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歯周病(歯周炎、歯肉炎)
菱川 敏光

監修院長
菱川 敏光(ひしかわ歯科院長)

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長崎大学歯学部卒業 愛知学院大学大学院歯学研究科修了 愛知学院大学歯学部歯周病学講座講師(2020年3月まで) 愛知学院大学歯学部歯周病学講座非常勤講師 ひしかわ歯科 院長

歯周病(歯周炎、歯肉炎)の概要

ここでは、歯周病の概要について解説します。
また、歯肉炎と歯周炎の状態についても説明します。

概要

歯周病は、歯茎(歯肉)や骨(歯槽骨)など、歯を支える組織が徐々に吸収されていく疾患です。歯と歯茎は、歯根膜という線維によって歯根と骨がしっかり結びつけられていますが、歯周病が進行すると、これら支持組織が損なわれ、最終的には歯が失われる恐れがあります。
また、歯周病は40歳以上に多い傾向にあり、不適切な生活習慣がリスクを増加させるため、生活習慣病とも考えられています。

歯肉炎

歯肉炎は、歯周病の中でも炎症が軽度な状態を指しています。
歯と歯茎の境界にある小さな隙間、すなわち歯周ポケットに細菌が蓄積すると、歯肉に炎症を引き起こします。
また、歯周ポケットの形成がない場合でも、歯面のプラーク(歯垢)により歯肉炎は起きているため、適切な治療が行われない場合、歯茎や歯を支える骨にまで炎症は進行し、歯周炎へと悪化していきます。

歯周炎

歯肉炎が重症化すると、次の段階である歯周炎へと進行し、歯を支える骨が徐々に減少し始めます。感染した歯周ポケットには膿が溜まり、噛むと歯がぐらついたり、口臭が生じたりします。
さらに、骨が溶けるに連れて歯はグラグラと動くようになり、最終的には抜け落ちる可能性があります。

歯周病(歯周炎、歯肉炎)の原因

歯周病は、口内の不適切な清掃が引き起こす炎症性の疾患であり、歯周病原菌といわれる細菌が関与していると考えられています。

歯みがきが不十分であると、歯と歯肉の接触面にプラーク(歯垢)が蓄積します。プラークは細菌の密集体であり、1mgあたりに約1億個以上もの細菌を含むことがあります。
プラーク内の細菌は毒素を産生し、歯肉炎を引き起こし、歯肉の腫れや、出血しやすくなるなどの症状が起こります。
炎症が進むと、歯肉ポケットが深まり、酸素が少ない環境が形成されます。その結果、歯周病原菌がさらに繁殖しやすい環境となり、病状の悪化を招きます。

さらに、細菌と唾液中のミネラル成分が結合すると、硬い物質が歯の表面に付着します。これを歯石といいます。歯石はプラークの除去を困難にし、細菌が歯周ポケットの奥深くに侵入するための足がかりとなります。
歯を支える骨、すなわち歯槽骨が徐々に溶解し、歯のぐらつきや歯肉の後退、最終的には歯の喪失に至ることがあります。

歯周病に関与する細菌は約300~400種類ほどあり、代表的なものにポルフィロモナスジンジバリス菌(P.G菌)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(A.A菌)、プレボテーラ・インテルメディア(P.I菌)、タネレラ・フォーサイシア(T.f.菌)、トレポネーマ・デンティコラ(T.d.菌)などが挙げられます。
これらの細菌は単独でなく、複数が相互作用を持って歯周病を進行させるため、歯周病の治療と予防は複雑であり、継続的な口内ケアと定期的な歯科診察が重要となります。

歯周病(歯周炎、歯肉炎)の前兆や初期症状について

歯周病の初期段階では、歯肉の異常が顕著に現れます。例えば、健康な歯肉はピンク色で均一な質感を持っていますが、歯周病が始まると歯肉は腫れ、色が赤く変わります。
さらに進行すると、歯肉はさらに暗い茶褐色に変色する場合があります。

腫れた歯肉はとても敏感で、歯磨きの際には容易に出血する場合がありますが、毎回の歯磨きで発生するわけではなく、初期の出血では痛みを伴わないため、気付かないことも少なくありません。

そして、口臭も歯周病の初期症状の一つです。細菌の活動が活発化し、代謝過程で発生するガスが口臭の原因となります。これらの細菌は、炎症を起こした歯肉の環境で繁殖しやすくなります。

