監修医師:
柿崎 寛子(医師)
アカントアメーバ角膜炎の概要
アカントアメーバ角膜炎は、目の角膜(眼球のいわゆる黒目の部分)に「アカントアメーバ」という微生物が感染することで起こる、角膜感染症の一種です。
角膜感染症は、目を強くこすったり、誤って突いてしまったりしたときにできた角膜の傷から、主に細菌やカビ、ウイルスなどが侵入することで発症しますが、まれな感染源としてこのアカントアメーバによるものも知られています。
アカントアメーバ角膜炎の症状は、細菌性角膜炎と同様で、目の痛みや異物感とともに、充血や眼脂(がんし=目やに)などが見られ、重症化すると失明に至る恐れもあります。
アカントアメーバ角膜炎の治療には、薬物療法などがおこなわれます。ただし、効果的な治療法はいまだ確立されておらず、他の感染性の角膜炎に比べて治療が難しいのが特徴です。治癒するまでに長い時間を要することもあり、低下した視力がもとにもどらない可能性もあります。
日本国内における発症例の報告では、ソフトコンタクトレンズの使用に関連するものが大半を占めています。したがって、ソフトコンタクトレンズの適正な使用がこの疾患を予防する手段の1つとなります。
アカントアメーバ角膜炎の原因
アカントアメーバ角膜炎の原因は、角膜上の小さな傷などにアカントアメーバが付着し、そのまま角膜上に感染が広がることです。
アカントアメーバは自然界の土壌や水の中に広く分布する存在する微生物で、洗面所周りや室内のほこりなど、私たちの身の回りにも生息しています。とはいえ、日常生活で感染がおこることは、本来はまれなことであると考えられてきました。
しかし、コンタクトレンズの普及に伴い、ソフトコンタクトレンズを不適切に扱ったり、不衛生な使用法で装着を続けたりしたことによる感染例が相次ぐようになりました。
その結果、近年の日本国内に限れば、アカントアメーバ角膜炎の発症原因はソフトコンタクトレンズの使用に関係するものが大半を占めていると考えられています。
アカントアメーバ角膜炎の前兆や初期症状について
アカントアメーバ角膜炎の初期症状としては、目の充血や多量の眼脂(目やに)が認められます。角膜全体が白く濁ってしまうケースもあります。
目の痛みは状態によって異なり、目の異物感程度である場合から、目を針で刺されるような強く鋭い痛みを感じる場合までさまざまです。基本的な症状は、細菌やウィルスによる他の角膜感染症や角膜炎と似ており、症状だけで区別することは難しいとされています。
重症の場合は一時的な視力の低下もみられ、治療が遅れると失明する恐れもあります。
アカントアメーバ角膜炎が両目同時に発症することはまれで、片目だけに発症する傾向があります。
ソフトコンタクトレンズを日常的に使用している人で、正しい取り扱いをしなかったあとに目に違和感などがあれば、この疾患の前兆である可能性があります。
アカントアメーバ角膜炎の症状は、感染の広がりとともに徐々に進みます。自覚症状を認めた場合はすみやかに眼科を受診することが推奨されます。
アカントアメーバ角膜炎の検査・診断
アカントアメーバ角膜炎の基本的な検査は、問診や細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)による観察です。細隙灯顕微鏡は眼科でよく使用される顕微鏡で、角膜の状態を詳しく観察することができます。
角膜炎の症状が認められ、問診でコンタクトレンズの使用状況などが確認できた場合は、アカントアメーバを含めた感染源を特定するために、詳しい検査をおこないます。
角膜から採取したサンプルを培養するなど、生学的検査でアカントアメーバが検出された場合は、確定診断となります。
アカントアメーバ角膜炎の治療
アカントアメーバ角膜炎の主な治療法は、薬物療法や病巣掻爬(びょうそうそうは)です。
ただし現在のところ、アカントアメーバによく効く薬というものは開発されていないため、薬物療法は既存の抗菌薬や抗真菌薬などを数種類組み合わせる手法がとられます。
病巣掻爬では、アカントアメーバに侵された角膜組織を薄く削り取り、物理的に除去します。
アカントアメーバ角膜炎は、早期に発見できれば上記の治療法を組み合わせることによりすみやかに治療できることもありますが、多くの場合は治療は難航し、他の角膜炎に比べても治療に時間がかかる傾向があります。
また、発見が遅れて重症となった場合は、治療後も低下した視力が戻らない恐れがあり、治療法として角膜移植手術が検討されることもあります。
アカントアメーバ角膜炎になりやすい人・予防の方法
アカントアメーバ角膜炎は、外傷などをきっかけに感染する可能性もありますが、日本国内での発症傾向に基づくならば、アカントアメーバ角膜炎になりやすい人は、ソフトコンタクトレンズを日常的に使用している人だと言えます。
特に、コンタクトレンズの適切な取り扱いを怠っている人は発症リスクが高まります。他には、目を強くこする癖のある人や、免疫力の低下している人も注意が必要と言えるでしょう。
コンタクトレンズの取り扱いにおいて、衛生管理にじゅうぶんな注意を払い、適切な使用法を守ることは、アカントアメーバ角膜炎だけでなく、他の角膜感染症や目のトラブルを予防する意味でも重要です。
適正な範囲を超える長時間装用などには特に注意が必要で、コンタクトレンズをつけたままの睡眠、入浴、遊泳などは発症リスクを高める行為となります。また、ソフトコンタクトレンズ本体だけでなく、消毒保存用のケースがアカントアメーバの汚染を受ける例もあります。ケースの定期的な洗浄も含め、コンタクトレンズを正しい手順で取り扱うことが、予防につながります。
ソフトコンタクトレンズの使用中に違和感を感じたら、すみやかに眼科を受診することも大切です。もちろん、定期的に眼科検診を受けることも、効果的な予防法となるでしょう。
参考文献