監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
早発閉経の概要
早発閉経は40歳未満の女性において、通常の閉経年齢(平均51歳)より早く卵巣の機能が低下する状態を指します。卵巣機能が低下すると、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが不足し、月経が不規則になったり止まったりします。この状態は女性の体に様々な影響を及ぼし、更年期症状と呼ばれるホットフラッシュ(急な暑さと発汗)、不眠、気分の変化といった症状だけでなく、骨が弱くなる(骨粗鬆症)、心臓病のリスクが高まる、記憶力が低下するなどの健康上の問題を引き起こす可能性があります。また、妊娠が難しくなることも大きな問題の一つです。発症頻度は40歳未満の女性の約1%、30歳未満では0.1%と報告されています。
早発閉経の原因
早発閉経の原因は、85-90%のケースでは明確な原因がわかっていません(原因不明)。しかし、以下のような原因が特定されているケースもあります。
生まれつきの要因として、染色体(遺伝情報を含む構造体)の異常が10-13%を占めています。特にX染色体(女性の性を決定する染色体)の異常が多く見られます。また、体の免疫システムが自分の卵巣を攻撃してしまう自己免疫疾患も約5%で関連が認められています。この場合、甲状腺や副腎など他の臓器にも影響が及ぶことがあります。
がん治療の影響も重要な原因の一つです。抗がん剤(化学療法)や放射線治療は卵巣に影響を与えることがあり、特に一部の抗がん剤では40%程度の方が早発閉経を経験する可能性があります。また、卵巣の病気や子宮内膜症などの治療で卵巣を摘出する手術を受けた場合も、早発閉経となります。さらに、子宮を摘出する手術でも、卵巣への血液の流れが悪くなることで早発閉経のリスクが高まることがあります。
まれな原因として、結核やおたふくかぜなどの感染症による卵巣への影響も報告されています。
早発閉経の前兆や初期症状について
早発閉経の最も一般的な症状は、40歳未満での月経の異常です。具体的には、それまで規則的だった月経が不規則になったり(月経不順)、完全に止まったり(無月経)します。同時に以下のような更年期症状が現れることがあります。
- 突然の暑さと発汗(ホットフラッシュ)
- 寝汗や不眠
- 気分の変動や落ち込み
- 疲れやすさ
- 膣の乾燥感や性交痛
- 頭痛や関節の痛み
- 集中力の低下
ただし、症状の強さには個人差が大きく、約12-14%の方ではほとんど症状がみられないことも報告されています。また、不妊を主訴に病院を受診し、検査の過程で早発閉経が判明することも少なくありません。
早発閉経の検査・診断
早発閉経の診断は、以下の条件を確認することで行われます。
- 40歳未満であること
- 4ヶ月以上続く月経不順や無月経があること
- 血液検査で、卵巣機能を示すホルモン(FSHという物質)の値が高い状態(40 IU/l以上)が、4-6週間の間隔をあけて2回確認されること
また、必要に応じて以下のような検査も行われます。
- 甲状腺機能検査
- 染色体検査
- 骨密度検査
- 超音波検査(卵巣の状態確認)
早発閉経の治療
治療の中心は、不足している女性ホルモンを補充するホルモン補充療法です。これは51歳(自然閉経の平均年齢)までの継続が推奨されます。
ホルモン補充療法には主に以下のような利点があります。
- 更年期症状の改善
- 骨粗鬆症の予防
- 心臓病のリスク低減
- 認知機能(記憶力など)の低下予防
- 腟の健康維持
使用するホルモン剤には、貼り薬、飲み薬、ジェルなど様々な種類があり、個人の状態や希望に応じて選択します。子宮のある方では、子宮内膜症のリスクを避けるため、エストロゲンに加えてプロゲステロンという別の女性ホルモンの併用が必要です。
また、骨の健康を保つために以下のような対策も重要です。
- カルシウムとビタミンDの十分な摂取
- 適度な運動(ウォーキングなど)
- 禁煙
- 過度な飲酒を避ける
早発閉経になりやすい人・予防の方法
早発閉経になりやすい人
早発閉経のリスクが高い方には以下のような特徴があります。
- 家族に早発閉経の方がいる
- 染色体異常がある
- 自己免疫疾患がある
- がん治療(化学療法や放射線治療)を受ける予定がある
予防の方法
完全な予防は難しいものの、以下のような対策が重要です。
- 早期発見のための定期的な健康診断
- 健康的な生活習慣の維持
バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理 - がん治療を受ける予定がある場合は、治療前に卵子や卵巣組織の保存を検討
特に重要なのは、早期発見と適切な治療の開始です。早発閉経と診断された場合は、専門医に相談し、個々の状況に合わせた最適な治療計画を立てることが推奨されます。また、心理的なサポートも重要で、必要に応じてカウンセリングを受けることも検討すべきです。
関連する病気
- 橋本病
- 全身性エリテマトーデス
- 自己免疫性アデノポティー
- 卵巣過剰刺激症候群
- 多嚢胞性卵巣症候群
参考文献
- Qin Y, et al. Genetics of primary ovarian insufficiency: new developments and opportunities. Hum Reprod Update 2015;21:787-808.
- Hamoda H, et al. The British Menopause Society and Women’s Health Concern recommendations on the management of women with premature ovarian insufficiency. Post Reprod Health 2017;23:22-35.
- European Society for Human Reproduction and Embryology (ESHRE) Guideline Group on POI, et al. ESHRE Guideline: management of women with premature ovarian insufficiency. Hum Reprod 2016;31:926-37.
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- Cartwright B, et al. Hormone replacement therapy versus the combined oral contraceptive pill in premature ovarian failure: a randomised controlled trial of the effects on bone mineral density. J Clin Endocrinol Metab 2016;101:3497-505.