監修医師:
柿崎 寛子(医師)
硝子体出血の概要
硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)とは、目の奥にある硝子体の内部に血液が広がったり溜まることで、硝子体に濁りなどを生じてしまった状態のことです。
ガラス体と呼ばれることもある硝子体は、コラーゲンを主成分とする無色透明のゲル状物質でできています。硝子体には血管は通っていないため、硝子体そのものが出血するわけではありません。
しかし、硝子体に隣接する網膜や視神経乳頭などの血管から出血があると、血液が硝子体の内部に流れ込んでしまうことがあります。
硝子体の内部に血液が流れ込むと、その血液が光を遮り、視力低下などの症状を引き起こします。隣接する組織で出血がおきる原因はさまざまですが、たとえ出血が止まっても、硝子体の内部に血液が残っている限り、硝子体出血の症状は改善しません。
硝子体出血の重篤度は出血の量と原因にもよります。軽微なものであれば自覚症状がほとんど出ない場合もありますが、網膜剥離を併発している場合などは放置すれば失明にもつながる恐れがあり、緊急の処置を要します。
硝子体出血の原因
硝子体出血の原因の大半を占めるのは、網膜や視神経乳頭周辺の異常によるものです。その代表的な原因疾患としては、網膜剥離、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性、網膜裂孔、イールズ病などが挙げられます。
特に、網膜周辺の新生血管からの出血が原因となっている症例が多く見られます。新生血管は糖尿病網膜症などが進行する過程で形成される異常な血管で、脆く出血しやすいという特徴を持ちます。
自覚症状のないまま新生血管からの出血が繰り返されると、かさぶたのような膜(増殖組織)が生じて、より大きな出血や網膜剥離の危険性が高まります。
したがって、糖尿病をはじめとする間接的な原因疾患を抱える人は、自覚症状が出ていなくても、定期的に網膜周辺の検査をすることが推奨されます。
他には、くも膜下出血や偶発的な外傷が原因となって、硝子体出血がおきる場合もあります。
なお、出血量によっては硝子体出血の原因を特定するのが難しいこともあります。これは、硝子体の混濁により網膜周辺を検査する手段が限られてしまうためです。
硝子体出血の前兆や初期症状について
軽度の硝子体出血の場合、糸くずや虫が浮いているように見える飛蚊症の増悪を自覚する人が多いですが、自覚症状がほとんど現れないケースもあります。
出血量が増え、硝子体の混濁が広がると、視力低下、視界がかすむ、視界全体が暗くなる、視界が狭くなるなど、はっきりとした症状が現れます。
硝子体出血において、これらの自覚症状のさらに前兆となるものは検査によって発見する以外にありません。硝子体出血は糖尿病の進行との関連性が深いため、発症リスクが高いと考えられる人は定期的な検査を受けることが重要です。
硝子体出血の検査・診断
硝子体出血の検査・診断では「眼底検査」が特に重要です。眼底の網膜やその周辺組織をよく観察し、出血原因や程度を判定しなければならないからです。
硝子体出血の予防的検査、あるいは軽度の硝子体出血であれば、眼底検査で網膜などを直接観察することで、出血原因まで診断ができます。
ところが、すでに硝子体出血をおこしていて、出血が硝子体全体に広がるなど混濁がひどい状況では、眼底検査がじゅうぶんにおこなえない場合があります。その際は、超音波検査、網膜電図(ERG)検査、光干渉断層計(OCT)検査など、別の検査方法で網膜周辺の組織の状態を確認して、診断を試みます。
また、各検査をしてもはっきりと原因が診断できないような状況で、特に網膜剥離が疑われる場合など緊急を要する際には、原因の特定よりも治療(硝子体手術)を優先する例もあります。
硝子体出血の治療
硝子体出血の治療法は、基本的に硝子体を取り除く手術がおこなわれます。ただし、出血量が少なく、自然に吸収されていく可能性が高いと考えられるなど、治療に緊急性がないと判断できた場合は、経過観察となるケースもあります。
硝子体出血と同時に網膜剥離の危険性が認められる場合は、放置すると失明に至る可能性が高いため、より緊急の治療として硝子体手術をおこないます。
また糖尿病などの全身疾患が原因で硝子体出血が生じている場合には、その疾患に対する治療も並行しておこないます。
経過観察
硝子体出血の程度や症状が軽く、かつ網膜剥離の恐れがないと診断できた場合は、そのまま安静にして経過観察となることが多いです。
硝子体内に溜まった血液が自然に吸収された場合は、手術の必要はなくなります。しかし、出血が濁りや曇りとして残ってしまう場合もあり、その際の治療手段は硝子体手術となります。
硝子体手術
硝子体から、血液により混濁した部分を取り除く手術を、硝子体手術といいます。
経過観察を経ても硝子体出血の症状がおさまらない場合や、出血の量が多い場合は、手術を選択します。
硝子体手術では、出血により混濁した部分の硝子体を吸引除去します。手術により初めて眼底の様子が明らかになる場合もあるため、出血が続いていたら止血処置、網膜剥離の危険性があればその治療など、網膜周辺の手術処置を追加することがあります。
硝子体手術は、眼科治療の中でもたいへん繊細で、難易度の高い手術に分類されます。ただし、専用器具の発達とともに低侵襲化が進み、現在では日帰り手術も広くおこなわれるようになっています。
硝子体手術が成功すると、出血により低下していた視力は回復します。ただし、網膜など他の組織に問題があった場合は、すべての症状が改善するとは限りません。
原因となっている病気によっては、硝子体出血を再発するリスクも残ります。したがって、手術後には関連する病気の治療が必要となる例が大半です。
硝子体出血になりやすい人・予防の方法
硝子体出血は、誰にでも起こり得ますが、若い世代の人や特に持病のない健康な人にとっては、それほど発症リスクの高い病気ではありません。
一方、糖尿病などをすでに発症している人、あるいは網膜周辺のトラブルが増える中高年以降の人は、硝子体出血の発症リスクが特に高いと言えます。また、持病などで血液をサラサラにする薬を定期的に内服している方は、一度出血すると止まりにくく、出血量が多くなる傾向、また吸収されにくい傾向がありますので、注意が必要と言えるでしょう。
硝子体出血を予防する方法として、以下の点に注意しましょう。
- 糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症予防に努める
- 中高年以降は、自覚症状はなくとも定期的に眼科を受診する
- 糖尿病などをすでに発症している人は、医師の指示に従い、治療と検査を継続する