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急性肝性ポルフィリン症
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

急性肝性ポルフィリン症の概要

急性肝性ポルフィリン症は、体内でヘム(肝臓で合成され、酸素の運搬やエネルギーの産生に関わる物質)を合成する過程に必要な酵素の遺伝子に変異が生じているまれな遺伝性疾患です。
酵素の遺伝子変異により「ヘム生合成中間体」と呼ばれる物質が体内で過剰に蓄積し、神経系に障害を与えることで発症します。

主な症状として、突然の激しい腹痛が特徴的であり、それに加えて便秘や下痢、手足の脱力、頻脈などの症状が現れます。
遺伝性疾患ではありますが、男性よりも女性で症状が顕著に現れる傾向があります。

急性肝性ポルフィリン症は、変異が起きている酵素の遺伝子によって「急性間欠性ポルフィリン症」「遺伝性コプロポルフィリン症」「異型ポルフィリン症」「アミノレブリン酸脱水酵素欠損ポルフィリン症」の4つのタイプに分類されます。

診断は主に尿検査でおこなわれ、尿中のヘム生合成中間体の濃度を測定します。
治療は主に薬物療法が中心となり「siRNA製剤」や「ヘミン製剤」が用いられます。
また、喫煙やストレスなど、症状を誘発する要因を避けることも重要な管理方法です。

急性肝性ポルフィリン症は、高血圧症や慢性腎臓病、肝臓がんなどの合併症リスクが高いことがわかっており、長期的な経過観察が必要になります。
そのため、発症後は定期的な健康チェックと適切な管理が不可欠です。

急性肝性ポルフィリン症の原因

急性肝性ポルフィリン症の主な原因は、親や親族から受け継いだ遺伝子の変異です。
遺伝子の変異は、肝臓でヘムを作る過程に関わる酵素の遺伝子に生じます。

急性肝性ポルフィリンでは、酵素の遺伝子変異によりヘムを上手く作ることができないため、代わりに「ALAS1」という酵素が増加します。
ALAS1の作用ではヘムの生成が正常に進行せず、ヘム生合成中間体である「アミノレブリン酸」「ポルフォビリノーゲン」「ウロポルフィリン」「コプロポルフィリン」などが体内で過剰に蓄積します。
特にアミノレブリン酸やポルフォビリノーゲンは神経毒性を有しており、体内に蓄積することによって自律神経系や中枢神経系、末梢神経系の機能により障害を引き起こします。

しかし、急性肝性ポルフィリン症は、遺伝子変異を保有しているだけで必ずしも症状が現れるわけではありません。
遺伝子変異に加え、喫煙や飲酒、一部の薬剤の使用、感染症、ストレス過多などの誘発因子が生じることで、症状が誘発されるケースがほとんどです。

これらの誘因因子により、体内でのアミノレブリン酸やポルフォビリノーゲンの産生がさらに促進され、症状が出現する可能性が高まります。

急性肝性ポルフィリン症の前兆や初期症状について

急性肝性ポルフィリン症の初期症状として最も特徴的なのは腹痛です。
腹痛は通常、激しく強い場合が多く、広範囲に及ぶことがあります。
時には痛みが非常に強く、意識を失うほどの激しさになることもあります。

腹痛に加えて、さまざまな症状が日常生活で持続的に現れるようになります。
末梢神経症状として手足の脱力やしびれが生じ、中枢神経症状としてけいれんや不安感、うつ状態などが現れます。
自律神経症状としては背中や胸の痛み、吐き気などが報告されています。

消化器系の症状も顕著で、便秘や下痢、嘔吐などが見られます。
循環器系の症状として頻脈や高血圧が生じたり、泌尿器系の症状として尿が赤褐色に変色したりすることもあります。
遺伝性コプロポルフィリン症では、日光による皮膚障害も起こることがあります。

急性肝性ポルフィリン症の検査・診断

急性肝性ポルフィリン症(AHP)の診断は主に尿検査と遺伝子学的検査によっておこなわれます。
尿検査では、ヘム生合成中間体であるアミノレブリン酸、ポルフォビリノーゲン、ウロポルフィリン、コプロポルフィリンの4種類を測定します。
寛解期(症状が出現していない時期)では、正常値に戻ることが多いため、症状が発現している急性発作時におこなうことが望ましいです。
遺伝子学的検査は、急性肝性ポルフィリン症の病型を確定診断するために実施されます。

しかし、急性肝性ポルフィリン症は特有の症状が見られないため、初期段階での診断は困難で、正確な診断がなされるまで数十年かかることもあります。

急性肝性ポルフィリン症の治療

急性肝性ポルフィリン症の治療は、主に薬物療法になります。
薬物療法の主な目的は、ヘムの生成に関わるALAS1酵素の制御です。
siRNA製剤を定期的に皮下注射することで、ALAS1の量を減らし、症状の原因となる物質の産生を抑制します。
また、急性発作時にはヘミン製剤を点滴投与し、ALAS1の活性を抑えて発作を緩和します。症状が落ち着いた後も、さまざまな症状に対して注射や内服薬による対症療法がおこなわれます。

治療と並行して、症状を誘発する要因を回避することも重要です。
喫煙や飲酒、過激なダイエット、感染症、過度のストレスなどを避けることが推奨されます。
一部の薬剤が急性肝性ポルフィリン症の症状を誘発する可能性もあるため、薬剤の使用については必ず医師と相談することが大切です。
これらの総合的なアプローチにより、急性肝性ポルフィリン症の症状の管理と生活の質の向上を目指します。

急性肝性ポルフィリン症になりやすい人・予防の方法

急性肝性ポルフィリン症は、両親のどちらかが原因遺伝子の変異を持っている場合に発症リスクが高まります。
特に女性は男性よりも症状が強く現れる傾向があります。

完全な予防法は現在のところ存在しませんが、早期発見と適切な管理が重要です。
原因不明の腹痛が続く場合は、医療機関で検査を受けることが推奨されます。
急性肝性ポルフィリン症が疑われる場合や家族歴がある場合は、遺伝子学的検査を受けることで確定診断が可能です。

発症後は症状を誘発させないために、生活習慣の改善を心がけましょう。
喫煙や飲酒を控えながら、栄養バランスの整った食事を心がけ、適度な運動をおこなうことが推奨されます。
水分を十分に摂取し、ストレスや過度の疲労を避けることも重要です。
これらの予防策を日常生活に取り入れることで、急性肝性ポルフィリン症の症状の管理と生活の質の向上を図ることができます。


関連する病気

  • 急性間欠性ポルフィリン症
  • 遺伝性コプロポルフィリン症
  • 異型ポルフィリン症
  • アミノレブリン酸脱水酵素欠損ポルフィリン症
  • 皮膚型ポルフィリン症
  • 高血圧症
  • 肝臓がん

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