

監修歯科医師:
中嶋 麻優子(歯科医師)
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東京歯科大学卒業。アソアライナー認定医。ポリリンホワイトニング認定医。WHマスク監修。
口蓋隆起の概要
口蓋隆起とは、口腔内の硬口蓋の骨が隆起している(盛り上がる)状態を指します。口腔内の骨が過剰に隆起することを外骨症といいます。口蓋隆起はこの外骨症の一種です。 外骨症のなかには、決まった場所に骨の隆起が起こる場合と、それ以外の場所に隆起が出る場合があります。決まった場所に骨の隆起が生じることを、骨隆起といいます。 口腔内の上側にあたる口蓋は、奥側が軟口蓋、手前側が硬口蓋となっています。骨隆起が上あごの真ん中あたりに生じた場合は口蓋隆起、骨隆起が下あごに生じた場合は下顎隆起、歯茎に沿って隆起が起こる場合は歯槽隆起と呼ばれます。 口蓋隆起は骨の過剰な発育による良性の病変です。自覚症状がない場合が多く、歯科検診の際に偶然見つかるといったことがよくあります。口蓋隆起が大きくなると、食事をとる時の違和感、入れ歯が合わない、同じ場所にあたり口内炎になるなど、生活に支障が出る場合があります。 口蓋隆起は子供にはほとんどみられず、40歳以降に目立ってくることが多いです。男性よりも女性のほうが発生率が高い傾向があります。口蓋隆起の原因
口蓋隆起の原因は、完全には特定されていません。しかし、口蓋隆起になる方の傾向から、以下のような要因が示唆されています。 口蓋隆起は、親と子に同じように発生することも多いため、遺伝が影響していると考えられています。 口蓋隆起の発現率は、民族によっても差があります。骨隆起の発現率は、さまざまな民族の間で9%から66%まで幅があります。 口蓋隆起は、遺伝的要因と環境要因が複合して起きているといわれています。 遺伝以外の要因として、口腔内への反復する刺激が挙げられます。歯ぎしり、噛み締め、食生活などにより、口腔内に負荷がかかり、口蓋隆起を引き起こしている可能性があります。 人間の噛む力は強く、歯や顎にはかなりの負荷がかかっています。健康な20代、30代の男性が歯を噛みしめたときに奥歯にかかる力を調査した研究では、全体の平均は59kgという結果でした。このデータによると、歯を食いしばると自分の体重と同じくらいの負荷が奥歯にかかることになります。 普段の食事で奥歯にかかる力は、最大咬合力の1/2から1/4であり、10kgから20kg程度であるといわれています。強く噛みしめることにより、歯から骨に負荷が伝わり、骨隆起を進めていることがあります。 日常生活で口腔内への負荷が大きくなる要因として、噛み合わせの悪さや歯周病などが関与していることもあります。口蓋隆起の前兆や初期症状について
口蓋隆起は、口蓋の中央部に、多くの場合左右対称に隆起が生じます。隆起の形は、ラグビーボールのような紡錘形のことが多いですが、豆粒様の小隆起が集まったような結節状であったり、扁平状のこともあります。 口蓋隆起は主に成人以降に発生し、ゆっくり大きくなります。口蓋隆起は、自覚症状がない場合が多く、前兆から口蓋隆起に気づくということはきわめて稀です。検診やほかのことで受診したときに口蓋隆起が見つかったというケースが多いとされています。口蓋の隆起に患者さんが気付き、悪性腫瘍などを心配して受診して見つかることもあります。 口蓋隆起は良性の病変であり、症状を自覚しない場合も多いですが、口蓋隆起が原因で以下のような症状が出る場合があります。 口蓋隆起が大きくなる過程で義歯が合わなくなり、口腔内のトラブルにつながることがあります。 口蓋隆起の部分が当たりやすくなり、口内炎ができることもあります。 口蓋隆起によって歯磨きがしにくくなり、歯周病や虫歯の原因となる恐れもあります。 また、口蓋は摂食・嚥下や構音機能に関わっているため、口蓋隆起により食事のときに違和感を覚えたり、構音に影響が出る場合もあります。 口蓋隆起があっても無症状の場合は治療の必要はありませんが、進行して骨の隆起が大きくなるとともに生活に支障が出る場合があります。症状を感じたら歯科、または口腔外科を受診しましょう。口蓋隆起の検査・診断
