頬粘膜がん

監修医師：
小島 敬史（国立病院機構　栃木医療センター）

頬粘膜がんの概要

頬粘膜がんは、頬の内側にある粘膜に発症する口腔内に発生する口腔がんの1種類です。
特徴として、初期段階ではほとんど症状がみられない、もしくは症状がみられてもわずかなため、見過ごされやすい傾向です。
しかし、がんが進行すると、痛み・腫れ・出血・しこりなどの症状が現れ、場合によっては、食事や会話することが難しくなる場合もあります。
頬粘膜がんの割合は、口腔がん全体の10%程度で、日本では1年間に200〜300人程度が新たに診断されているといわれています。
頬粘膜がんを含む、口腔がんの男女比は3:2と男性に多く、年齢的には60−70歳代に最も多い傾向です。
発症する危険性が高まる要因としては、喫煙や飲酒が主な要因と考えられているだけでなく、口腔内の不衛生や、不適合な入れ歯の長期間使用、口の中で繰り返される物理的刺激も要因の1つといわれています。
視診・触診、生検、画像診断などの結果、頬粘膜がんと診断された場合は、がんの進行度や患者さんの健康状態に応じて異なりますが、手術、放射線治療、化学療法で治療するのが一般的です。
頬粘膜がんの治療には、早期発見と適切な治療が重要なため、定期的な歯科検診やセルフチェックを行いましょう。

頬粘膜がんの原因

頬粘膜がんの発症には、以下のように、いくつかの要因が関与していると考えられています。
喫煙
頬粘膜がん発生の危険性を最も高める要因と考えられています。
タバコに含まれる有害物質が口腔内の粘膜細胞に慢性的な炎症によるダメージを与えた結果、細胞の遺伝子異常を引き起こし、がんを発症する可能性があります。
タバコを吸う人は吸わない人に比べて、頬粘膜がんを含む口腔がんを2.4~7倍も発症しやすくなるといわれています。
飲酒
アルコールも粘膜に対して刺激性があり、細胞の損傷やがん化を促進すると考えられています。特に、喫煙と飲酒を併用することで、がんの発症リスクはさらに高まるといわれているため、注意が必要です。
口腔内の不衛生
虫歯を放置する、歯磨きやうがいをしないなど口腔内を清潔に保てていない場合が続くと、細菌やウイルスによって頬粘膜が慢性的に炎症や感染を引き起こし、がん化する危険性が高まります。
慢性的な刺激
不適合な義歯や、虫歯・歯周病などによる物理的な刺激が、頬粘膜に対して長期間のダメージが加わった結果、慢性的な炎症が発生し、細胞が異常増殖しやすくなります。
ヒトパピローマウイルス（HPV）感染
ヒトパピローマウイルス（HPV）は性感染症の1種と考えられているウイルスで、性交渉を持ったことのある人では80％で一生に一度は感染することがあると考えられています。近年では、口腔内のがんと、HPV感染との関連性が注目されており、特定の型のHPVに感染することが、頬粘膜がんのリスクを高める可能性があります。
栄養不足
野菜・果物から摂取できるビタミンAやビタミンCなどの栄養が不足すると、細胞の修復能力が低下し、がん化しやすくなるといわれています。

頬粘膜がんの前兆や初期症状について

頬粘膜がんは、初期段階では自覚症状があまりみられないため、進行するまで気付かれないことが多くあります。
しかし、場合によっては、以下のような前兆や初期症状が現れるため、紹介した症状がみられた場合は注意が必要です。
頬粘膜のしこりや潰瘍
最も一般的な症状として、頬の内側にしこりや潰瘍が現れることがあります。しかし、これらは、痛みを伴わないことが多いため、口内炎などのようにほかの口腔内の疾患と混同されることが多く、放置される場面が多くみられます。
そのため、しこりや潰瘍が1ヶ月以上の長期間治らない、しこりや潰瘍が徐々に大きくなるなどのように、少しでも気になる症状がみられた場合は注意しましょう。
頬粘の変化がみられる
頬の内側の粘膜が、白色や赤色に変化する場合があり、これらの変化は、口腔がんの初期兆候の1つとして考えられています。
痛みや違和感が出現する
初期段階では痛みを感じないことがほとんどですが、がんが進行すると痛みが現れる場合があります。また、食事が飲み込みにくい、話しにくいなどの違和感が出現した場合も注意が必要です。
出血や腫れ
頬粘膜の潰瘍やしこりが進行すると、出血や腫れがみられる場合があり、症状が強くなると、食事や話すことが難しくなる場合もあります。

