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乳房パジェット病
松澤 宗範

監修医師
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)

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2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会

乳房パジェット病の概要

乳房パジェット病は、乳がんの一種で、乳頭や乳輪を中心に湿疹やただれなどの症状が現れる病気です。

乳房パジェット病(Paget disease of the breast)は、全乳がんの0.5〜4%、国内報告では0.3〜1%前後と非常に稀な腫瘍で、50〜70歳代の女性に好発します。

乳房パジェット病の症状としては、乳頭や乳輪の腫れ、皮膚の赤みなどが挙げられますが、初期症状に乏しいケースも珍しくありません。また、患者さんが湿疹症状を単なる皮膚炎などと思い込んで放置してしまい、発見が遅れることもあります。

悪化すると、かゆみやただれ、水ぶくれ、乳頭の形状変化などが起こり、さらに進行すると、乳房のしこりや病変のリンパ節転移による脇の腫れなどを自覚するケースもあります。

乳房パジェット病の治療では、外科的治療や化学療法、放射線治療などが選択されます。

第一選択は外科的治療ですが、切除した病変に特定の遺伝子が含まれている場合や広範囲なリンパ節転移や他の臓器への転移がある場合は、薬物療法や放射線治療による治療が検討されます。

乳房パジェット病では、病変の発見が遅れるとリンパ節や他の臓器に転移するリスクが高まり、予後に影響を与える可能性があるため、早期発見が重要です。

早期発見には、セルフチェックと乳がん検診が有効です。
通常の乳がんのセルフチェックのほか、乳頭周辺の違和感などにも注意することで、早期発見につながる場合があります。
ただし、セルフチェックだけでは発見が難しいケースもあるため、定期的に乳がん検診を受けることも重要です。

乳房パジェット病の原因

乳房パジェット病の原因や発症のメカニズムは、現時点ではっきりとはわかっていません。

乳房パジェット病では、パジェット細胞との関連性が認められており、さまざまなメカニズムが提唱されています。
パジェット細胞が乳管(母乳のとおり道)の細胞に由来することから、乳管内に発生した乳がんが乳管を通って表皮まで広がるという説や、トーカー細胞というパジェット細胞に類似した細胞の変異により発症するという説があります。

発症メカニズムに明らかでない部分は多いものの、乳房パジェット病はその病態から乳がんの一種に分類されています。また、外陰部や肛門周辺などにみられる「乳房外パジェット病」は皮膚がんの一種として分類されています。

乳房パジェット病の前兆や初期症状について

乳房パジェット病は、症状に乏しいケースが珍しくありません。
乳房パジェット病を発症すると、乳頭や乳輪における腫れや皮膚の変化が起こるとされています。

主な初期症状は患部における皮膚の赤みであり、境界がはっきりとしていて湿疹に似ているのが特徴です。
病状が悪化すると、かゆみやただれ、水ぶくれ、かさぶた、潰瘍、乳頭の形状変化(引きつれやへこみなど)などが起こるケースもあります。

さらに進行すると、乳房のしこりや病変のリンパ節転移による脇の腫れなどを自覚するケースもあります。

乳房パジェット病の検査・診断

乳房パジェット病の診断では、視診や触診、画像検査(マンモグラフィ検査、超音波検査、CT検査、MRI検査など)、血液検査、病理検査などが選択されます。

視診や触診では、乳房の状態を観察します。
見た目の変化や触った感覚や痛みの有無などから、乳房の異常や病変の広がりなどを確認します。

画像検査は、病変の状態をくわしく観察するためにおこなわれます。
マンモグラフィ検査や超音波検査、MRI検査は、乳房の状態を観察するために、CT検査はリンパ節や肺などの他臓器に転移していないか確認するために実施される傾向があります。

血液検査では腫瘍マーカーの値を確認し、乳房パジェット病を診断する際の目安にする場合があります。

乳房パジェット病の確定診断には、病理検査(病変の成分を顕微鏡で観察する検査)が欠かせません。
とくに湿疹や皮膚炎、体部白癬などと類似している場合は、鑑別のために病理検査が選択されるケースがあります。
一般的には、病理検査では、生検という検査がおこなわれ、針やメスなどを使用して病変の一部を採取します。

乳房パジェット病の治療

乳房パジェット病では、乳がんに準じた治療がおこなわれます。
代表的な治療法としては、外科的治療や化学療法、放射線治療などが挙げられます。

通常、乳房パジェット病の治療では、外科的治療が第一選択です。
外科的治療では病変の広がりを考慮して、部分切除術と乳房全摘術のいずれかが選択されます。

乳房パジェット病では乳頭や乳輪の切除をおこなう場合が多いため、病変の切除とともに乳頭や乳輪を再建する植皮術(他の部位から皮膚を移植する手術)の実施が検討されます。

リンパ節への転移がないか確認する目的で、病変の近くにあるリンパ節(センチネルリンパ節)を切除し、手術中に病理検査がおこなわれる場合もあります。

術前の検査で腋窩(わきの下)にあるリンパ節への転移が認められた場合は、乳房の切除に合わせて腋窩リンパ節の切除がおこなわれるケースもあります。

切除した病変に特定の遺伝子が含まれている場合や広範囲なリンパ節転移や他の臓器への転移がある場合は、薬物療法(抗がん剤や分子標的薬など)や放射線治療による治療が検討されます。

乳房パジェット病になりやすい人・予防の方法

乳房パジェット病は、40~60歳の女性に発症のリスクが高いとされる疾患です。

ただし、乳房パジェット病は湿疹や体部白癬などに似ているため、適切な診断がおこなわれるまでに時間を要するケースが珍しくありません。
ステロイド薬や抗菌薬などの薬剤を使用しても症状の改善がみられない場合は、乳房パジェット病の可能性が考えられます。
長期的に使用しても症状が持続する場合は、再度受診することをおすすめします。

乳房パジェット病では、病変の発見が遅れるとリンパ節や他の臓器に転移して予後に影響を与える可能性があるため、早期発見が重要です。

早期発見には、セルフチェックと乳がん検診が有効です。

セルフチェックでは、しこりがないか触ったり、腕を上下に動かして乳房に引きつれる部分がないか確認したりして、乳房に異常がないか確認します。
乳房を触るときは仰向けになり、そろえた4本の指の腹で軽く押すようにしてまんべんなく触るとよいでしょう。
月経の期間中はホルモンバランスの影響で乳房の状態が変化するため、月経が終わってから4〜5日後にチェックすることをおすすめします。

通常、乳房パジェット病は片側に発生するケースが多いと言われています。
左右の乳房を比べていずれかに明らかな違和感がある場合は、医療機関を受診しましょう。

セルフチェックだけでは発見が難しい場合もあるため、定期的に乳がん検診を受けることも重要です。
とくに40歳以上の女性は発症のリスクが高まるため、2年に1度はマンモグラフィ検査による乳がん検診をおすすめします。

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