監修医師:
柳 靖雄(医師)
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原田病の概要
原田病(フォークト-小柳-原田病)は自己免疫疾患のひとつで、両眼のぶどう膜や身体のさまざまな器官に炎症が起こる病気です。
メラニン色素細胞に免疫反応が起こることで発症するため、ぶどう膜のほかにメラニン色素細胞が多く含まれている髄膜や内耳、皮膚、毛髪にも炎症が伴います。
ぶどう膜は、眼から入った情報を脳に伝達する「網膜」や、眼球の外側を頑丈に覆う「強膜」と共に眼球を構成する膜です。
瞳孔を動かして目に入る光の量を調節する「虹彩」と、水晶体を調節して物を見るときの焦点を合わせる「毛様体」、網膜に栄養を届ける「脈絡膜」から成り立ちます。
ぶどう膜に炎症が起こると、虹彩や毛様体、脈絡膜の機能が落ちるのに加えて、隣接する網膜の下に水がたまることで網膜剥離が起こります。
原田病の主な症状は眼のかすみや充血、物を見たときの視力の低下やゆがみ、眩しさなどです。
眼の中が赤っぽくなる「夕焼け状眼底」などは、原田病に特徴的な所見です。
脳を包んでいる髄膜や、聴覚とバランス感覚をつかさどる内耳に炎症が起こることで、頭痛や発熱、嘔吐、難聴、耳鳴り、めまいなどの症状も見られます。
メラニン色素細胞の減少が進むと皮膚に白斑がでたり、毛髪やまつげなどの脱毛や白毛が現れることもあります。
原田病の原因
原田病は、免疫系がメラニン色素細胞に対して異常に反応して攻撃することが原因です。
免疫系は本来、外から入ってきた異物に対して攻撃し、身体を守るはたらきを持ちます。
しかし、免疫系が誤ってメラニン色素細胞を悪い物質だと認識すると、メラニン色素細胞をもつさまざまな器官を標的として攻撃します。
眼以外にも攻撃が加わるため、原田病はほかのぶどう膜炎と異なり、全身のあらゆる器官に炎症が起こるのが特徴です。
メラニン色素細胞は日本人を含む東洋人に多いため、日本の原田病の発症率は欧米などに比べて高いことがわかっています。
原田病の前兆や初期症状について
原田病の自覚症状は髄膜炎の症状からはじまり、徐々に眼や内耳の症状が現れることが多いです。
前兆
原田病の前兆は主に髄膜炎の症状で、頭痛や全身の倦怠感、微熱、頭皮のピリピリ感などです。
これらの症状は眼の症状よりも先に見られることが多く、風邪をひいたときの症状にも似ています。
初期症状
初期症状では、髄膜炎の症状に加えて、眼や耳の症状が現われます。
眼の症状で見られるのは眼球の充血やかすみ、歪視、視力低下などです。
初期の段階では、症状の左右差や網膜剥離がないケースもあります。
内耳に炎症が起こることにより、感音性難聴や耳鳴り、めまいなども見られます。
原田病の検査・診断
原田病が疑われるケースでは、一般的な眼科検査や血液検査のほかに、次の検査をおこないます。
原田病の診断は眼や内耳、髄液の検査などによって、全身の症状を確認して総合的に判断します。
蛍光眼底造影
蛍光眼底造影は、腕の静脈にフルオレセインやインドシアニングリーンという蛍光色素を含んだ造影剤を注射してから、眼の奥の血管や網膜などを眼底カメラで撮影する検査です。
通常の眼底検査では読み取れない新生血管や血液が途絶えた部分、血液がもれた部分などがわかります。
蛍光眼底造影を使用すると、網膜剥離が起きている部位で蛍光色素の貯留が認められます。
両眼に蛍光色素の漏出点が多数見られるケースでも、原田病の診断材料になります。
光干渉断層撮影
光干渉断層撮影は、点眼薬で瞳孔を広げた後に、赤外線を眼に照射して網膜などの断面像を撮る検査です。
網膜の状態やぶどう膜の炎症の程度を観察するために使用されます。
原田病で光干渉断層撮影をおこなうと、漿液性(水分がたまる)の網膜剥離や脈絡膜の肥厚が認められる場面が多く見られます。
聴覚検査
聴力検査のほか、めまいの状態を調べる赤外線眼振検査などによって、内耳に異常がないか調べます。
聴覚の検査は、ほかのぶどう膜炎と原田病を区別するために大切な検査です。
髄液検査
髄液検査は、背中から針を指して脊髄のまわりから脳脊髄液を採取し、含まれているタンパク質や糖、細胞を調べる検査です。
原田病では髄膜に炎症が起こりやすいため、脳脊髄液に免疫細胞が増えていないか調べます。
原田病の治療
原田病の治療では主にステロイドパルス療法がおこなわれますが、状況に応じて免疫抑制剤や生物学的製剤を使い分けることもあります。
病気の程度や治療への反応には個人差があるため、眼の症状や体調を十分に観察しながら慎重に治療をすすめる必要があります。
ステロイドパルス療法
ステロイドパルス療法はステロイドにより炎症を抑える治療です。
点滴で大量のステロイドを全身へ投与した後、徐々に内服に切り替えて薬の量を減らしていきます。
全身の炎症をおさえるのに有効な治療法ですが、急に薬の量を減らすと再び炎症が起こることがあります。
再発を繰り返すと視力低下がすすんで回復しにくくなるため、全身の症状が落ち着いても薬の量を減らしながら継続することが大切です。
炎症の再発がなくても半年以上は継続が必要になり、再発が見られやすいケースでは、目の症状や体調を観察しながら1年〜数年ほど継続する場合もあります。
免疫抑制剤
免疫抑制剤は、過剰に起こっている異常な免疫反応を抑える薬で、原田病の補助的選択薬として使用されます。
ステロイドの減量中に再発したり、骨粗鬆症や胃腸症状、不眠などの副作用が問題になる場合では、免疫抑制剤に切り替えることがあります。
生物学的製剤
生物学的製剤は、眼の炎症を引き起こす原因となるタンパク質(サイトカイン)を抑制して、ぶどう膜炎の症状を抑えます。
炎症の程度が強かったり、再発を繰り返す場合に使用されることがあります。
原田病になりやすい人・予防の方法
原田病は日本を含む東洋人によく見られる病気で、20〜40代に多く発症します。
自己免疫疾患なので予防は難しいですが、発症した後は悪化や再発を起こさせないように、医師の指示のもと治療を継続することが大切です。
参考文献