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スキルス胃がん
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

スキルス胃がんの概要

スキルス胃がんは日本で診断・治療される胃がん全体の約7%、進行胃がんに限ると約15%にみられる胃がんの一種です。

スキルス胃がんは、胃がんの形態のひとつであり、胃の表面(粘膜)ではなく、胃壁にしみこんでいくように進行するものを指します。進行するにつれて胃壁が硬くなり、胃の拡張が悪くなることが特徴的です。

このタイプの胃がんは、通常の胃がんとは異なり、胃の表面に潰瘍などの病変がみられないことがあります。そのため、内視鏡検査(胃カメラ)での発見が困難となります。 また、組織型では非充実型の低分化腺がんが多いです。低分化腺がんとは、腺腔の形成が乏しいまたはほとんど見られない悪性度の高いがんのことを指します。

以上のことから、見つかりにくく進行が速いため、診断時には手術が不能であるなど、進行して見つかることも多くみられます。

スキルス胃がんの原因

スキルス胃がんに特徴的な原因はありません。そのため、胃がんの原因についてお示しします。

年齢、性別

胃がんの発症は年齢とともに増加し、55歳以上の人に多く発症していることがわかっています。また、理由は定かではありませんが、男性は女性にくらべて胃がんの発生リスクが2倍高いとされています。

喫煙

他のがんと同様に胃がんも喫煙者に多く発生することがわかっています。

ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)感染

胃がんの原因は主にピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)の感染であることがわかっています。ピロリ菌は萎縮性胃炎を引き起こし、がんを発生させます。 胃がんと判明した患者さんの90%以上にピロリ菌の感染が関わっていることがわかっています。ピロリ菌感染によって胃がんの発生リスクは約10倍高くなります。

スキルス胃がんの前兆や初期症状について

スキルス胃がんの症状は胃がんとほとんど変わりはなく、初期の症状は乏しいです。さらに、スキルス胃がんは胃の粘膜の下で広がるためより症状が出にくいと考えられます。 胃がんの症状を提示しますが、これらの症状がひとつも表れないまま胃がんやスキルス胃がんが進行している場合もあります。

  • 食欲不振、体重減少 がんによる症状や、胃の拡張障害が起こることで食欲の低下が見られることがあります。
  • 腹痛、みぞおちの痛み 胃がんの症状として胃炎のような症状が見られる場合があります。
  • 吐血 がんからの出血が原因で吐血を起こすことがあります。
  • 黒色便 がんからの出血が腸を通り抜けた場合、便が黒くなることがあります。黒色便の原因としては胃がんだけでなく胃潰瘍や大腸がんでも起こります。
スキルス胃がんには明確な前兆や初期症状を認めないことが多く、発見も困難なので、胃カメラなどを用いた定期的な検診が大事です。

スキルス胃がんの検査・診断

先に示したとおり、スキルス胃癌は胃がんの一種であるため、一般的な胃がんと同様の検査を行います。がんと診断するだけではなく、その進行度(病期)や、手術による切除の可能性も評価します。

血液検査

血液検査では、いくつかのがんによって上昇するがんマーカーであるCEA、CA19−9などの腫瘍マーカーの値を測定します。また、貧血を伴っていることも多いため、ヘモグロビン(Hb)などの値も確認します。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

内視鏡を口から挿入して、胃の中を直接観察する検査です。病変が見つかった場合はそのまま病変の一部を採取(生検)することで、がんの確定診断を行うことができます。

スキルス胃がんでは、胃の内部に腫瘍が明らかではないことも多いため、生検でも腫瘍を採取することが難しい場合があります。しかし、胃の広がり方を見ることで、胃の壁の硬さがわかります。また、胃の内部の粘膜の比だが厚くなるという特徴的な所見を見ることがあります。

上部消化管造影検査(バリウム検査)

バリウム(造影剤)を飲んでから胃を膨らませて、X線検査(レントゲン検査)を行います。胃全体の形や膨らみ方、表面の凹凸を確認することに優れています。特にスキルス胃がんの特徴である胃の硬さや膨らみにくさを見つけやすい検査です。

腹部CT検査

胃カメラや造影剤で胃がんを疑った場合には、続いてCT検査を行います。造影剤を用いてCT検査を行うことでより詳細ながんの場所、広がりを評価することができます。また、CT検査は胸部や腹部全体を撮影し観察することができますので、リンパ節や他の臓器への転移の有無の確認も可能となります。

