

監修医師:
栗原 大智(医師)
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
眼瞼腫瘍の概要
眼瞼腫瘍(がんけんしゅよう)を正しく理解するために、まずは眼瞼(がんけん)について知る必要があります。眼瞼は一般的には、「まぶた」のことを指します。 まぶたは、次の4つの層で構成されています。- 皮膚と皮下組織(まつ毛などの付属器を含む)
- 筋肉
- 瞼板(マイボーム腺という油分を分泌する腺を含む)
- 眼瞼結膜(眼球に接する部分)
眼瞼腫瘍の原因
眼瞼腫瘍は多岐にわたるため、各腫瘍について考える必要があります。麦粒腫
麦粒腫は「ものもらい」「めばちこ」「めいぼ」とも呼ばれます。まぶたには涙や汗を分泌する腺や毛穴があり、その小さな孔から細菌が侵入して炎症を引き起こします。霰粒腫
霰粒腫は、主にマイボーム腺という脂腺が詰まることで起こる炎症性の病気です。原因は細菌感染ではなく、脂腺の詰まりによるもので、多くの場合自然に発生します。最近の報告では、マイボーム腺機能不全症があると発症しやすくなるとされています。眼瞼黄色腫
黄色腫は、皮膚や体の他の部位にできる黄色い隆起やしこりで、主に脂質(コレステロールや中性脂肪)が細胞に蓄積することで発生します。この症状は、重い代謝性疾患や心血管疾患、特定の血液の病気が隠れている可能性を示すサインになることがあります。 黄色腫は、高脂血症(血液中の脂質が高い状態)と深い関係があります。特に、LDL(悪玉コレステロール)や中性脂肪が高い場合に発生しやすいです。また、遺伝性の高コレステロール血症がある人も黄色腫ができるリスクが高いです。 一方で、脂質に問題がない人でも、多発性骨髄腫などの血液の病気が原因で黄色腫が発生することがあります。この場合、壊死性黄色肉芽腫やびまん性平坦型黄色腫と呼ばれる特殊なタイプの病変が見られることがあります。脂漏性角化症
脂漏性角化症は見た目は黒っぽい、または茶色っぽい斑点や隆起として現れ、「老人性イボ」と呼ばれることがあります。性別による発症の差は確認されていませんが、年齢とともに発症率が増加することが知られています。特に50歳以上の人では80〜100%の割合で脂漏性角化症が認められます。遺伝やウイルス(ヒトパピローマウイルス)による影響も考えられていますが、慢性的な紫外線曝露による皮膚老化の兆候とみなされることが一般的です。基底細胞がん
基底細胞がんは、皮膚の表皮に発生する悪性腫瘍の一種です。特にまぶたにできる悪性腫瘍として多く見られ、まぶたの悪性腫瘍の中で90%以上を占めると言われています。紫外線によるダメージ(特にUVB)が原因で発生することが多く、特に日光にさらされやすい部位にできやすいとされています。そのほかにも、放射線や免疫抑制状態などの原因が考えられています。脂腺がん
脂腺がんは、悪性度が高く、致死的になる恐れがある皮膚腫瘍です。特にまぶたに発生することが多く、瞼板内のマイボーム腺、まつ毛のツァイス腺、涙丘、眉毛の皮膚にある脂腺から発生します。上まぶたには約50個のマイボーム腺があり、下まぶたの約25個と比べて多いため、脂腺がんは上まぶたに発生しやすいとされています。高齢女性に多く、眼周囲への放射線治療をしている場合は若年者にもみられます。また、脂腺がんの発生率は、北米と比較してアジアで高いと報告されています。扁平上皮がん
