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阿部 一也

監修医師
阿部 一也(医師)

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医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

卵巣腫瘍の概要

卵巣腫瘍は、子宮の左右にある卵巣に発生する腫瘍の総称です。通常で2〜3cmぐらいの大きさですが、大きいものでは30cmを超えることがあります。40才以降に増加し、50〜60才代で発生しやすいです。検診の意義が確立しておらず診断時にすでにお腹の中全体に広がっている進行がんとなっている方が半数以上です。なお、若い世代(10〜20才代)を中心に発生する卵巣胚細胞腫瘍もありますが、頻度はかなり低いです。ここでは中高年女性(40〜60才代)に発生しやすい卵巣腫瘍について解説します。

卵巣腫瘍の原因

加齢

排卵回数が積み重なった40代以上に発生しやすいとされています。排卵回数が多いと卵巣被膜が頻回に傷つき、修復過程に間違いが起こり、腫瘍発生の要因となります。現代社会は晩婚化、少子化、不妊症に伴う排卵誘発剤の使用によりリスクが高まっています。

子宮内膜症

卵巣にチョコレートのう胞をもっている人が40代以上になってがん化しやすいことが分かっています。子宮内膜症は類内膜がんや明細胞がんという組織型の卵巣腫瘍の発生母地となります。子宮内膜症性卵巣のう胞は大きいものほど卵巣腫瘍になりやすいことが知られています。

食生活

動物性脂肪食や高脂質の食事も原因の1つだと言われています。欧米に比べると日本人の発生率は低いほうですが、ライフスタイルの変化によって年々患者数は増えています。

遺伝

卵巣腫瘍の約15%は「遺伝性乳がん卵巣腫瘍症候群(HBOC)」という遺伝的要因が関係しているとされています。「BRCA1」または「BRCA2」という遺伝子に変異があると卵巣腫瘍や乳がんのリスクが高くなるとされています。この変異があると、卵巣腫瘍のリスクが8〜60倍高くなるといわれています。両親のどちらかに遺伝子の変異がある場合、男女関係なく子どもに50%の確率で遺伝します。

その他

月経不順、肥満、ホルモン補充療法も関係しているとされています。

卵巣腫瘍の前兆や初期症状について

初期症状

腹痛や腹部の違和感、膨満感などがありますが、初期には軽いことが多く、ほとんど自覚がなく見過ごされることがあります。

進行した場合に現れる自覚症状

腫瘍が大きくなると、下腹部が張る、下腹部痛、圧迫感、しこり、頻尿などの症状が出ることがあります。下腹部の張りを太ったと考え見逃すことがあります。ダイエットをして対処しようとすることがありますが、お腹だけが出ている場合は卵巣腫瘍の症状かもしれません。そのため食後でなくてもお腹が出ている、圧迫感があってトイレに行くが尿が出ない、などの場合は注意が必要です。またがんが進行すると腹水や胸水のために呼吸が苦しくなることがあります。

卵巣腫瘍のときにはどの診療科を受診するべきか

卵巣腫瘍の場合、主に婦人科を受診することが推奨されます。婦人科は女性の生殖器に関する診断と治療を専門としています。症状や疑いがある場合は早めに相談することが重要です。

卵巣腫瘍の検査・診断

卵巣は腹腔内に存在するため、内診経膣超音波検査で卵巣腫瘍の有無や状態を調べます。経腟超音波検査にて腫瘍がのう胞性(ふくろ状)の場合の多くは良性腫瘍ですが、充実性の場合などでは悪性腫瘍や境界悪性腫瘍も疑われます。

詳しく調べる必要がある場合、MRI検査や採血による腫瘍マーカー測定を行います。CTやMRI検査などの画像検査を併用して、子宮、膀胱、直腸などの他臓器との関係、腫瘍内部の性状、リンパ節の腫大の有無などを観察し、良性、境界悪性あるいは悪性かの診断を推測します。最終的な確定診断(良性、境界悪性、悪性)は手術などによって得られた検体の組織学的診断で行われます。

触診、内診

腹部の触診や、内診台に座り手袋をつけた婦人科医が腟から指を入れて、子宮や卵巣の状態を調べます。卵巣の大きさ、形、癒着の有無を観察します。

経膣超音波検査

画像で子宮や卵巣の状態を確認します。お腹の上からプローブ(器具)をあてる方法と腟の中にプローブを挿入する方法があります。性交経験がない女性の場合はお腹の上からあてる方法で診断できます。卵巣の大きさや状態、腫瘍と周囲の臓器との位置関係などの内部の状態を観察します。

