つに分類されます。そのなかで多くみられるのは、胃底腺ポリープと過形成性ポリープです。
胃底腺ポリープは炎症のない正常な粘膜から発生し、はっきりとした原因はわかっていません。一方、過形成性ポリープは胃粘膜の炎症をきっかけとして発生し、ヘリコバクター・ピロリ菌が原因となっているといわれています。
胃ポリープの前兆や初期症状について
胃ポリープは無症状なことが多く、ほとんどが健康診断の上部消化管造影検査(バリウム検査)や内視鏡検査(胃カメラ)で見つかります。
過形成性ポリープの場合、ポリープが大きくなり出血すると、黒い便が出て、貧血症状がでてきます。貧血症状としてはめまい、動悸、疲れやすさ、息切れなどが挙げられます。
また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染により慢性胃炎や萎縮性胃炎を起こしている場合は、胃もたれや胸やけ、胃の不快感、食欲不振などの症状が出現します。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、強い酸性の胃酸や消化酵素のある胃の中でも生きられる細菌です。ヘリコバクター・ピロリ菌がつくるアンモニアなどの毒素が胃粘膜にダメージを与えることで、炎症が長く続くと「慢性胃炎」と呼ばれる状態となります。
胃ポリープの検査・診断
胃ポリープは症状が現れない場合が多く、健康診断などで偶然見つかることがほとんどです。主な検査はX線による上部消化管造影検査(バリウム検査)、内視鏡検査(胃カメラ)の2つがあります。
X線による上部消化管造影検査(バリウム検査)
バリウム検査は胃を膨らませる発泡剤と造影剤であるバリウムを飲み、X線を照射しながら胃の中の粘膜を調べる検査です。体を回転させて飲んだバリウムを胃の中に薄く広げることで、胃粘膜の凹凸の有無をみることができます。
内視鏡検査(胃カメラ)
口や鼻から内視鏡を挿入し、胃の内部を観察する検査です。胃の粘膜を直接みるため、ポリープができている位置や大きさ、胃粘膜の色などがくわしく分かります。ポリープの見た目からどの種類のポリープなのか判別できます。
検査前日の夕食は、消化によいものを21時までに食べ、それ以降は検査が終わるまで食べられません。脱水防止のため、検査の1時間前くらいまで飲水は可能です。胃の中に食べものが残っていると観察できず、検査が中止となる場合があるので注意しましょう。くわしくは検査を受ける病院の指示に従ってください。
胃ポリープの治療
治療方法はポリープの種類によって異なります。基本的に、胃からの出血や食べ物の通過障害がなく、がん化していない場合は経過観察となります。
胃底腺ポリープはがんの発生の頻度は極めてまれなため、基本的に治療は不要といわれています。
過形成性ポリープと診断された場合は、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうか調べます。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が認められた場合には、除菌する薬を飲みます。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌後は、約80%の患者さんでポリープが小さくなる、あるいは消えてなくなることが報告されています。
しかし除菌後も、ポリープが大きくなる、がんの発生が疑われる、貧血の原因になる、大きさが2cmを超える場合は、内視鏡治療(ポリペクトミー・EMR)を検討することもあります。
10㎜以上の大きさの過形成性ポリープからがんが発生する頻度は約2%といわれており、過形成性ポリープと診断された場合には年に1度程度は内視鏡検査を受けましょう。
内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
ポリペクトミーとは、内視鏡を使用して胃の中にあるポリープを切除する方法です。内視鏡の先端から輪の形をしたスネアと呼ばれるワイヤー状の器具をだし、キノコのようにクキのあるポリープにひっかけ締め付けて、電流を流して焼き切ります。
切除したポリープは組織の一部を取り出し、がん化していないか顕微鏡でくわしく検査します。ポリープを切除する際、胃粘膜からの出血や胃の壁に穴が開くリスクがあります。そのため入院治療が必要です。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
EMRもポリペクトミーと同様に、内視鏡を使用して胃の中にあるポリープを切除する方法です。ポリペクトミーと異なる点は、突起のない平坦なポリープを切除する場合におこなう点です。
切除する際に胃の壁に穴が開いてしまうことを防ぐために、ポリープの下の粘膜下層に生理食塩水を注入してポリープを盛り上がらせます。後はポリペクトミーと同様で、盛り上がったポリープの根本にスネアとよばれるワイヤー状の器具をかけて、ポリープを締め付け電気を流し切除します。切除後は出血や胃の壁に穴が開いていないか観察が必要なため、入院となります。
胃ポリープになりやすい人・予防の方法
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染者は、過形成性ポリープができやすいといわれています。そのためヘリコバクター・ピロリ菌感染が認められた場合、除菌することが胃ポリープの発生予防につながります。
またヘリコバクターピロリ菌による慢性的な胃炎は、胃がんの原因の一つとされています。胃内視鏡検査による胃がん検診の対象年齢は50歳以上ですが、ピロリ菌に感染している場合は若年層でも胃がんのリスクがあります。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうか確認したことがない方は、一度医療機関で検査を受けることをおすすめします。