扁平上皮がんは、皮膚の表皮層にある扁平上皮細胞から発生する悪性腫瘍です。まぶたの悪性腫瘍の中で2番目に多い腫瘍であり、全悪性まぶた腫瘍の約5%を占めます。さまざまな原因やリスク因子がありますが、加齢や紫外線、喫煙、ヒトパピローマウイルスなどが挙げられます。 これらは眼瞼腫瘍の一部です。このように、眼瞼腫瘍は多くの種類があり、さまざまな要因が関与しているため、はっきりとした原因はまだ分かっていません。眼瞼腫瘍の前兆や初期症状について
眼瞼腫瘍の症状はまぶた(眼瞼)にできもの(腫瘍)ができていることです。腫瘍は大きくなる場合もありますが、大きさがほとんど変化しない場合があります。腫瘍がどんどん大きくなる場合は悪性腫瘍、大きさがほとんど変化しないものは良性腫瘍であることが多いです。麦粒腫や霰粒腫では痛みが出ることもありますが、その他腫瘍の多くは痛みがありません。また、腫瘍自体の色は黒、茶色、赤色、黄色などさまざまな色をしています。これらの症状があれば眼科を受診するようにしましょう。ただし、眼球以外の場所に及ぶ場合は皮膚科を受診するのも良い選択肢です。眼瞼腫瘍の検査・診断
眼瞼腫瘍の診断は問診や視診に加えて、眼瞼腫瘍自体の状態を観察することで診断されます。眼瞼腫瘍で行われる検査は以下の通りです。問診
眼瞼腫瘍は腫瘍ができた時期、疼痛などの変化に関する問診を行う必要があります。また、遺伝性、紫外線曝露など、リスクファクターに関する問診も行います。細隙灯顕微鏡
眼科の基本的な検査で、直接、目の状態を確認します。眼瞼腫瘍の性状、その原因を精査するために必要です。眼瞼に限局するものか、あるいは眼瞼結膜(まぶたの裏側)への広がりなどを観察します。画像検査
眼瞼腫瘍がどこまで広がるかを確認するため、CTやMRI、PETなどの画像検査を用います。眼瞼腫瘍が眼瞼のどこまで広がっているか、また、眼窩に及ぶ恐れもあります。さらに、悪性腫瘍の場合、全身臓器の転移を確認します。これらは治療の適応を決める際に有用な情報となります。病理組織学的検査
ものもらいなど、良性腫瘍が疑われる際は行われないことも多いですが、悪性や治療難治性の場合は確定診断のための病理組織学的検査を行います。眼瞼腫瘍の治療
眼瞼腫瘍の治療は、その見た目やその種類、大きさ、場所によって異なります。また、腫瘍が良性か悪性かによって治療方法も変わります。良性腫瘍の場合
ものもらいの場合は経過観察にて自然治癒することもありますが、抗菌薬やステロイドの点眼液や眼軟膏を用いて治癒の促進を図ります。また、母斑などの良性腫瘍は、腫瘍の位置に応じて腫瘍を取り除き、必要であれば皮膚を縫い合わせたり、周囲の組織を移動させて欠損部分を覆ったり(皮弁)する手術を行うことがあります。悪性腫瘍の場合
悪性腫瘍が疑われる場合は、腫瘍の一部または全体を取り除き、病理組織学的検査を行います。この際、悪性腫瘍は、見た目には正常に見える周囲の組織にも腫瘍細胞が浸潤している可能性があるため、腫瘍の周囲に一定の安全域を設けて切除します。この安全域の範囲は、腫瘍の悪性度によって決まります。また、視力に影響している場合、その回復が期待できなければ眼窩内容除去術を行います。そのほかにも、眼瞼の範囲が広い場合は化学療法や放射線治療を行うこともあります。眼瞼腫瘍になりやすい人・予防の方法
眼瞼腫瘍にはその腫瘍の種類によって、さまざまな原因やリスクファクターがあります。最も一般的なものは紫外線曝露であるため、紫外線から目とその周辺を守ることが重要です。 紫外線予防として、主に以下の方法が挙げられます。- 日焼け止めを塗る
- つばの広い帽子をかぶる
- 長時間の日光を避ける
- 紫外線カット率の高いメガネやサングラスをかける
参考文献




