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外痔核
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

外痔核の概要

痔核とは、肛門管内の粘膜下にある血管や結合組織などが次第に肥大化し、出血や脱出などの症状を呈する状態のことです。

外痔核とは「歯状線」よりも肛門側、外側にできる痔核のことです。肛門の内側約2cmのところに歯状線(しじょうせん)と呼ばれる、肛門と直腸の境界線があります。この線は歯のようなギザギザした形状をしているため、「歯状線」と呼ばれています。 一方でこの歯状線よりも内側、直腸側にできる痔核のことを内痔核と呼びます。この二つの主な症状の違いは、痛みの有無です。歯状線より内側は粘膜、外側が皮膚です。内痔核はほとんど痛みを感じないのに対し、外痔核は強い痛みを伴うことがあります。外痔核は静脈そうがうっ血している状態であり、急性の静脈炎を併発すると、激しい痛みを生じます。 外痔核と同じく、肛門に「血豆」のようなものができる、血栓性外痔核という疾患もあります。痔核の中に血栓ができ、急性期に強い痛みを生じることがあります。一度症状が落ち着いても再発しやすい特徴もあります。

外痔核は市販薬で対処することが多い疾患です。しかし、痔核からの出血だと思っていたものが、実は大腸がんなど、他の病気が隠れていることもあります。長期間自己判断で対処することなく、一度病院で診察を受けることが強く推奨されます。

外痔核の原因

痔の最大の原因は、肛門周囲のうっ血や肛門への刺激です。原因の多くが生活習慣と関係しています。以下にその具体例を挙げます。

  • 慢性の便秘症:排便回数の減少と強いいきみが原因と考えられます
  • 腹圧がかかりやすい重いものを扱う職業
  • 肛門のうっ血が生じやすい長時間のデスクワーク業
  • 食物繊維の摂取が少なくなりやすい場合
  • 冷え性

そのほか、妊娠、出産を契機に発症することも少なくありません。一方で、遺伝的素因のエビデンスはありません。 痔核の中に血栓ができる血栓性外痔核の原因も肛門周囲のうっ血であり、痔核内部に血栓ができた状態です。外痔核の膨らみが急激に腫れ上がるのが特徴で、強い痛みを伴うこともあります。血栓の大きさはさまざまです。血栓が小さければ数週間で吸収されますが、大きい場合は数ヶ月かかることもあります。

痔核は肛門疾患の中で最も多い疾患ですが、初期症状で痛みが乏しいこともあるため、正確な有病率は明らかではありません。肛門鏡検査を受けた方々の有病率だと20-55%と報告されています。痔核の有病率に男女差はなく、45-65歳が最も多い年齢層と報告されています。

外痔核の前兆や初期症状について

外痔核の主な初期症状は肛門周囲のイボ状の膨らみ、肛門の違和感、疼痛、出血です。 外痔核は軟膏などの外用薬を用い、保存的に痔核を小さくしていく治療が主流です。外用薬でコントロールができない場合は手術療法を検討します。手術を行う場合でも、できる限り痔核の腫れをコントロールしてから行います。また、治療中はアルコールを控えるようにします。 血栓性外痔核の場合、急性期の痛みがあまりにひどい場合などは、痔核の表面をごくわずか切開し、中の血栓の塊を取り除くことで除圧し、劇的に痛みを改善できることもあります。 消化器外科や肛門科などの外来で行うことのできる処置です。もちろんこの場合も外用薬を併用し、腫れが治るまで続けます。痛みが強い間は鎮痛剤を使用して痛みをやわらげることもあります。

外痔核の症状と思われるものが現れた際は肛門や大腸の診察に慣れている消化器内科、消化器外科、肛門科を受診すると良いでしょう。肛門科専門の病院やクリニックもあります。