CT検査

リンパ節転移や、卵巣から離れた場所への転移を調べるために検査することがあります。

MRI検査

骨盤の内部を細かいところまで調べることができます。子宮や膀胱、直腸などの関係や、腫瘍内部の状態、リンパ節が腫れて大きくなっていないかなどを観察し、がんかどうかを推測します。

細胞診(病理検査)

組織診断では、手術で切除した卵巣の組織から標本を作製して顕微鏡で観察し、良性、境界悪性、悪性の判定や、組織型の確定をします。最終的な診断結果が出るまでには2週間から3週間かかります。

術中迅速病理診断

手術前に境界悪性や悪性が疑われた場合には、手術の範囲を決めるために、手術中に組織や細胞を採取し、病理診断を行うことがあります。しかし切除した組織を手術後に詳しく調べて確定した最終病理診断と異なる場合があります。最終病理診断によっては再手術をする場合があります。

腫瘍マーカー

がんの診断の補助に用います。腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質です。がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られます。卵巣腫瘍では血液中のCA125などを測定します。

卵巣腫瘍の治療

治療は手術療法が原則です。手術の目的は、卵巣腫瘍の確定診断(組織型とステージの確定)、最大限の腫瘍減量もしくは切除、予後因子に関する情報を得ることです。組織の型によっては化学療法(抗がん剤治療)を追加します。卵巣腫瘍はほかの腫瘍と比べて化学療法が効きやすいとされています。全身状態により手術が困難な場合、術前に化学療法を行ってから手術(中間腫瘍減量手術)を行い、その後に化学療法を行うことがあります。

手術治療

腫瘍の種類(良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍)や状態により手術の術式、範囲などが変わってきます。また妊娠を希望する場合は病気のリスクと妊娠の希望を踏まえて主治医と十分な相談を行なって治療方針を決めます。

薬物治療

極めて早期の症例を除き、手術後の化学療法は必要となります。化学療法は一般的に、パクリタキセル、カルボプラチンなどを中心に投与します。患者さんの状態により使用薬剤、投与方法、投与量などを決定します。
最近では、分子標的治療薬を初回化学療法との併用や初回化学療法終了後の維持療法に用いることも可能になっています。再発した病変に対する化学療法にも分子標的治療薬を用いる場合もあります。

化学療法の副作用は、骨髄抑制による赤血球、白血球、血小板などの減少、腎機能低下、肝機能低下、脱毛、吐き気、下痢、関節痛など多種多様ですが、症状を和らげる薬物治療で対応します。副作用を我慢せず、何かしら症状が出ればすぐに主治医に相談しましょう。休薬が減量など早期に対処した方が副作用が軽度で収まりやすい傾向にあります。

卵巣腫瘍になりやすい人・予防の方法

卵巣腫瘍になりやすい人の特徴

排卵回数が多くなると発症しやすくなるため40代以上の女性に生じやすいとされています。そのため妊娠、出産の経験がない人、初経が早かったり閉経が遅いなどで排卵回数が多い人、不妊症に伴い排卵誘発剤を使用している人は注意が必要です。また子宮内膜症からも発症しやすいと考えられています。食生活では動物性脂肪食や高脂質の食生活もなりやすいとされています。親、姉妹、従妹に乳がんや卵巣腫瘍の人がいる場合、遺伝的な要因(遺伝性乳がん卵巣腫瘍症候群)のため卵巣腫瘍になりやすいことがあります。

予防方法

  • 定期検診
    定期通院の際には、経腟超音波検査で、卵巣の状態もチェックしてもらいましょう。のう胞が大きい場合は、がん化を防ぐために卵巣を摘出する手術の検討が勧められます。
  • 低用量ピル
    子宮内膜症の治療では経口避妊薬の低用量ピルが使われますが、症状が抑えられるだけではなく排卵回数が減ることで、卵巣腫瘍のリスクが低下すると考えられています。副作用としてごくまれに静脈の中に血の塊ができる血栓症が起こることがあります。必ず医療機関で適切に処方してもらいましょう。
  • 遺伝性乳がん卵巣腫瘍症候群(HBOC)
    自分がHBOCかもしれないと不安に思ったら、各地のがんセンターや大学病院などの遺伝カウンセリング外来遺伝性腫瘍外来などで相談しましょう。その際、血縁者のがんの発症状況を確認しておくとよいでしょう。またHBOCであっても、必ず卵巣腫瘍を発症するわけではありません。しかしその発症リスクを下げるために、あらかじめ卵巣と卵管を摘出するリスク低減卵管卵巣摘出術を受ける選択肢もあります。ただしこの手術は、骨粗しょう症などのリスクや精神的負担などのさまざまな問題を含んでいるので、専門的な施設でカウンセリングを受けるなど、よく相談してから選択することが勧められます。


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参考文献

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