

監修医師:
田中 茉里子(医師)
プロフィールをもっと見る
・弘前大学医学部卒業 ・現在は湘南鎌倉総合病院勤務 ・専門は肝胆膵外科、消化器外科、一般外科
脱肛の概要
脱肛とは、主に内痔核(ないじかく)が肛門の外に脱出することを言います。痔核とは肛門管内の粘膜下にある血管や結合組織などが、次第に肥大化し、出血や脱出などの症状を呈する状態のことです。 内痔核とは「歯状線」よりも直腸側にできる痔核のことです。肛門の内側約2cmのところに歯状線(しじょうせん)と呼ばれる肛門と直腸の境界線があります。この線は歯のようなギザギザした形状をしているため、「歯状線」と呼ばれています。 内痔核がだんだんと大きくなると、肛門の外へ出てくるようになります。形がイボのようでもあり、いぼ痔とも呼ばれます。このイボがさらに大きくなると、手で戻さなければ自然に肛門管内へ戻ることができなくなります。さらに大きくなると、手で押しても戻らなくなります。脱出した状態で内痔核が腫脹し、肛門管内へ戻すことが困難になってしまった状態を痔核の嵌頓(かんとん)と呼びます。脱肛の原因
痔の最大の原因は、肛門周囲のうっ血や肛門への刺激です。原因の多くが生活習慣と関係しています。以下にその具体例を挙げてみます。- 慢性の便秘症:排便回数の減少と強いいきみが原因と考えられます
- 腹圧がかかりやすい重いものを扱う職業
- 肛門のうっ血が生じやすい長時間のデスクワーク業
- 食物繊維の摂取が少なくなりやすい場合
- 冷え性
脱肛の前兆や初期症状について
内痔核、脱肛の主な症状は出血、脱出、腫脹、脱出に伴う粘液の漏れによる皮膚トラブルです。 内痔核は歯状線より内側の粘膜にできるため、痛みを感じにくく、初期の場合には自覚症状がほとんどありません。内痔核が大きくなると、排便時に便が擦れることで出血を伴うことがあります。この出血で気づく場合が多いようです。内痔核は粘膜下の血管で構成されているため、出血量は多く、便器が真っ赤に染まるような出血をすることもあります。 脱肛は内痔核が肛門管外へ脱出する症状であり、排便時に出てくることが多い傾向です。痔核が大きくなると、腹圧がかかる運動時や歩行時、しゃがんだときや、重いものを持ったときにも出てくるようになります。脱出と勘違いしやすいのが、常に肛門の外に出ている外痔核やスキンタグです。ほかにも直腸の粘膜が出てくる粘膜脱や、直腸が出てくる直腸脱、直腸・肛門ポリープなどがあります。 症状が軽度であれば、塗り薬と排便コントロールで改善できますが、痔核が大きくなると手術が必要になってきます。出血などの異変に気づいたら、早めに検査を受けて適切な治療を受けるようにしましょう。 排便時の出血で見つかることが多い疾患として、大腸がんが挙げられます。大腸がんは日本人のがん有病率で第一位の疾患です。しかし、早期発見できれば治癒の可能性が高い疾患でもあります。出血などの異変があった場合は早めに受診を検討してください。肛門の診察に慣れている消化器内科、消化器外科、肛門科を選ぶと良いでしょう。肛門専門の病院やクリニックもあります。脱肛の検査・診断
外来での診察では、まず医師の指で直腸診を行い、その後肛門鏡検査で肛門内を観察します。痔核の位置や形状を診るための検査です。痔核だと確定診断を行うためには、ほかの直腸肛門疾患を除外する必要があります。持続的な出血が見られる場合、もし診察で痔核を見つけていたとしても、肛門より内側の、肛門鏡で見えない領域で出血が起きている可能性があります。この可能性を否定するために、大腸内視鏡検査を行うことが一般的です。 痔核と鑑別が必要なほかの疾患として、以下のようなものもあります。- 裂肛(切れ痔)
- 粘膜脱(直腸粘膜が肛門の外に出る)
- 直腸脱(直腸そのものが肛門の外へ反転して出る)
- 直腸潰瘍
- 直腸炎