外痔核の検査・診断

外痔核の検査は、まずは外来での視診、医師の指で行う直腸診、その後に肛門鏡検査を行います。外痔核だけでなく、外には出てこない小さなサイズの内痔核を伴っていることもあり、肛門の内側も検査する必要があります。これらの検査で痔核の種類、位置、形状を見ることができます。 痔核の症状として持続する出血があります。この出血源が本当に痔核だけなのか、肛門鏡検査では見ることのできない部位の直腸や結腸を調べる必要もあります。定期検診などで大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行なっていない場合は、必要に応じて大腸内視鏡検査を行います。

痔核と鑑別が必要な他の疾患
  • 裂肛(切れ痔)
  • 粘膜脱(直腸粘膜が肛門の外に出る)
  • 直腸脱(直腸そのものが肛門の外へ反転して出る)
  • 直腸潰瘍
  • 直腸炎
  • 直腸、肛門ポリープ
  • 直腸肛門の腫瘍性疾患(肛門がん、直腸がん)

外痔核の治療

基本的には外用薬を使った保存治療を行います。外用薬にも複数種類があり、腫れを抑える成分が主軸ですが、痛みを抑える局所麻酔が含まれているものなどもあります。市販薬で対応することが方が多い疾患ではありますが、1週間以上経っても症状が改善しない場合は、上記の他の疾患の鑑別も必要になりますので、病院の受診が必要です。 そのほか、円座などを使用し肛門周囲のうっ血を予防するのも効果的です。また、毎日入浴してお湯に浸かることで、肛門周囲の血流を改善し、清潔に保つこともとても効果的です。 血栓性外痔核の治療も同様で、まずは外用薬による保存療法が基本です。痛みの強さによっては鎮痛剤の内服も併用します。保存療法だけでは痛みがコントロールできない場合、小切開による内部の血栓除去が効果的な場合があります。外来で10分程度の処置で終わるものですが、適応の判断は肛門科の専門医が行ないます。血栓のサイズによりますが、手術を行わなくても数週間から数ヶ月で血栓は吸収されます。

保存療法で改善が認められないサイズになってしまった場合、外科的手術治療が選択されます。内痔核と異なり、外痔核は歯状線より肛門側、つまり知覚神経のある皮膚側にできる疾患であり、術後の痛みは不可避です。内痔核の手術には複数の術式がありますが、外痔核の場合は基本的に結紮切除術(L E法)が行われます。 結紮切除術は、一般的に1―3箇所の痔核組織を剥がし取り、根本の痔動脈を結んで切除します。この術式は脱肛と呼ばれる第三、四度の内痔核にも対応でき、そのほか、肛門ポリープ、血栓性外痔核などでも汎用できます。しかし、傷が肛門内側の粘膜領域だけでなく、皮膚にも及ぶため、術後数週間は強い痛みが特徴です。

外痔核になりやすい人・予防の方法

痔の発症予防は肛門のうっ血や肛門への刺激を最小限に抑えることです。生活習慣に関係することが多いため、日頃の心がけで、ある程度は予防、再発予防が期待できます。

  • 排便時に強くいきまない、長時間便座に座らない
  • 排便後、お尻の清潔を保つ:強く拭きすぎるのではなく、ウォシュレットを活用
  • 毎日入浴する:温まることでお尻の血流もよくなるほか、清潔も保てる
  • 便秘や下痢に気をつける:食物繊維の摂取や過度な香辛料、飲酒を控える
  • 長時間同じ姿勢を保たない:お尻の血管のうっ血予防

どんなに気をつけていても痔になることはあるでしょう。早期の段階であればセルフケアや市販薬でコントロールが可能であり、手術が必要になることはほとんどありません。ただし、生活習慣の改善は、実はかなり難しいものであり、症状が進行してしまうことが多い傾向です。市販薬で様子を見るのは1週間以内にとどめ、まずは消化器科、肛門科の受診を考えてみてください。

参考文献

  • 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版改定第二版:日本肛門病学会
  • 下島 裕寛 宮島 伸宜 松島 誠 ; 三大肛門疾患:痔核・裂肛・痔瘻の治療 II.主に入院で行われる痔核に対する外科的治療法; 日本大腸肛門病会誌 74:531-539,2021

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