口蓋隆起は、歯科診療の際の視診・触診で比較的容易に発見できます。 口蓋隆起は口蓋の中央部に、左右対称に隆起がみられ、隆起部分の粘膜は正常です。硬口蓋の骨が隆起しているため、触ると骨のような硬さがあることが特徴です。 視診・触診で口蓋隆起を確認したら、画像診断で確定します。X線検査により、口蓋隆起の部分は不透過像が認められます。骨の隆起の形状を詳細に確認するために、CT検査を行うこともあります。 口蓋隆起が柔らかい、左右対称ではない、粘膜に潰瘍がある、急速に大きくなっているというように、口蓋隆起の一般的な特徴と異なる場合は、口蓋隆起ではないものの可能性もあります。ほかの腫瘍性病変との鑑別が必要な場合は、病理組織検査として隆起部分の組織を顕微鏡で観察することがあります。 口蓋隆起は、歯科または口腔外科で治療を受けることができます。病変の状態や日常生活で困っているかどうかで治療の要否が変わるため、まずはかかりつけの歯科・口腔外科で相談すると良いでしょう。口蓋隆起の治療
口蓋隆起は良性の病変であるため、患者さんが困っていなければ治療を行わず、多くの場合は経過観察を行います。 口蓋隆起により口腔内のトラブルなどの症状がある場合、対症療法を行います。口蓋隆起は、正常な粘膜組織に覆われていますが、隆起のない部分と比較して組織が薄くなっており、傷がつきやすい傾向があります。口内炎に対しては、口腔粘膜の炎症を抑える外用の塗り薬を用います。 口蓋隆起の成長に従い、義歯が合わなくなり、隆起が大きくなると義歯を作るのが困難になることがあります。口蓋隆起の部分が義歯で傷つかない様にするために義歯の土台の下に緩衝腔を作る方法があります。 口蓋隆起により食事を食べることや飲み込むことに支障がある場合や、義歯を作るのが困難になる場合、歯磨きに支障が出て虫歯や歯周病のリスクが高い場合などは、手術で削ることがあります。 手術は、口蓋隆起の大きさにより、局所麻酔または全身麻酔で行います。まず隆起している骨を覆っている粘膜組織を剥がします。次に、隆起の根本の骨に切り込みを入れて、余分な骨を切除し、骨を覆っている組織を戻します。術後は柔らかいものを食べるなど患部に負担をかけないようにし、1週間程度で抜糸をします。口蓋隆起になりやすい人・予防の方法
口蓋隆起は遺伝の影響があると考えられており、家族に口蓋隆起がある人は、口蓋隆起になりやすいといえるでしょう。 口蓋隆起は小児にはあまりみられず、加齢とともに発症リスクが高まります。男性よりも女性に多い傾向があります。 また、口蓋隆起は歯ぎしりなどで歯から力が伝わって口蓋の骨に負荷がかかることによっても発生のリスクが上がる可能性があります。噛む力が強い方、歯ぎしりをしている方も口蓋隆起になりやすいといえます。 歯の噛みしめは、気づかないうちにしてしまっていることが多いです。通常、口を閉じていても、噛み合う歯と歯の間にはすきまがあるものです。仕事や作業に集中しているときに、歯と歯が合わさっていないか確認してみると良いでしょう。 歯ぎしりに対しては、マウスピースを使用し、睡眠中の口内の負荷を軽減する方法があります。マウスピースを装着することで、就寝中の歯の噛みしめを予防し、歯への負荷が分散されます。 就寝時に枕が高いと、あごを引いた状態になり、歯を噛みしめやすい姿勢になりやすくなります。高すぎる枕を避けることでも、口蓋隆起に影響を及ぼす噛みしめを予防することができるでしょう。参考文献




