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口腔底蜂窩織炎
山下 正勝

監修医師
山下 正勝(医師)

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国立大学法人 鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科 勤務 / 某一般歯科 7年勤務 / 国立大学法人 山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院  呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

保有免許・資格
歯科医師
日本外科学会 外科専門医
緩和ケア研修修了
JATEC(外傷初期診療ガイドライン)コース修了
NST医師・歯科医師教育セミナー修了
嚥下機能評価研修修了

口腔底蜂窩織炎の概要

口腔底蜂窩織炎(こうくうていほうかしきえん)は、舌の下にある「口腔底」に起こる重い細菌感染症です。

口腔底蜂窩織炎では炎症が急速に広がり、治療が遅れると、首の深い部分まで感染が広がったり、のどが腫れて窒息や気道閉塞が起こったりと、生命に関わる重篤な状態になる恐れがあります。そのため、早期発見と早期治療が非常に重要です。

とくに高齢者の方や糖尿病などの持病がある方は症状が重くなりやすいため、すぐに医療機関を受診する必要があります。

口腔底蜂窩織炎

口腔底蜂窩織炎の原因

口腔底蜂窩織炎は、さまざまな部位の感染によって引き起こされます。歯、唾液腺、のどなどの感染が主な原因となりますが、感染が広がるメカニズムは異なります。

歯の感染症

口腔底蜂窩織炎の最も一般的な原因は、歯の感染症です。下顎の奥歯に生じた重度のむし歯や歯周病からの感染が多く見られます。これは、下顎の奥歯の根が口腔底に近い場所にあるためです。

唾液腺の感染症

唾液腺の感染症も重要な原因の一つです。唾石症(だせきしょう)という唾液腺の中に石ができる病気により、唾液の流れが悪くなったり、細菌が唾液腺の管を逆流したりすることで感染が起こることがあります。唾液が正常に流れなくなると、細菌が増えやすくなり、周りの組織に感染が広がっていくことで口腔底蜂窩織炎が生じます。

のどの感染症

のどの感染症から広がることもあります。風邪や扁桃腺炎などで首のリンパ節に炎症が起きた場合、口の底に感染が広がることがあります。

また、歯の治療や口の中の手術の後に起こることもあります。特に免疫力が低下している方では、重篤な症状が生じる可能性が高くなります。

口腔底蜂窩織炎の前兆や初期症状について

口腔底蜂窩織炎は段階的に症状が進行していく特徴があります。初期には局所的な腫れや痛みから始まり、次第に口を開けることや飲み込むことが難しくなります。さらに進行すると全身症状があらわれ、最終的には生命を脅かす状態にまで発展する可能性があります。

腫れと痛み

はじめは顎の下の部分が硬く腫れて痛みが出てきます。腫れた部分を触ると強い痛みがあり、同時に発熱や倦怠感が生じます。症状が進むと、口の底の部分が腫れ上がり、舌が持ち上がったり後ろの方に押しやられたりします。これにより、食べ物を飲み込むことが難しくなり、うまく話せなくなることもあります。

開口障害・嚥下困難

さらに症状が進行すると、口を開けることが難しくなり、医師が口の中を診察することも困難になります。

また、唾液を飲み込むだけでも痛みが強くなり、首を動かすことも難しくなります。そのうえ、喉の腫れにより呼吸が苦しくなり、気道が狭くなって危険な状態になることもあります。

深頸部感染症

感染が首の深い部分にまで広がると、首全体が腫れて赤くなり、胸の痛みや息苦しさがあらわれることがあります。こうした症状があらわれた場合は、緊急で治療が必要な状態のため、早急に受診が必要です。

口腔底蜂窩織炎の検査・診断

口腔底蜂窩織炎の検査・診断では、炎症の広がりや重症度を正確に把握するために、いくつかの検査が必要です。口腔底蜂窩織炎は呼吸困難のリスクがあるため、できるだけ早期に適切な検査を行い、状態の確認や原因を特定することが重要です。

CT検査

造影剤によるCT検査で、炎症がどこまで広がっているのかを詳しく調べます。のどの通り道がどのくらい狭くなっているか、膿がたまっているかどうか、炎症の広がり具合などを確認することができます。

超音波検査

超音波検査では、腫れている部分の状態や膿のたまり具合を調べられます。また、血流を確認することで、治療方法の選択に役立ちます。

血液検査

血液検査では、白血球の数やCRPという炎症を示す物質の量を測定します。また、糖尿病などの基礎疾患がないかどうかを調べるために、血糖値や肝臓・腎臓の働き、血液の固まりやすさなども検査します。症状が重い場合には、血液中に細菌がいるかどうかも調べます。

細菌検査

腫れた部分から出てきた膿を採取して調べることで、原因菌の特定に加え、どの抗生物質が効くのかを確認します。多くの場合、複数の種類の細菌が関係している感染症のため、それぞれの細菌に効く薬を選ぶ必要があります。

口腔底蜂窩織炎の治療

口腔底蜂窩織炎では、呼吸ができなくなる危険性があるため、急性の場合は呼吸の確保が最優先となります。そのうえで、感染の原因となっている細菌を排除し、炎症を抑える治療を行っていきます。

呼吸の確保

最も大切なのは、患者が呼吸できる状態を確保することです。のどの腫れで呼吸が苦しくなっている場合は、気管切開や気管挿管などの救急処置が必要になることもあります。

抗生物質による治療

感染拡大を抑えるため、抗生物質を投与します。通常、複数の種類の細菌による感染のため、どの細菌が原因なのかが分かるまでは、経験に基づいて効果の期待できる抗生物質を選んで使用します。その後、検査結果に応じて、最も効果的な抗生物質に変更して治療を行います。

手術による治療

抗生物質で改善されない場合や膿がたまっている場合は、手術が必要です。手術では、腫れている部分を切開して膿を排出し、洗浄します。場合によっては、口の中から切開することもあれば、首の外側から切開することもあります。また、膿を効果的に排出するために、細い管(ドレーン)を入れることもあります。

口腔底蜂窩織炎になりやすい人・予防の方法

糖尿病患者や免疫不全状態にある方は、軽い感染でも重症化しやすい傾向があります。また、高齢者は免疫機能の低下により感染症に対する抵抗力が弱くなっているため、注意が必要です。口腔衛生状態が悪い方や、重度の歯周病やむし歯を放置している方、ステロイド治療中や悪性腫瘍の治療中の方も感染リスクが高くなります。

予防の基本は、感染源となる可能性がある病気の早期発見と治療です。定期的な歯科検診でむし歯や歯周病を早期に発見し、治療を受けることが大切となります。

糖尿病などの基礎疾患がある方は、基礎疾患の治療を並行して行うことも重要です。また、痛みや発熱、腫れがある場合は、重症化を防ぐために早めに医療機関を受診しましょう。


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