

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
無月経の概要
無月経とは月経が一定期間発来しない状態を指します。年齢や状態により、原発性無月経と続発性無月経に分類されます。原発性無月経は満15歳になっても初経が認められない場合、続発性無月経は過去に月経があった女性で3ヶ月以上月経が認められない場合と定義されます。女性の生殖機能や全身の健康状態を反映する重要な症候であり、適切な診断と治療が必要です。無月経は女性のQOLに大きな影響を及ぼし、心理的ストレスや社会生活への支障をきたすことがあります。また、長期的な無月経は骨密度低下のリスクを高め、将来的な不妊や骨粗鬆症の原因となる可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。特に若年女性における無月経は、成長や発達に影響を与える可能性があり、慎重な評価と管理が必要とされます。無月経の原因
無月経は視床下部-下垂体-卵巣-子宮系の各レベルでの異常により発生します。視床下部からのGnRH分泌異常、下垂体からのFSH・LH分泌異常、卵巣機能不全、子宮の器質的異常など、様々な要因が関与します。また、急激な体重減少、過度な運動、強いストレス、栄養障害などの環境要因も重要な原因となります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や早発閉経なども無月経の原因となり得ます。さらに、甲状腺機能異常や高プロラクチン血症などの内分泌疾患も無月経を引き起こすことがあります。遺伝的要因として、Turner症候群やその他の染色体異常も原発性無月経の原因となることがあります。心理的ストレスや不安、うつ病なども視床下部機能に影響を与え、無月経を引き起こす可能性があります。なお、妊娠中は生理的な無月経状態となるため、診断時には必ず妊娠の可能性について確認する必要があります。無月経の前兆や初期症状について
続発性無月経では、月経周期の不規則化が先行することが多く見られます。月経量の減少や月経期間の短縮なども前駆症状として認められます。また、エストロゲン低下に伴う症状として、ほてりや発汗、気分の変調、不眠などが出現することがあります。原因疾患によっては、乳汁分泌や体重変化、多毛、にきびの増加などの症状を伴うこともあります。PCOSが原因の場合は、肥満、多毛、にきび、不規則な出血などが特徴的です。視床下部性無月経では、体重減少、疲労感、食欲不振、運動耐容能の低下などが認められます。高プロラクチン血症による無月経では、乳汁漏出、頭痛、視野障害などの症状が現れることがあります。また、甲状腺機能異常に伴う無月経では、甲状腺機能亢進症や低下症特有の全身症状が出現することがあります。無月経の検査・診断
診断の第一歩は詳細な問診と身体診察です。問診では月経歴、家族歴、既往歴、生活習慣、ストレス要因、服薬歴などを丁寧に聴取します。身体診察では、身長、体重、BMI、二次性徴の発達状態、甲状腺腫大の有無、乳汁分泌の有無、多毛、にきびなどを評価します。基礎体温測定や各種血液検査(FSH、LH、エストラジオール、プロラクチン、TSH、プロゲステロン等)を実施します。FSHの高値は原発性卵巣機能不全を示唆し、プロラクチンの上昇は高プロラクチン血症を示します。画像診断としては経腟超音波検査が基本となり、子宮や卵巣の形態、卵胞の有無、子宮内膜の状態を評価します。必要に応じて骨盤MRI検査、頭部MRI検査なども行います。染色体検査は原発性無月経の症例で考慮されます。また、骨密度測定も重要な検査項目となり、特に長期の無月経症例では骨粗鬆症のリスク評価のために実施します。プロゲステロン負荷試験やエストロゲン・プロゲステロン負荷試験は、子宮内膜の反応性や子宮の器質的異常の評価に有用です。無月経の治療
治療方針は原因に応じて個別化する必要があります。生活習慣が原因の場合は、適切な体重管理、運動量の調整、ストレス管理などの生活指導が基本となります。機能性視床下部性無月経では、適正体重の回復と維持、運動強度の調整、十分な栄養摂取、ストレス管理が重要です。内分泌異常に対しては、ホルモン補充療法や排卵誘発剤の投与を行います。高プロラクチン血症にはカベルゴリンなどのドパミン作動薬、PCOSにはクロミフェンやレトロゾールなどの排卵誘発剤、インスリン抵抗性改善薬を使用します。原発性卵巣機能不全では、エストロゲンとプロゲステロンによるホルモン補充療法が必要となります。子宮や卵巣の器質的疾患に対しては手術療法を検討します。また、骨粗鬆症の予防や治療も重要な治療要素となります。心理的要因が強い場合は、カウンセリングや認知行動療法なども考慮します。治療効果の評価は定期的に行い、必要に応じて治療方針の見直しを行います。無月経になりやすい人・予防の方法
無月経になりやすい人
思春期から若年成人期の女性で、不適切なダイエットや過度な運動を行っている人、強いストレス状態にある人は無月経のリスクが高まります。特に、運動選手やダンサー、モデルなど、厳格な体重管理を必要とする職業の女性は注意が必要です。また、極端な食事制限や不規則な生活習慣を持つ人も無月経を発症しやすい傾向にあります。摂食障害の既往がある人や、強いストレス環境下にある人、うつ病や不安障害を有する人もリスク群となります。予防の方法
予防には、適切な栄養摂取と運動量の維持が重要です。具体的には、適正体重の維持(BMI 18.5-25)、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠の確保、ストレス管理が推奨されます。特に若年期の過度なダイエットは避け、必要十分なカロリーとタンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取を心がけることが大切です。運動選手の場合は、トレーニング強度と栄養摂取のバランスを適切に保つことが重要です。また、定期的な婦人科検診を受けることで、早期に異常を発見し、適切な対応を取ることができます。月経周期の変化や不規則性に気付いた場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。家族歴や既往歴から高リスクと考えられる場合は、より慎重な経過観察が必要となります。また、骨密度低下予防の観点から、適度な運動とカルシウム摂取も重要な予防要素となります。参考文献
- Gordon CM, et al. Functional Hypothalamic Amenorrhea: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017
- Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine. Current evaluation of amenorrhea. Fertil Steril. 2008
- Klein DA, et al. Amenorrhea: An Approach to Diagnosis and Management. Am Fam Physician. 2019
- Meczekalski B, et al. Functional hypothalamic amenorrhea: current view on neuroendocrine aberrations. Gynecol Endocrinol. 2016
- Munro MG, et al. The FIGO classification of causes of abnormal uterine bleeding in the reproductive years. Fertil Steril. 2011
- Practice Committee of American Society for Reproductive Medicine. Current evaluation of amenorrhea. Fertil Steril. 2004
- Santoro N, et al. Mechanisms of premature ovarian failure. Ann Endocrinol (Paris). 2003