これらの症状が該当した場合は、一度、歯科口腔外科・耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診しましょう。これらの科を受診することで、気になる症状に対して、適切な診断と治療が行われるはずです。
頬粘膜がんは、前兆や初期症状がほとんど出現しない場合もあるため、少しでも気になる症状があった場合はすぐに医療機関を受診しましょう。

頬粘膜がんの検査・診断

頬粘膜がんを診断するためには、以下のような検査を複合的に行う必要があります。
問診
口腔内の違和感・痛み・しびれ・出血の有無や、いつから症状が出現しているかなどを詳しく問診します。
視診と触診
口腔内の視診を行い、頬粘膜のしこりや潰瘍、変色などを確認します。その後、頬の内側を触診して、硬さやしこりの有無を評価します。
がんの進行を疑った場合は、周囲の組織やリンパ節に浸潤している可能性があるため、頸部や顎下のリンパ節の腫れの有無も合わせて確認します。
組織生検（バイオプシー）
疑わしい病変が見つかった場合、その病変部位から米粒程度の組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認する病理学的検査である組織生検（バイオプシー）が行われます。
生検による診断の精度は最も高く、がんを診断するためにほぼ必須となる検査です。
画像検査
頬粘膜がんが疑われる場合、がんの広がりや深さ、リンパ節への転移の有無を評価するために、CTスキャンやMRI、超音波検査、PET-CTなどの画像検査を行います。

これらの画像検査を行うことで、がんの進行状況を詳しく評価できます。

頬粘膜がんの治療

頬粘膜がんの治療は、がんの進行度などによって異なりますが、一般的には以下の治療法を行います。

手術療法

頬粘膜がんの標準的な治療法の1つとして、がんを完全に切除することを目的として、手術療法を選択します。
①原発巣切除術
がんが発生している部分を手術によって取り除く方法です。手術は、確実にがんを取り除くために、がん周辺の正常組織も一緒に切除します。そのため、切除範囲は、がんができた場所や進行度によって異なります。
②頸部郭清術
頚部リンパ節への転移がある場合、リンパ節を周囲の組織ごと取り除く手術です。また、リンパ節転移がなくても、今後リンパ節へ転移する可能性が高いと判断した場合、予防的に頸部郭清術を行う場合もあります。

放射線治療

放射線治療は、がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を照射する治療法で、手術後の補助療法として行われることが多い傾向です。

そのほかにも、がんが進行しているなど、さまざまな理由で手術が困難な場合も放射線療法を行う場合もあります。

化学療法

がん細胞の成長を抑制または破壊することを目的に薬剤を使用します。化学療法は、進行した頬粘膜がんや、手術が困難な場合に放射線治療と併用して行う場合があります。

光免疫療法

光免疫療法は、レーザー光を照射することで、がん細胞に集まった薬剤を活性化し、がん細胞を攻撃する新しい治療法です。この治療法は、正常細胞への影響が少ないため、副作用を軽減できる可能性があります。光免疫療法は手術が難しいくらいに局所で進行した場合や、他の治療を行っても再発してしまった場合などに施行が検討されます。

頬粘膜がんになりやすい人・予防の方法

頬粘膜がんは、生活習慣や環境要因によって発症する危険性が高まるといわれています。
特に、喫煙者や飲酒習慣のある場合は、頬粘膜がんの発症率が高くなっているため注意しましょう。また、虫歯や歯周病、義歯の不適合などのように、口腔内が不衛生な状態にあると、慢性的な炎症が続き、がんの発生リスクが高まります。
性別にかかわらず、ヒトパピローマウイルス（HPV）感染者も、頬粘膜がんを含む口腔内がんが発症する危険性が高まる可能性があります。

頬粘膜がんを発症する危険性を下げるためには、喫煙を避けるとともに、過度な飲酒を避けましょう。また、栄養不足はがんのリスクを高める要因となるため、バランスの取れた食事を心がけ、特にビタミンやミネラルを豊富に含む食品を摂取することが重要です。
良好な口腔衛生の維持も重要です。定期的な歯磨きやうがいを行い、口腔内を清潔に保ちましょう。
また、特に女性の場合は、HPV関連のがんリスクを減少させるために、HPVワクチンの接種も有効です。
これらの予防を実践するとともに、口腔内の異常を早期に発見するために、定期的な健康診断や歯科検診を受けることが重要です。
日常生活において、口内に異常を感じた場合は、一度すぐに医療機関を受診しましょう。