目次 -INDEX-

希発月経
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

プロフィールをもっと見る
兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

希発月経の概要

希発月経とは、月経周期が39日以上に延長した状態を指します。正常な月経周期(25-38日)から逸脱し、年間の月経回数が著しく減少する病態です。この状態は、視床下部-下垂体-卵巣系の機能異常を反映していることが多く、不妊や代謝異常のリスクとなる可能性があります。希発月経は思春期や更年期に一時的に出現することがありますが、生殖年齢期での持続的な希発月経は、詳細な医学的評価が必要です。また、女性のライフサイクルにおける重要な健康指標の一つとして考えられており、早期発見と適切な治療介入が望まれます。近年の研究では、希発月経と将来の健康リスクとの関連性も指摘されており、適切な管理の重要性が増しています。

希発月経の原因

希発月経の主要な原因として、内分泌系の異常、特に多嚢胞性卵巣症候群や甲状腺機能異常が挙げられます。多嚢胞性卵巣症候群では、アンドロゲンの過剰産生と卵胞発育障害が特徴的で、排卵障害を引き起こします。甲状腺機能異常では、代謝調節の乱れが視床下部-下垂体-卵巣系に影響を及ぼします。また、過度なストレスや急激な体重変動、過度な運動などによる視床下部性の機能異常も重要な原因となります。これらの要因は、ストレスホルモンの分泌増加やエネルギー代謝の変化を介して、生殖機能に影響を与えます。下垂体機能異常や卵巣機能不全の初期段階、高プロラクチン血症なども希発月経の原因となります。子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的疾患も、月経周期の調節に影響を与え、希発月経を引き起こす可能性があります。また、薬剤性の要因として、向精神薬や一部のホルモン製剤なども月経周期に影響を与えることがあります。

希発月経の前兆や初期症状について

希発月経における主要な症状は月経周期の延長ですが、これに加えて様々な随伴症状が現れることがあります。不規則な月経出血は最も一般的な症状で、出血量や持続期間も変動することがあります。排卵障害に伴う不妊も重要な症状であり、挙児希望のある女性では特に注意が必要です。多嚢胞性卵巣症候群が原因の場合は、体重増加、多毛、にきび、脱毛などの男性ホルモン過剰症状が認められることがあります。また、疲労感やストレス症状、気分の変動も多くの患者さんで経験されます。月経前症候群様症状の増強も特徴的で、乳房痛や浮腫、頭痛などが強く現れることがあります。エストロゲン低下に伴う症状として、ホットフラッシュ、発汗、不眠、腟乾燥感なども出現することがあります。これらの症状は患者さんのQOLに大きな影響を与える可能性があります。

希発月経の検査・診断

希発月経の診断においては、まず詳細な月経歴と症状についての問診が行われます。月経周期の変化、症状の経過、ライフスタイルの変化、ストレス要因、既往歴、家族歴などが重要な情報となります。身体診察ではBMIの測定、甲状腺触診、多毛やにきびの評価、乳房診察などが実施されます。血液検査は診断の重要な要素で、FSH、LH、エストラジオール、プロラクチン、甲状腺機能(TSH、FT3、FT4)、アンドロゲン(テストステロン、DHEA-S)などの測定が行われます。これらのホルモン値は月経周期に応じて変動するため、採血のタイミングも考慮する必要があります。画像診断として超音波検査が実施され、子宮・卵巣の形態評価、卵胞発育の状態、子宮内膜厚の測定などが行われます。多嚢胞性卵巣症候群が疑われる場合は、特徴的な卵巣所見の有無が重要な診断要素となります。必要に応じてMRI検査も実施され、下垂体腫瘍や子宮内膜症などの評価に用いられます。基礎体温測定による排卵の評価も診断に有用で、無排卵周期の有無や黄体機能不全の評価に役立ちます。また、代謝異常の評価として、血糖値、インスリン、脂質代謝なども検査されることがあります。

希発月経の治療

希発月経の治療は、原因に応じた適切なアプローチが選択されます。生活習慣の改善が基本となり、適切な運動、体重管理、ストレス管理が重要です。特に、急激な体重変動や過度な運動は避け、規則正しい生活リズムの確立が推奨されます。薬物療法としては、ホルモン療法が主体となります。低用量ピルは月経周期の調節に有効で、排卵抑制と周期的な消退出血を得ることができます。また、プロゲステロン製剤は子宮内膜の周期的な剥脱を促し、規則的な月経の維持に役立ちます。排卵を希望する場合は、クロミフェンなどの排卵誘発剤が使用されます。多嚢胞性卵巣症候群が原因の場合は、メトホルミンなどのインスリン抵抗性改善薬も考慮されます。甲状腺機能異常や高プロラクチン血症に対しては、それぞれの原因に応じた治療が行われます。また、心理的要因が強い場合は、カウンセリングや認知行動療法なども治療の一環として提供されます。長期的な経過観察が必要で、定期的な治療効果の評価と治療方針の見直しが行われます。

希発月経になりやすい人・予防の方法

希発月経のリスクが高い人としては、急激な体重変動を経験している人、特に過度なダイエットを行っている若年女性が挙げられます。また、競技スポーツ選手やバレエダンサーなど、強度の高い運動を日常的に行う人も発症リスクが高くなります。さらに、高ストレス環境下で働く人、不規則な生活習慣を持つ人、睡眠障害がある人なども注意が必要です。多嚢胞性卵巣症候群や甲状腺疾患の家族歴がある人、肥満や極度の痩せの人も、希発月経のリスク群となります。 予防法としては、まず適正体重の維持が最も重要です。急激な体重変動を避け、BMIを18.5 kg/m2から25 kg/m2の範囲に保つことが推奨されます。食事面では、十分なカロリーとタンパク質の摂取、バランスの取れた栄養素の確保が必要です。特に、極端な食事制限は避け、規則正しい食事習慣を心がけることが大切です。運動に関しては、過度な運動を控え、適度な強度の運動を定期的に行うことが推奨されます。競技スポーツ選手の場合は、トレーニング強度と栄養摂取のバランスを適切に保つことが重要となります。 若年期からの予防的介入も重要で、特に思春期の女性に対する適切な健康教育が必要です。月経周期と生活習慣との関連性について理解を深め、健康的な生活習慣の確立を支援することが望まれます。また、家族や医療者との良好なコミュニケーションを保ち、必要に応じて専門家に相談できる環境を整えることも重要です。 骨密度低下の予防の観点からは、十分なカルシウム摂取と適度な運動が推奨されます。特に、成長期における適切な栄養摂取と運動習慣の確立は、将来の骨粗鬆症予防にも重要な役割を果たします。

参考文献

  • Gordon CM, et al. Functional Hypothalamic Amenorrhea: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017
  • Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine. Current evaluation of amenorrhea. Fertil Steril. 2008
  • Klein DA, et al. Amenorrhea: An Approach to Diagnosis and Management. Am Fam Physician. 2019
  • Meczekalski B, et al. Functional hypothalamic amenorrhea: current view on neuroendocrine aberrations. Gynecol Endocrinol. 2016
  • Munro MG, et al. The FIGO classification of causes of abnormal uterine bleeding in the reproductive years. Fertil Steril. 2011
  • Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine. Current evaluation of amenorrhea. Fertil Steril. 2004
  • Santoro N, et al. Mechanisms of premature ovarian failure. Ann Endocrinol (Paris). 2003

この記事の監修医師