さらに、病気が進行すると、歯肉の退縮が始まり、歯が長く見えるようになることがあります。また、歯槽骨の減少により、歯がグラグラするようになったり、歯と歯の間に隙間が生じることもあります。すべて、歯周病が進行している証拠であり、速やかな対応が求められます。

上記のような症状が見られた場合は、歯周病の可能性が高いため、早めに歯科医院への受診が大切です。定期的な検診と適切な口内ケアにより、歯周病の進行を防げます。

歯周病(歯周炎、歯肉炎)の検査・診断

歯周病は自覚症状が出ない場合もあるため、歯科医院での正確な検査が早期発見・早期治療につながります。

プロービング検査

プロービング検査では、歯周ポケットの深さを測定します。歯と歯肉の間にある隙間の深さを特別な計測器具(プローブ)を使用して測る方法です。プローブは、軽い圧力を加えて歯肉に挿入され、歯肉の健康状態を示す重要な指標である歯周ポケットの深さを測定します。健康な歯肉のポケットは約1〜2mmですが、歯周病が進行すると深さが増加します。

エックス線検査

エックス線検査は歯周病の進行を診断するためにとても重要な役割を果たします。特に、歯槽骨の健康状態を詳細に把握する必要がある場合、変化を正確にとらえるエックス線検査は不可欠です。

歯周病診断のエックス線検査は、歯と歯槽骨の関係を視覚的にとらえ、歯槽骨の溶けた範囲や病状の正確な評価を行うために役立ち、歯周病の治療方針を適切に定めることが可能になります。

プラーク検査

プラーク検査では、歯周病の原因となる細菌の堆積物(プラーク)の存在と分布を評価します。特殊な染色液を用いてプラークを染めて可視化し、量や位置を確認します。
プラークが付着している量は、プラーク付着率として患者さんの口内衛生状態を評価し、適切な治療計画を立てるための基準を提供します。

これらの検査は、歯周病の早期発見と適切な治療介入を可能にし、将来的な歯の喪失を防いだり、歯周病の再発率の指標として用いたりする重要な検査です。

歯周病(歯周炎、歯肉炎)の治療

歯周病の治療は、病状の進行度に応じて異なるアプローチが必要ですが、基本的にはプラーク(歯垢)の除去に重点を置きます。患者さん自身のセルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアの両方が重要です。

セルフケアは日常の歯磨きを中心に、自宅での適切な口内清掃を行うことです。定期的に歯ブラシを交換し、正しい方法で歯と歯茎の境界を丁寧に磨くことが大切です。

歯科医療機関で行われるプロフェッショナルケアとは、スケーリングとルートプレーニングといった専門的な処置があり、歯科医師や歯科衛生士によって歯石とプラークの徹底的な除去が行われます。
スケーリングでは歯の表面の歯石を除去し、ルートプレーニングでは歯の根の表面から汚染された組織を取り除きます。

歯周病の進行が進んでしまっている場合には、歯周外科治療が必要になることがあります。深い歯周ポケットの清掃や、必要に応じて骨の再生を促す処置が行われることがあります。外科治療は、上記のような治療で改善が見られない重度の症例に対して選択される場合があります。

治療後は、病状の改善および再発防止のために定期的な歯科検診とクリーニングが必要です。

歯周病(歯周炎、歯肉炎)のなりやすい人・予防の方法

歯周病は、不十分な口内ケア、喫煙、糖尿病、歯ぎしりや食いしばり、不規則な歯並び、遺伝的要素、薬剤の副作用、そして強いストレスなどの要因によって引き起こされる可能性があります。
これらの要因は、プラークの蓄積、免疫力の低下、歯茎の血流悪化などの問題を招き、歯周病のリスクを高めます。
歯周病を予防するためには、一日二回の適切な歯磨きで歯垢を除去し、歯間ブラシやデンタルフロスを使って歯ブラシだけでは届かない部分の清掃を行うことが重要です。
また、義歯を使用されている方は専用ブラシでの定期的な清掃が必要です。

さらに、カルシウムやビタミンCを豊富に含むバランスの取れた食事を心がけること、禁煙、そして定期的な歯科検診を受けることで、歯周病の早期発見と治療が可能となり、リスク管理を通じて歯周病の発生を抑えることにつながります。


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