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五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

血管ベーチェット病の概要

血管ベーチェット病とは、全身性の炎症疾患である「ベーチェット病」のうち、血管症状が強い病態を指します。ベーチェット病の特殊病型の1つとして「血管型ベーチェット病」と分類されることがあります。

ベーチェット病は4つの主症状(口腔粘膜の再発性アクタ性潰瘍・皮膚症状・眼症状・外陰部潰瘍)と5つの副症状(血管病変・関節炎・副睾丸炎・消化器病変・中枢神経病変)とするまれな疾患です。血管ベーチェット病を含むベーチェット病はアジア~中近東で発症の多い疾患であり、日本国内でも厚生労働省の指定難病に登録されています。男女とも20代~40代で発症しやすいとされますが、重症化リスクが高いのは男性であることが知られていて、血管ベーチェット病の患者数は男性に偏りがみられます。

血管ベーチェット病では、ベーチェット病の主症状である眼症状などがみられない場合もあるものの、全身において比較的重篤な血管症状が頻発します。動脈では動脈瘤などの血管拡張症状と血栓による閉塞症状、静脈では血栓での閉塞症状が特徴です。また、原因不明の両側下肢深部静脈血栓症や全身性の表在血栓性静脈炎、動脈硬化を伴わない動脈瘤などが前兆症状としてみられます。

血管ベーチェット病を含むベーチェット病の原因は、遺伝などの内的要因や細菌・ウイルスなどの外的要因が考えられています。しかし、未だはっきりとした原因はわかっていません。

治療はベーチェット病の主症状に対する内服薬のほか、血管病変に対する治療も検討されます。血管ベーチェット病での外科的手術は動脈病変の再発率が高いため、手術は慎重に検討すべきとされています。

発症予防は困難な血管ベーチェット病ですが、症状の予防としてストレスの軽減や禁煙が推奨されています。

血管ベーチェット病の原因

血管ベーチェット病を含むベーチェット病の原因は、現在のところ明確にはなっていません。各症状は、何らかの理由により白血球の機能が過剰となることが原因でおこると考えられています。内的要因として発症に関わる特定の遺伝子の存在や、外的要因として感染症の影響などが示唆されているものの、原因の詳細は明らかではなく、今後の研究成果が待たれます。

内的な要因として、HLAやIL-23受容体といった遺伝子がベーチェット病と関わりがあると考えられています。これらの遺伝子は免疫や炎症に関わっており、ベーチェット病が免疫異常による炎症性疾患であることを示唆しています。

外的な要因としては虫歯菌などの細菌やウイルスが関与していると報告されています。上述した遺伝子異常を持つ人に、これらの細菌・ウイルスが感染することで、ベーチェット病を発症する可能性があると考えられています。

血管ベーチェット病の前兆や初期症状について

血管ベーチェット病の前兆として、原因不明の両側下肢深部静脈血栓症や全身性の表在血栓性静脈炎、動脈硬化を伴わない動脈瘤が挙げられます。

初期症状から上大静脈・下大静脈・大腿静脈などの静脈血栓症がみられ、動脈には動脈瘤がみられるケースが多いと言われています。静脈に病変が現れる場合には血栓による閉塞が、動脈に病変が現れる際には動脈瘤の拡大病変、および血栓での閉塞どちらもみられます。

また、血管病変だけでなく、ベーチェット病のその他の主症状と副症状が同時にみられます。症状の出やすさや程度には個人差があります。ベーチェット病では一般的に、長期にわたり症状の憎悪と軽快を繰り返す傾向がみられます。

血管ベーチェット病の検査・診断

患者さんがすでにベーチェット病の診断を受けている場合は、深部静脈血栓症などの血管症状がみられた時点で血管ベーチェット病と診断されます。

ただし、一般的にベーチェット病は特定の検査結果などから診断される疾患ではありません。多くの場合、臨床所見をもとに症状の組み合わせで診断されます。口腔粘膜潰瘍・皮膚症状・眼症状・外陰部潰瘍の4つの主症状すべてがみられる場合は「完全型ベーチェット病」、4つの主症状は揃わないものの副症状と合わせて複数の症状がある「不全型ベーチェット病」とされます。

すなわち、完全型ベーチェット病、不全型ベーチェット病のいずれかの患者さんが、血管症状も併発した場合に血管ベーチェット病と診断されます。

なお、ベーチェット病の特殊病型としては、血管型以外に、「神経型」「腸管型」の分類があります。

ベーチェット病自体がまれな疾患である上、主症状や副症状はいずれも単独では他の疾患との鑑別が難しいケースもあります。血管ベーチェット病の診断は容易ではないと言えます。

(参考:厚生労働省ベーチェット病診断基準

血管ベーチェット病の治療

血管ベーチェット病の治療はベーチェット病の治療に基づき、免疫抑制療法とTNF阻害薬(炎症を引き起こす物質を抑制する薬)を使用した薬物療法を中心に行います。

加えて、血管症状に対しての治療も併用します。動脈瘤などの緊急性が高い症状が発現しているときには外科的手術が検討されます。しかし、通常の動脈瘤などと比較すると血管ベーチェット病では術後の再発や血栓閉塞などが引き起こされやすいため、手術をするかどうか慎重な判断が必要です。静脈閉塞に対しては抗凝固療法が適応と考えられています。

血管ベーチェット病になりやすい人・予防の方法

血管ベーチェット病は、発症のリスク因子が定かではないものの、発症例としては男性かつ20代~40代にもっとも多く見られることがわかっています。

ベーチェット病の発症率に男女差はないとされ、30代前後の発病が多いとされています。世界的には、韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国に偏って発症者がみられることから「シルクロード病」とも呼ばれており、国内では北海道や東北地方に患者さんが多いという報告があります。

一般的にベーチェット病には女性よりも男性の方が重症化しやすいという特徴があります。したがって男性が発症した場合は特に注意が必要と言えます。特殊病型である血管ベーチェット病も男性に偏った発症が見られます。

血管ベーチェット病を含めて、ベーチェット病は長期にわたり症状が増悪したり、軽快したりを繰り返す疾患です。発症したからといってすぐに命の危険が生じる可能性は少ない疾患ですが、早期発見をして適切な治療を受けることは、患者さんの生活の質を保つことにつながります。

発症の原因が定かではないため発症予防は困難ですが、一般的な健康管理により症状の増悪予防は可能であると考えられています。したがって、日ごろから疲れをためないように気遣い、暴飲暴食を避け、ストレスの少ない規則正しい生活を送ることは大切と言えます。

また、喫煙や口腔トラブル(虫歯や歯周病)はベーチェット病の発症や増悪のリスクファクターとの指摘がありますので、禁煙や口腔衛生維持は、この疾患の予防につながる可能性があります。

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