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老眼
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

老眼の概要

老眼とは、加齢によって物を見るときの焦点(ピント)を変える力がおとろえ、手元など近くのものが見えにくくなる病気です。
対象物を見るときは、眼から対象物までの距離に応じて焦点を調節させるはたらきが必要になります。
加齢によって眼の調節機能がおとろえると、近くにある物に対しても焦点が合わなくなるため、細かい字がぼやけたり見えにくくなったりします。
眼の老化は40歳前後から始まるため、その頃から老眼の症状を自覚する人が多いです。

老眼

老眼の原因

老眼の原因は、加齢によって眼の調節機能が落ちることです。
眼には外から入ってきた光を屈折させる角膜と水晶体、水晶体をつり下げる毛様体小帯、屈折された光を受け止めて脳に伝達する網膜(眼球の奥に存在する)があります。

人間が物を見るときは、対象物の距離に応じて毛様体小帯を緩ませたり縮ませたりして、水晶体の厚みを変化させて入ってくる光の屈折角度を調節します。
近くの物を見るときは水晶体が厚くなって屈折角度が増し、遠くの物を見るときは水晶体が薄くなって屈折角度が減る仕組みです。
屈折された光は網膜で1点に結ばれた後、視神経を介して脳に伝わることで、見た物が認識できるようになっています。

しかし、加齢につれて水晶体が固くなり光の屈折の調節が場面に応じて難しくなると、光が網膜より手前や後ろで結ばれます。
網膜上に光が結ばれないと、焦点が対象物に合わなくなるため、見えにくくなる現象が現れます。

老眼の前兆や初期症状について

老眼が始まると、近くを見る作業を続けたときに眼が疲れやすくなります。
パソコンやスマートフォンによる作業を続けたり、長い時間本を読んだりしたときに老眼を自覚することが多いです。

対象物に対して焦点を合わせるのに時間がかかるため、顔から新聞の距離を離さないと細かい文字が読めなかったり、手元にある本から遠くの景色に視線を変えた直後に、ぼやけて見える症状が現れます。

老眼の検査・診断

老眼が疑われるときは、視力や眼の器官、眼底、眼圧、視野の検査がおこなわれます。
検査の結果、老眼以外の病気の可能性を除外したうえで、加齢による視力低下が認められれば老眼として診断します。

視力検査

視力の低下の症状である近視や遠視、乱視が起きているか調べます。
老眼になると水晶体による光の屈折の調節が難しくなるため、これらの症状が出現するのが特徴です。

細隙灯顕微鏡検査・眼底検査

細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査は専用の拡大鏡を使い、光を眼に当てて角膜や房水(眼球の中の液体)、瞳孔、水晶体などの状態を確認する検査です。
また、眼底検査ではカメラによって眼の血管や網膜、視神経の状態を確認します。
これらの検査で、緑内障や白内障、眼底出血などのさまざまな眼の病気がないか確かめます。

眼圧や視野の検査

眼球の表面に風を当てて、眼の圧力を調べる眼圧検査をおこないます。
眼球の房水が増えてふくらむと、眼圧が高まって緑内障になる可能性が高まるためです。

視野の検査はまっすぐ前方を見ているときに、上下左右のどの程度の範囲が見えているか調べる検査です。緑内障のほかに、視神経や脳の障害がないか確かめる手段にもなります。

老眼の治療

老眼の治療は、眼鏡やコンタクトレンズで眼の調節機能をおぎなうのが一般的です。
また、光の屈折異常を調節する手術や、瞳孔や水晶体の機能を調節する薬物療法(国内未承認)もあります。

眼鏡

一人ひとりの眼の状態に合わせてつくられた眼鏡は、老眼による視力低下を安全に矯正することができます。

必要に応じて着け外しが可能なことや、眼球に直接触れないことから、長時間使用しても負担が少ない矯正法です。
老眼の場合は、近視用と遠視用が両方入っているレンズを使用した、遠近両方眼鏡が使われることも多く、視線を動かすことで近くも遠くも見えやすくなります。

コンタクトレンズ

老眼でコンタクトレンズを使用する場合は、近くや遠くの物を見えやすくするために、度数をやや下げることが一般的です。また必要に応じて眼鏡と併用することもあります。

そのほか、多焦点に対応しているコンタクトレンズや、片眼の度数は遠方、もう片眼の度数は近方に合わせる方法(モノビジョン)で矯正する方法もあります。
コンタクトレンズは自身で取り外し可能ですが、眼のなかに異物を入れるためドライアイや他の眼病になる可能性もあり、清潔にあつかうことが重要です。 

レーシック手術

レーシック手術はレーザーを角膜に照射することによって、光の屈折力を調節し、近視や遠視、乱視を治す手術です。
老眼を治すためにはモノビジョンを利用し、片眼を遠く、もう片眼を近く見えるように矯正して、両眼で見たときにどちらでも対応できるように調節します。

眼鏡やコンタクトの必要がなくなりますが、やり直しがきかない手術であるため、手術前に実際の見え方を確認することが大切です。
また、重篤な眼の病気がある方や、角膜の厚みが足りない方はレーシック手術ができません。

多焦点眼内レンズ

老化で固くなった水晶体を、多焦点のレンズに置き換える手術です。
効果は半永久的で、日常生活では眼鏡やコンタクトを使用しなくても、近くや遠くの対象物が見えやすくなります。
しかし、明暗の差がはっきりしなくなったり、夜の光がにじんだりすることがあるため、医師と十分に相談して決めることが大切です。

薬物療法

老眼の薬物療法として研究が進んでいるのは、瞳孔を収縮させる点眼薬や、水晶体の固さを抑制させる点眼薬です。
瞳孔を収縮させる点眼薬は抗老視治療薬といい、眼に入る光の範囲が狭くなって焦点が深くなり、物がはっきり見える効果(ピンホール効果)があります。
水晶体の固さを抑制させるリポ酸コリンエステル点眼液は、水晶体内のタンパク質の結合を抑えることで、原因に対処する仕組みとなっています。
これらの薬は国内では未承認であるため、医療機関でも処方できません(2024年7月時点)。

老眼になりやすい人・予防の方法

老眼は加齢によって起こる病気であり、全ての人に起こるものです。
老眼に対して有効な予防法はありませんが、老化の進行を遅らせるために、できるだけ眼に優しい生活を心がけましょう。

眼の疲れをためないために、定期的に眼球をまわして眼のストレッチをしたり、紫外線を浴びる量を減らしたりすることが大切です。
食事ではビタミンB群やビタミンA、DHA、亜鉛などの栄養素を摂ることで、水晶体や毛様体の代謝を活発にしたり、網膜や角膜のはたらきを高めたりする効果があります。


関連する病気

  • 網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃく閉塞症)
  • 黄斑上膜(おうはんじょうまく)
  • 飛蚊症(ひぶんしょう)
  • 加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)

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