

監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
先天性副腎過形成症の概要
先天性副腎皮質過形成症(ふくじんひしつかけいせいしょう)は、生まれつき副腎という臓器の働きに問題がある病気です。副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、体に必要なホルモンを作っています。この病気では、特定の酵素がうまく働かないため、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドが不足し、一方で副腎皮質刺激ホルモンやアンドロゲンが過剰に産生されます。これにより低血糖や脱水、皮膚が黒くなるなどの症状が現れます。女児では外性器が男性化する症状が見られることもあります。早期に診断してコルチコイド補充治療を始めることが重要となるため、新生児マススクリーニングの対象疾患の一つとなっています。(参考文献1,2)
先天性副腎過形成症の原因
副腎皮質過形成症は、先天的に副腎の酵素の働きが弱いことが原因です。副腎は脳から分泌される副腎皮質刺激ホルモンを受け取ると、さまざまな酵素が協力して糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、副腎アンドロゲンという3種類のホルモンを作ります。しかし、一部の酵素の働きが生まれつき弱いと、糖質コルチコイドを十分に作ることができません。この状態を先天性副腎皮質酵素欠損症と呼びます。糖質コルチコイドが不足すると、もっと副腎を働かせようとして脳が副腎皮質刺激ホルモンを多量に分泌します。その結果、副腎は腫れてしまいます(これを過形成といいます)。このように、糖質コルチコイドが不足し、副腎が腫れる生まれつきの疾患を先天性副腎過形成症と呼びます。先天性副腎皮質過形成症を引き起こす先天性副腎皮質酵素欠損症には主に5つの疾患が含まれますが、日本人では90%以上が21-水酸化酵素欠損症です。(参考文献2)
先天性副腎過形成症の前兆や初期症状について
先天性副腎皮質過形成症の症状は糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの不足によるものと、副腎皮質刺激ホルモンとアンドロゲンの過剰によるものがあります。
糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドの不足による症状には低血糖や低血圧などがあります。21-水酸化酵素欠損症の中で最も重いタイプでは、生まれてから2週間以内に「副腎クリーゼ」になることがあります。具体的には、母乳を飲まなくなったり、嘔吐したり、脱水症状になったり、意識がもうろうとしたりする状態で、命に関わることもある危険な状態です。
副腎皮質刺激ホルモンは皮膚を黒くするメラトニンという物質の産生も促すため、副腎皮質刺激ホルモンが過剰になることにより皮膚が黒くなる症状が現れることがあります。
先天性副腎過形成症では糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドが産生されない代わりにアンドロゲンが過剰に産生されます。アンドロゲンは男性ホルモンとも呼ばれる性ホルモンであるため、女の子の場合、陰核が大きくなったり左右の陰唇がくっついたりするため、外性器が一般的な形とは異なる形になることがあります。(参考文献2)
先天性副腎過形成症の検査・診断
日本では、先天性の病気や代謝異常を早期発見・早期治療するために生後4〜6日目の赤ちゃんを対象に新生児マススクリーニングを行っています。この検査では、赤ちゃんの足のかかとから少しだけ血液を出してろ紙に吸い込ませることで採血します。そうして得られた血液から血液中の17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)という物質の量を調べ、この値が高いと21-水酸化酵素欠損症の可能性があります。その場合はさらに詳しい検査として血液検査や尿検査、超音波検査を行うことになります。
ここで、早産で生まれた赤ちゃんや低出生体重児の赤ちゃんは17ーOHPが高く出てしまい偽陽性となる可能性が高いため、注意が必要です。
逆に、17-OHP値は高くなくても哺乳力の低下、嘔吐・体重減少などの症状が見られた場合は確定診断を待たずに治療を開始することもあります。(参考文献1)
先天性副腎過形成症の治療
先天性副腎皮質過形成症の治療は、不足している糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドを薬で補うことです。糖質コルチコイドとしてはヒドロコルチゾン、鉱質コルチコイドとしてはフルドロコルチゾンが主に使われます。また、重症度の高い場合、食事から塩分を摂取できない新生児と乳児の間は塩分(NaCl)を薬と一緒に飲むこともあります。離乳すると塩分を飲む必要はなくなりますが、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの薬は一生飲み続ける必要があります。また、大きなけがや発熱、胃腸炎などで体に強いストレスがかかったときは、より多くの糖質コルチコイドが必要となるため、ヒドロコルチゾンの量を増やして内服します。何らかの原因で糖質コルチコイドが不足し副腎クリーゼが疑われるような症状が出てしまった場合は、できるだけ早く医療機関でヒドロコルチゾンの静脈注射を受ける必要があります。
また、女の子で外性器の形が普通と違う場合は、1〜3歳の間に手術で見た目を修正することが多いです。(参考文献1,2)
先天性副腎過形成症になりやすい人・予防の方法
先天性副腎皮質過形成症の罹患率は1万〜2万人に1人と言われています。中でも21-水酸化酵素欠損症は最も頻度が高いです。他にも先天性リポイド副腎過形成症、17α-水酸化酵素欠損症、3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症、11β-水酸化酵素欠損症などが先天性副腎皮質過形成症の原因となります。これらの疾患のいずれかに診断され、糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドを薬で補っている人は、指定難病の対象となります。予防方法については、現時点ではわかっていません。(参考文献1,2)
参考文献