監修医師:
柳 靖雄(医師)
眼部帯状疱疹の概要
眼部帯状疱疹は、水痘帯状ヘルペスウイルスの再活性化によって引き起こされる眼の感染症です。
水痘帯状ヘルペスウイルスは水痘(水ぼうそう)のウイルスでもあり、一度感染すると体内に潜伏します。
過度な疲労やストレスなどで免疫力が低下すると、ウイルスが再び活性化し、帯状疱疹として現れることがあります。
眼部帯状疱疹は、顔面の知覚を司る三叉神経の第1枝の支配領域である、額や上まぶた、鼻に発症します。
症状は、皮膚のピリピリした痛みや発疹から始まり、進行すると結膜炎や角膜炎、強膜炎などの眼の合併症を引き起こす可能性があります。
眼の合併症により、眼球の充血や痛み、視力低下などが生じることもあります。
診断は主に臨床症状と特徴的な皮膚病変の確認によっておこなわれます。
眼症状に対する細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょうけんさ)や、診断が不確実な症例に対するPCR検査などの追加検査が実施されることもあります。
治療は主に抗ウイルス薬の全身投与をおこないます。
眼の症状に対しては、抗ウイルス剤の眼軟膏や、ステロイド点眼薬が使用されます。
眼部帯状疱疹は早期診断と適切な治療によって合併症のリスクを軽減し、症状の持続期間を短縮することが重要です。
50歳以上の健康な人には帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されており、眼部帯状疱疹の予防にも効果があります。
眼部帯状疱疹の原因
眼部帯状疱疹は、水痘帯状ヘルペスウイルスの再活性化によって引き起こされます。
水痘帯状ヘルペスウイルスは、水痘(水ぼうそう)に罹患した後、体内の神経節に潜伏します。
通常、体の免疫システムがウイルスを抑制していますが、免疫力が低下すると再活性化する可能性があります。
免疫力が低下する要因としては、過度の疲労やストレス、病気、加齢、ステロイド薬や免疫抑制剤の長期使用などが挙げられます。
これらの要因により体の防御機能が弱まると、潜伏していたウイルスが活性化し、神経に沿って皮膚や眼に到達して症状を引き起こします。
眼部帯状疱疹の前兆や初期症状について
眼部帯状疱疹の前兆として、片側の顔面や頭部に違和感やピリピリした痛みが現れ始めます。
前兆が起きてから2〜3日後に、三叉神経の第1枝の支配領域に沿って、額やまぶた、鼻などに発疹が広がり、赤みや水疱、膿、痂皮(かひ:かさぶた)が形成されます。
発熱や頭痛が起こることもあります。
眼部帯状疱疹が進行すると、眼に合併症が生じます。
結膜炎や角膜炎、強膜炎、虹彩毛様体炎、眼輪筋麻痺などが起こる可能性があります。
これらの合併症により、眼の充血や強い痛み、まぶたや角膜の浮腫、羞明(しゅうめい:光が異常にまぶしく感じること)、視力障害などの症状が現れます。
適切な治療のタイミングが遅れると、神経痛などの後遺症が残る可能性があります。
眼部帯状疱疹の検査・診断
眼部帯状疱疹の診断は、主に特徴的な皮膚病変の観察と細隙灯顕微鏡検査による眼の合併症評価によっておこなわれます。
眼部帯状疱疹が発症している場合は、額や上まぶた、鼻の先に片側性の発疹が認められます。
細隙灯顕微鏡検査では、細隙灯という拡大鏡によって結膜炎や角膜炎などの眼合併症を詳細に観察します。
「フルオレセイン」という染色を用いて角膜の微細な病変を確認することもあります。
眼の合併症は皮膚症状より遅れて出現する可能性があるため、診断が不確実な場合はPCR検査や血中のウイルス抗体価の測定などが実施されることもあります。
眼部帯状疱疹の治療
眼部帯状疱疹の治療は、通常の帯状疱疹と同様に抗ウイルス薬の全身投与が基本となります。
「アシクロビル」や「バラシクロビル」などの抗ウイルス薬を発症から72時間以内に内服することで、眼症状や神経痛の合併を減らせることがわかっています。
眼症状に対しては、アシクロビルなどの抗ウイルス剤を含む眼軟膏を使用し、炎症を抑えるためにステロイド点眼薬も併用されます。
虹彩毛様体炎が起きている場合は、緑内障を予防するための点眼薬を利用することもあります。
眼部帯状疱疹になりやすい人・予防の方法
眼部帯状疱疹は水ぼうそうや帯状疱疹の既往歴がある人がなりやすい傾向にあります。
しかし、水ぼうそうの症状が出ていなくても、水痘帯状ヘルペスウイルスが体内に潜伏している可能性があります。
2017年の統計によると、20歳以上の成人の約95%は水痘帯状ヘルペスウイルスを保有していることがわかっています。
(出典:NIID国立感染症研究所「水痘・帯状疱疹の動向とワクチン」)
特に50歳以上の人や妊婦、がん患者、HIV感染者、ステロイド薬や免疫抑制剤を長期的に使用している人は免疫力が下がりやすいため、発症リスクが高くなります。
予防の方法は、日頃から免疫力を維持することです。
栄養バランスの取れた食事を心がけ、十分な睡眠をとり、適度な運動と休息を取り入れることが重要です。
また、リフレッシュする時間を作るなど、過度なストレスをためないよう心がけましょう。
50歳以上の人には、帯状疱疹を予防するためのワクチン接種が推奨されています。
帯状疱疹ワクチンは発症予防だけでなく、重症化予防にも効果があるとされています。
(出典:東京都保健医療局「帯状疱疹と帯状疱疹ワクチンについて」)
参考文献