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好中球機能異常症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

好中球機能異常症の概要

好中球機能異常症とは、好中球の機能に異常が生じ、感染症に対する抵抗力が低下する病気の総称を指します。

好中球は白血球の一種であり、体内に侵入した細菌や真菌などの病原体を攻撃し、感染症から身体を守る重要な役割を担っています。 好中球には、接着・遊走・貪食(どんしょく)・殺菌の4つの機能があり、これらのうち1つでも機能が低下すると、感染症を防ぐ力が弱くなります。

好中球機能異常症は、先天性と二次性に分類されます。先天性は遺伝的な疾患が原因で、慢性肉芽腫症(まんせいにくげしゅしょう)などが含まれます。二次性は抗がん剤の使用や糖尿病、自己免疫疾患などによって発症します。

症状は易感染性(いかんせんせい:感染症にかかりやすくなること)が特徴です。体のどの部位に炎症が生じるかによって症状は異なりますが、発熱、倦怠感、呼吸困難、腹痛、下痢などが挙げられます。通常の感染症と似ているため、感染症を繰り返す場合は注意が必要です。

検査は、血液検査や好中球機能検査、必要に応じて遺伝子検査が行われます。また、感染症を起こしている場合は、症状に応じて画像検査などを行うこともあります。

治療は感染予防が基本で、抗菌薬や抗真菌薬を定期的に服用します。重症例では造血幹細胞移植が選択肢となりますが、専門医の判断が必要です。また、日常生活で感染を防ぐために、手洗いやうがい、マスクの着用、人混みを避けるといった基本的な感染予防対策も重要です。

好中球機能異常症は感染症に対する抵抗力が低下するため、放置すると重篤な感染症や合併症を引き起こす可能性があります。 感染症を繰り返す場合や通常よりも治りが遅い場合は、早めに医療機関を受診し、専門的な検査・診断を受けることが重要です。

好中球機能異常症の原因

好中球機能異常症の原因は、先天性と二次性に分類されます。先天性は遺伝的な疾患によるもの、二次性は後天的な疾患や治療の影響で発症します。

好中球には、体の中に侵入してきた細菌や真菌などの病原体から体を守る働きがあり、接着能、遊走能、貪食能(どんしょくのう)、殺菌能の4つの機能を持っています。

好中球は、まず炎症部位の血管内皮細胞にくっつき(接着)、血管外へ移動して感染部位へ向かいます(遊走)。到着すると病原体を取り込み(貪食)、活性酸素や酵素を使って分解・殺菌します(殺菌)。この一連の働きによって、好中球は細菌感染から体を守っています。 好中球機能異常症では、4つの機能のうちいずれかの機能が低下することで発症します。

先天性の場合は、遺伝的な異常により生まれつき好中球の機能が低下していることが原因です。 代表的な疾患として、慢性肉芽腫症、好中球(白血球)粘着不全症、高IgE症候群、チェディアック・東症候群などが挙げられます。

二次性の好中球機能異常症は、生まれつきではなく、外的要因によって好中球の機能が低下する場合を指します。 具体的には、抗がん剤の多剤大量使用、糖尿病や白血病、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫性疾患などがあります。

好中球機能異常症の前兆や初期症状について

好中球機能異常症の症状は、感染症にかかりやすくなる易感染性(いかんせんせい)が挙げられます。好中球の機能が低下することで免疫機能が弱まり、細菌や真菌などの病原体に対する抵抗力が低下し、繰り返し感染症を発症します。

具体的な症状は、好中球機能異常症のうち、どの疾患であるかによって異なります。たとえば、好中球機能異常症の1つである慢性肉芽腫症(まんせいにくげしゅしょう)は、肺炎やリンパ節の腫れ、腸炎などの症状がみられます。炎症が起こる部位に肉芽腫(にくげしゅ)とよばれる腫瘤(しゅりゅう)ができるのが特徴です。また、皮膚に膿(うみ)がたまったり、粘膜に潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。

一般的には、発熱や倦怠感、咳、痰、呼吸困難、腹痛、下痢などの感染症特有の症状が現れます。通常の感染症と似ているため、見過ごされがちですが、感染症を繰り返す場合や治りにくい場合は注意が必要です。

好中球機能異常症の検査・診断

好中球機能異常症の診断には、血液検査や好中球の機能検査、遺伝子検査などが行われます。

まず、血液検査で白血球の数や好中球の割合を調べ、異常がないかを確認します。次に、好中球の機能検査を行い、好中球の4つの機能のうちどれが障害されているか、好中球が正常に働いているかを評価します。

先天性の好中球機能異常症が疑われる場合は、遺伝子検査を行い、特定の遺伝子異常の有無を確認します。

また、感染症を起こしている場合は、症状に応じて画像検査などの検査を行うこともあります。

好中球機能異常症の治療

好中球機能異常症の具体的な治療は、疾患の種類や症状の程度によって異なりますが、治療の基本は感染症の予防です。感染症の予防を徹底することで、重篤な合併症のリスクを軽減することができます。

感染症にかからないようにする予防治療として、定期的に抗菌薬や抗真菌薬を服用します。薬を飲んでも症状が落ち着かない場合や悪化する場合には、入院して抗生剤や抗真菌剤の点滴治療を行います。

また、普段の生活の中で感染予防策を徹底することも重要です。具体的には、こまめに手洗いやうがいを行う、感染症流行時の人混みを避ける、マスクを着用するなどが挙げられます。また、バランスの取れた食事や適度な運動を心がけることも大切です。

根本的な治療として、骨髄移植や臍帯血移植などの造血幹細胞移植があります。特に先天性の重症例では、適合するドナーが見つかれば、造血幹細胞移植が選択されることがあります。 造血幹細胞は、血液をつくる元となる細胞です。造血幹細胞移植とは、ドナーから造血幹細胞を採取し、患者さんに移植することで血液を作る機能を回復させる治療法です。造血幹細胞が骨髄に定着すれば、再び健康な血液をつくることができます。年齢や合併症によって、治療のリスクが異なるため、専門医への相談が必要です。

好中球機能異常症になりやすい人・予防の方法

好中球機能異常症になりやすい人としては、家族に同じ疾患の患者がいる人、抗がん剤治療を受けている人、糖尿病や白血病、自己免疫疾患がある人などが挙げられます。

先天性の好中球機能異常症は、遺伝子の変異が原因で起こる親から子へ遺伝する病気です。遺伝子には、次世代へ受け継がれる情報が含まれるため、親から子へ遺伝する可能性があります。

先天性の好中球機能異常症の予防法は確立されていませんが、家族歴がある場合は、遺伝子検査や遺伝カウンセリングを受けることで、遺伝の可能性を正しく評価することができます。

二次性の好中球機能異常症の場合は、基礎疾患の治療や感染症予防を徹底することで発症リスクを下げることにつながります。

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