PET-CT検査

リンパ節や他の臓器への転移の有無が腹部CT検査ではっきりとしない場合に行われることがあります。放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射します。ブドウ糖ががん細胞に多く取り込まれることを利用して、がんの広がりを確認することができます。

審査腹腔鏡(手術)

特に進行したがんで腹膜播種(転移)が疑われた場合に行うことがあります。腹膜播種はCTなどの画像検査で捉えることができないため、正確な病期(ステージ)を判断する目的で行います。検査といいますが、腹腔鏡手術と同様に全身麻酔をしたのちに、お腹に小さな穴を開け、カメラを挿入してお腹の中を直接観察します。転移が疑われる部位の組織や、腹水を採取して転移の有無を確認します。

スキルス胃がんの治療

胃がんの治療は臨床病期によって方針が異なります。検査を行った結果、切除可能と評価された場合には手術を行います。切除不可能と考えられた場合には手術以外の治療を選択することとなります。また、それぞれの治療を組み合わせた治療を行う場合もあります。

胃がんの治療には内視鏡(胃カメラ)治療もありますが、スキルス胃がんに対しては行われることがまずありませんのでここでは省略します。以下で簡単に各治療の概要を説明します。

手術療法

手術は体内からがんを取りのぞき、がんの治癒を期待できる治療となります。手術の方法(術式)はがんの場所や広がりに応じて異なります。胃の出口側2/3を切除する幽門側胃切除術、入り口側2/3を切除する噴門側胃切除術、胃の全てを切除する胃全摘術などがあります。スキルス胃がんでは胃の壁の中にがんが広がっているため、胃全摘術を選択することがほとんどです。

がんが周囲へ広がっている(浸潤)場合には、膵臓や小腸、大腸なども合わせて切除することがあります。また、胆石症がある場合には胆嚢を切除することもあります。

手術でがんを取り去ることができた場合にも病期(ステージ)によっては追加で抗がん剤を行い、再発の可能性の低下を目指します。これを補助化学療法(アジュバント)といいます。

薬物療法(抗がん剤)

手術で取り去ることができないと考えられた場合や、手術後に再発を起こした場合は薬物療法を行います。薬物療法のみではがんを完全に治すことは困難でありますが、進行を抑えたり、腫瘍を小さくしたりすることで、生存期間の延長や、症状の改善、手術が可能となることが期待できます。

膵がんの薬物療法ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1:ティーエスワン®)、カペシタビン(ゼローダ®️)、オキサリプラチン、パクリタキセル、サイラムザ、オプジーボなどの抗がん剤を組み合わせて治療を構築していきます。

胃がんの中にはHER2(ハーツー)という遺伝子の異常を持っているものがあります。この変異を持っているがんに対してはトラスツズマブ(ハーセプチン®)やトラスツズマブデルクステカン(エンハーツ®)といった薬剤も追加で使用します。

また、遺伝子検査の結果によってはペムブロリズマブ(キイトルーダ®)という免疫チェックポイント阻害剤を使用することもあります。

その他の治療

上記以外の治療として放射線治療陽子線治療などが行われることがあります。これらの治療については有効性について十分な検討がされておらず標準治療ではありません。しかしながら、化学療法が効かなくなった患者さんや、高齢で化学療法ができない患者さんに行う場合があります。

スキルス胃がんになりやすい人・予防の方法

スキルス胃がんになりやすい人ははっきりとはわかっておりませんが、ピロリ菌は胃がんの原因として明確です。

ピロリ菌の感染経路としては生水(井戸水)の摂取が関係しています。近年は上下水道の整備が整っていることなどから、ピロリ菌の感染者は減少傾向にあります。定期検診等で胃カメラを受けた際に偶然ピロリ菌の感染が判明することがあります。ピロリ菌の除去は確実に胃がんの発生予防になりますので、除菌療法を受けることをお勧めします。

胃がんの予防は難しいですが、早期発見は治癒の可能性を高めることができます。例えばステージ1の胃がんの5年生存率は96%と極めて高くなります。定期的なバリウム検査、胃カメラを受けられる胃がん検診は早期発見、早期治療のために非常に重要です。

参考文献

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