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糖尿病黄斑浮腫
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

糖尿病黄斑浮腫の概要

糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)は、糖尿病の発症が原因で起こる合併症の1つで、目の網膜にある「黄斑」に異変が起きる病気です。眼球をカメラに例えるとフィルムやセンサーにあたるのが網膜で、黄斑はその網膜の中でも重要な神経が密集している部分です。

糖尿病黄斑浮腫では、糖尿病の影響により、黄斑付近に毛細血管から漏れ出した成分が溜まるなどして、「浮腫(ふしゅ=むくみのような状態や変形)」が生じます。その結果、視界のゆがみや、視力低下などの症状が現れます。

治療には、薬物療法や手術療法が複数存在します。病状や患者さんの状態に合わせて適した治療法を選択、あるいは複数組み合わせて治療します。
初期の段階で発見できれば、治療の選択肢も広く、治療による症状の改善や再発予防が期待できることが知られています。

糖尿病黄斑浮腫の根本的な予防方法は、糖尿病を発症しないようにすることです。
すでに糖尿病を発症している場合は、この疾患の発症を完全に防ぐ手段はありません。しかし、医師の指導に基づき、糖尿病の進行を防ぐ治療や定期的な検査を継続することにより、発症リスクを下げたり、早期発見で適切な治療につなげることができます。

糖尿病黄斑浮腫

糖尿病黄斑浮腫の原因

糖尿病黄斑浮腫のおおもとの原因は、糖尿病の発症です。

糖尿病の影響で高血糖が続き、血管が傷つきやすくなったり、脆くなったりすると、網膜周辺の毛細血管でも異常が起きやすくなります。毛細血管からの出血や、毛細血管が詰まってできた「こぶ」などから血液の成分が漏れることによって、網膜の黄斑部分が変形する場合があります。これが、糖尿病黄斑浮腫の発症メカニズムです。

糖尿病では糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害の三大合併症が有名ですが、糖尿病黄斑浮腫は糖尿病網膜症の発症と関係が深いと考えられています。

糖尿病網膜症は進行性の病期をたどり、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症と、三段階に進行するとされています。糖尿病黄斑浮腫はそれらの病期のうちどの病期の網膜症にも合併する可能性があるのが特徴です。

糖尿病黄斑浮腫の前兆や初期症状について

糖尿病黄斑浮腫の初期症状は、ものがわずかに歪んで見えることなどです。
ただし、初期の糖尿病黄斑浮腫では自覚症状のない場合も少なくありません。

病状が進行すると、物がさらにゆがんで見えたり、小さく見えたり、視界がかすんで見えにくくなったり、視力低下をはじめとするさまざまな症状が現れることがあります。

糖尿病の発症が、この疾患の前兆です。

糖尿病黄斑浮腫と糖尿病網膜症は、どちらも初期の段階では自覚症状に乏しいことが知られています。血液検査などによりすでに糖尿病の発症が判明している場合は、定期的な眼科検診を受けることで、この疾患の早期発見につながる可能性があります。

糖尿病黄斑浮腫の検査・診断

糖尿病黄斑浮腫の診断では、問診や視力検査、眼圧検査、光干渉断層計(OCT)、眼底検査、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査などが行われます。

問診では糖尿病の罹患期間や治療歴、ヘモグロビンA1Cの値の推移などを確認します。
ヘモグロビンA1Cは血液中の糖がついたヘモグロビンの割合を示し、数値の変化により血糖値のコントロール状態を確認します。

視力検査や眼圧検査は基本的な検査ですが、血管新生緑内障のような他の合併疾患の診断にも役立ちます。

光干渉断層計は網膜の断層構造を観察する検査であり、黄斑浮腫が生じている範囲を高い精度で特定することができます。

眼底検査は目の奥にある網膜や黄斑、その周囲の毛細血管のようすを観察する検査です。
糖尿病網膜症の進行度、黄斑部の浮腫の位置などを確認することができ、治療方針の検討に役立ちます。

細隙灯顕微鏡検査はスリット状の光を目に当てて、角膜や結膜を観察する検査です。
糖尿病患者で合併しやすい角膜や結膜の病気、白内障の有無を確認します。

糖尿病黄斑浮腫の治療

糖尿病黄斑浮腫の治療には、ステロイド薬や抗VEGF薬などの薬物療法、レーザー光による網膜光凝固術や硝子体(しょうしたい)手術などによる手術療法があります。これらは糖尿病網膜症の治療方法ともほぼ共通するものです。

それぞれの治療法にはメリットやデメリットが存在します。病状の進行度や患者の全身状態、視力などさまざまな条件を考慮し、適切な治療方法が検討されます。治療効果を上げるため、複数の治療法を組み合わせることもよくあります。

薬物療法

糖尿病黄斑浮腫の薬物療法では主に、ステロイド薬や抗VEGF薬が使われます。

毛細血管周辺の炎症を抑えて症状の改善をはかるステロイド薬に対し、近年になって使われ始めた抗VEGF薬は、むくみを改善する効果が高く、即効性もあるため、黄斑浮腫の治療方法として選択される機会が増えています。

手術療法

糖尿病黄斑浮腫の手術療法では主に、網膜光凝固術というレーザー光を使う手術と、硝子体手術がおこなわれます。

網膜光凝固術では、レーザー光を患部に当てて凝固させ、浮腫の原因となる水分が黄斑部に漏れ出ることを防ぎ、症状の改善を狙います糖尿病網膜症の治療方法としても選択されることが多い治療法で、薬物療法と組み合わせておこなわれることもあります。

硝子体手術は、網膜周辺の治療とともに、出血や増殖組織の除去も同時におこなう治療法です。
黄斑浮腫だけでなく糖尿病網膜症がかなり進行してしまい、他の治療法ではじゅうぶんな効果が期待できない場合の治療法として選択されます。

糖尿病黄斑浮腫になりやすい人・予防の方法

糖尿病黄斑浮腫になりやすい人は、糖尿病を発症している人です。
さらに、糖尿病の合併症として糖尿病網膜症を発症している人は、病状の進行によらず、常に糖尿病黄斑浮腫の発生リスクがあります。

したがって、糖尿病黄斑浮腫の根本的な予防方法は、糖尿病を発症しないようにすることです。ただし、糖尿病を発症していても、医師の指導のもと血糖コントロールなどに努め、糖尿病を進行させないようにすることで、糖尿病網膜症の発症を防ぐ、あるいは発症を遅らせることができます。糖尿病網膜症を予防することは、結果として糖尿病黄斑浮腫の発症予防にもつながります。

糖尿病黄斑浮腫は、早期発見と早期治療によって治療や症状の改善が期待できる疾患です。たとえ自覚症状がなくても、定期的な血液検査や眼科検診を受けることは、有効な予防手段と言えるでしょう。

また、糖尿病をはじめとする生活習慣病は、生活習慣の自己管理により、発症予防や病状の改善につながることが知られています。日常生活の中でバランスのよい食事や適度な運動を常に心がけることが、もっとも基本的な予防手段となるでしょう。


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