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顎骨骨髄炎
宮島 悠旗

監修歯科医師
宮島 悠旗(くろさき歯科)

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愛知学院大学歯学部卒業。東京歯科大学千葉歯科医療センター臨床研修医修了。「噛み合わせ」 と「エステティック」 に配慮し、個々の要望に応じた矯正治療を追究している。歯学博士。日本矯正歯科学会認定医。

顎骨骨髄炎の概要

顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)は、顎骨(あごの骨)の内部にある骨髄に炎症をきたす疾患です。

顎骨骨髄炎の主な症状は、ズキズキとした歯や顎の痛み、歯のぐらつき、全身の倦怠感(けんたいかん)などがありますが、自覚症状が現れにくい場合もあります。 症状が悪化すると、患部から膿が出るほか、歯茎の部分の骨が見えたり、口が開きにくくなったりするケースもあります。

顎骨骨髄炎の主な原因は顎骨の細菌感染です。

免疫力が低下しやすい糖尿病などの疾患やステロイド薬の長期使用、放射線治療によるがん治療などは、顎骨骨髄炎を発症するリスクが高いと言われています。

顎骨骨髄炎の予防には、口腔ケアによる清潔状態の保持や、高い免疫力の維持が効果的です。

顎骨骨髄炎の治療では、薬物療法や排膿切開(膿を切開して排出する)、手術などがあります。 骨髄炎の重症度を考慮して、適切な治療法が検討されます。

顎骨骨髄炎の原因

顎骨骨髄炎の主な原因は細菌感染です。 細菌感染はむし歯や歯周病などの歯の疾患、顎骨に発生する腫瘍やのう胞、栄養障害、免疫力の低下、抜歯など手術、外傷などにより発生します。

なかでも免疫力の低下を招きやすい糖尿病などの疾患や、ステロイド薬の長期服用、放射線治療などの治療は顎骨骨髄炎を合併しやすいことがわかっています。 頭頸部がんに対する放射線治療も、顎骨細胞の働きの低下につながり顎骨骨髄炎を発症するリスクが高くなると言われています(放射線性顎骨骨髄炎)。

悪性腫瘍が骨に転移した病変や骨粗鬆症、ビスフォスフォネートやデノスマブという骨吸収抑制薬の投与も、顎骨骨髄炎の原因となるケースがあります。

顎骨骨髄炎の前兆や初期症状について

顎骨骨髄炎の症状には、原因歯の周辺のぐらつき、ズキズキとした顎の痛み、歯肉や顔面の腫れ、膿の排出、下唇や顎先のしびれ、歯茎周りの顎骨の露出、全身の倦怠感、食欲の低下、不眠などがあります。

ただし発症初期の顎骨骨髄炎では、自覚症状がない場合も多いです。

症状が悪化すると炎症や膿の影響で、開口障害(口が開きにくくなる)、顎骨の壊死による骨折などをきたすケースもあります。

抜歯治療後の治りが良くなかったり、歯が自然に抜けたりした場合も顎骨骨髄炎のサインの可能性があります。

顎骨骨髄炎の検査・診断

顎骨骨髄炎の診断では、炎症の程度や病変の広がりを確認します。 主に血液検査や画像検査(レントゲン検査、CT検査、MRI検査、核医学検査など)、細菌検査などがおこなわれます。

血液検査では、白血球数やCRPなどの値を測定し、炎症の程度を確認します。

レントゲン検査では、口の中から顎までの病変の広がりを撮影します。 CT検査やMRI検査、核医学検査では、顎骨の炎症状態や壊死の有無などを観察します。

そのほか、患部から膿が出ている場合は、細菌検査がおこなわれることがあります。 細菌検査により、顎骨骨髄炎の原因になる細菌を特定します。

顎骨骨髄炎の治療

顎骨骨髄炎の治療には、薬物療法、排膿切開、手術などがあります。 疾患の重症度や健康状態などを考慮して、適切な治療法を検討します。

薬物療法では、抗菌薬やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬が選択されます。 顎骨骨髄炎の原因が細菌感染である場合は、早い段階での抗菌薬の投与が有効です。 痛みが長く続く場合や細菌感染以外の原因で発症した場合は、非ステロイド性の抗炎症薬を使用して痛みを緩和させることもあります。

口の中に潰瘍がある場合は病変部の洗浄、炎症により膿がたまっている場合は排膿切開による膿の排出が検討されます。 骨髄炎により顎骨が壊死して剥がれた箇所を除去するケースもあります。

抗菌薬や排膿切開による治療が困難な場合には、手術が検討されます。 手術では、感染や壊死をきたしている顎骨を切除します。 顎骨の切除によって、容姿の変化や食事がしづらくなるなどの日常生活に支障が出る場合は、再建術の併用も考慮されます。

顎骨骨髄炎になりやすい人・予防の方法

むし歯や歯周病などで口内環境が乱れている人は、顎骨骨髄炎になりやすくなります。 口内を清潔に保ち、定期的に歯科を受診してむし歯や歯周病を防ぐことは顎骨骨髄炎の予防に効果があります。

糖尿病などの免疫力の低下を招く疾患がある人や、長期的なステロイド薬の使用歴、放射線治療歴がある人も、顎骨骨髄炎の発症に注意が必要です。 免疫力がさらに低下しないように、日頃から十分な栄養摂取と休息を心がけましょう。

ビスフォスフォネート製剤を使用している患者が、抜歯やインプラント挿入などの歯科治療をすることで発症につながるケースも少なくありません。 これらの歯科治療を受ける際は、前後3か月間の休薬で発症リスクが下がると言われています。 ビスフォスフォネート製剤を使用している人で歯科治療を受ける場合は、あらかじめ休薬が可能か主治医に相談すると良いでしょう。

抗がん剤やステロイド薬の使用、抜歯などの治療も、顎骨骨髄炎のリスクを高めることが報告されています。

抜歯後の治りが良くなかったり、歯茎の部分の骨がみえたりするなどの症状がある場合は、できる限り早めに主治医に相談してみてください。

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