- 直腸、肛門ポリープ
- 直腸肛門の腫瘍性疾患(肛門がん、直腸がん)
脱肛の治療
内痔核が徐々に大きくなり、肛門の外に出てきてしまっている状態を脱肛と言います。 内痔核の脱出程度に関する臨床期分類としてGoligher分類があります。- 第一度(Grade I) ・内痔核が肛門内に留まり、外に突出しない。 ・排便時に出血することがあるが、脱出しない。
- 第二度(Grade II) ・排便時に内痔核が肛門外に脱出するが、自然に戻る。 ・出血や軽度の不快感を伴うことがある。
- 第三度(Grade III) ・排便時や腹圧をかけたときに内痔核が脱出し、手で押し戻さないと戻らない。 ・出血や痛み、かゆみなどの症状が現れることがある。
- 第四度(Grade IV) ・内痔核が常に脱出していて、手で押し戻しても戻らない。 ・重度の出血や痛み、腫れ、炎症が見られることがある。
内痔核、脱肛の外科的治療
- 硬化療法 硬化療法は薬剤を痔核に注入することで、繊維化させ、痔核の脱出を改善させる効果があり、主に第二、三度の内痔核が良い適応となります。ほとんど痛みを伴わない術式です。薬剤の適正使用法に関する講習会を修了した医師が担当します。痛みが巣少ないのが特徴です。有害事象として、発熱や直腸潰瘍、下腹部痛、血圧低下や徐脈がまれに報告されています。
- 結紮切除術(L E法) 結紮切除術は、一般的に1から3箇所の痔核組織を剥がし取り、根本の痔動脈を結んで切除します。この術式は脱肛と呼ばれる第三、四度の内痔核にも対応でき、そのほか、外痔核や肛門ポリープ、血栓性外痔核などでも汎用できます。しかし、傷が肛門内側の粘膜領域だけでなく、皮膚にも及ぶため、術後数週間は強い痛みが特徴です。
- ゴム輪結紮法 ゴム輪結紮法はメスで切らない手術方法の一つで、痔核(イボ)をゴム輪で結び、局所の血液の循環障害を生じさせることで、壊死脱落させる方法です。内痔核に限定すれば疼痛がほとんどなく、手技も簡単であるため、適当な大きさのものであれば外来手術として行われています。ただし、合併症として後に出血を認めることがあり、血をサラサラにする薬を飲まれている方などには行いません。
- Stapled hemorrhoidopexy (PPH法) サーキュラーステープラーという円筒状の外科用の自動吻合器を用い、痔核の上下の直腸粘膜を環状に切除し縫合する術式です。全周性の内痔核や粘膜脱が良い適応です。内痔核が一つだけの場合は、過剰な術式といえます。結紮切除術と比べると、長期的には再発率が高いと言われています。ごくまれに有害事象として直腸穿孔が報告されています。
- 分離結紮法 分離結紮法は内痔核および外痔核それぞれの根本を持続的に緊縛して局所の血流を止めることで壊死に導き痔核を脱落させる方法です。術後疼痛が強いため、十分な鎮痛剤の併用が必要です。
脱肛になりやすい人・予防の方法
痔の発症予防は肛門のうっ血や肛門への刺激を最小限に抑えることです。生活習慣に関係することが多いため、日頃の心がけで、ある程度は予防が期待できます。- 排便時に強くいきまない
- 排便後、お尻の清潔を保つ:強く拭きすぎるのではなく、温水洗浄便座を活用
- 毎日入浴する:温まることでお尻の血流もよくなるほか、清潔も保てる
- 便秘や下痢に気をつける:食物繊維の摂取や過度な香辛料、飲酒を控える
- 長時間同じ姿勢を保たない:お尻の血管のうっ血予防
参考文献
- 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版改定第二版:日本肛門病学会
- 下島 裕寛、宮島 伸宜、松島 誠 ; 三大肛門疾患:痔核・裂肛・痔瘻の治療 II.主に入院で行われる痔核に対する外科的治療法; 日本大腸肛門病会誌 74:531-539,2021




