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二次性赤血球増加症
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

二次性赤血球増加症の概要

二次性赤血球増加症とは、生活習慣や病気のために血液中の赤血球数が増加する病気をいいます。 赤血球とは、血液中に存在する、酸素を運ぶ細胞です。肺から取り込んだ酸素を全身に運び、不要になった二酸化炭素の一部を回収して肺に戻す働きがあります。この赤血球が増加する病気を赤血球増加症といいます。

赤血球増加症は、以下の2種類に分類されます。

絶対的赤血球増加症 循環赤血球量が増加している状態 相対的赤血球増加症 赤血球数は正常だが循環血漿量が減少して、相対的に赤血球が増加しているようにみえる状態

相対的赤血球増加症とは、脱水での血液濃縮状態や、ストレス多血症などをいいます。 絶対的赤血球増加症は、血液疾患で赤血球が増加する真性赤血球増加症と、二次性赤血球増加症の2種類があります。

二次性赤血球増加症の原因

二次性多血症の原因は、大きく2つに大別されます。

エリスロポエチン産生の異常亢進

エリスロポエチンとは、赤血球系前駆細胞に対して分化(細胞成熟)を促し、赤血球産生を促進するホルモンです。おもに腎臓で作られ、動脈血中の酸素分圧に応じてホルモン量が調節されます。

このエリスロポエチンが必要以上に作られてしまうと赤血球数が必要以上に作られてしまい、二次性赤血球増加症を発症します。 エリスロポエチン産生腫瘍は、本来エリスロポエチンが腎臓で作られるにも関わらず、腫瘍自体がエリスロポエチンを産生してしまうことで赤血球が増加する病気です。 エリスロポエチン産生異常を起こす可能性がある腫瘍性疾患には、以下のようなものがあります。

  • 腎細胞がん
  • 肝細胞がん
  • 小脳血管芽腫

組織の低酸素状態

喫煙習慣がある場合、ヘモグロビンに一酸化炭素が結合してしまい酸素を運ぶことができず、身体の組織が低酸素状態に陥ります。その結果エリスロポエチンが過剰に作られ、酸素を運ぶために体内で赤血球を過剰に作るようになります。 二次性赤血球増加症のなかでも、喫煙による二次性赤血球増加症が最も頻度が高いとされています。禁煙すると赤血球数は正常化します。

ほかにも以下のような場合、身体の組織の低酸素状態をもたらし、二次性赤血球増加症を発症します。

高地居住 低酸素の環境にさらされる 慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患 肺胞の破壊による気道障害 先天性心疾患 心臓の異常によって酸素が少ない血液が全身を巡ってしまう 睡眠時無呼吸症候群 睡眠中の呼吸停止により低酸素状態になる

二次性赤血球増加症の前兆や初期症状について

初期の段階では症状が出ないことがほとんどです。健診で赤血球数が多いことを指摘されてはじめて発見される場合も多いとされています。症状が進行し、赤血球数がとても多くなると以下の症状が起こることがあります。

血液循環異常による症状

赤血球数が増えると血液が濃くなりドロドロします。血液が細い血管をスムーズに通ることができず、全身に十分な酸素や栄養を送ることができなくなります。その結果、頭痛、めまい、耳鳴りなどが起こります。

皮膚や粘膜の発赤

赤血球数が多いことで赤みが増し、顔面紅潮や結膜充血が起こる場合もあります。

血栓症

赤血球が増え血液がドロドロになるため、血栓という血の塊ができやすくなります。この血栓は血管の中を血流に乗って移動し、心臓や脳に達して血管を詰まらせてしまう場合があります。すると、心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病気を発症してしまいます。

健診で赤血球が多いことを指摘された場合、血液内科や一般内科を受診し、精査を受けてください。また、赤血球が多いことを過去に指摘されていて、頭痛やめまいなどの症状がある場合は早めの受診をしましょう。

二次性赤血球増加症の検査・診断

赤血球が多いことを指摘された場合、赤血球増加症のなかでも真性赤血球増加症、相対的赤血球増加症、二次性赤血球増加症のどれに分類されるか鑑別を行います。二次性赤血球増加症と診断された場合、さらに原因精査を行います。そのため、以下のような検査が行われます。

身体検査

顔面の色調や、結膜の赤みを確認します。聴診や身体診察で、呼吸音、心音を確認し、低酸素状態となる兆候がないか調べます。また、低酸素状態になっていないか、指で酸素濃度(SpO2)を測定します。

問診

喫煙者の場合、二次性赤血球増加症が起こる場合があるため、喫煙歴を確認します。現在の喫煙だけでなく、過去の喫煙歴も確認します。 肺や心臓の疾患をもつ場合は、二次性赤血球増加症の原因となっている場合があります。そのため、過去にかかった病気、現在通院している病気などを確認します。

血液検査

血液検査では、赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリットなどを確認します。脱水による相対的赤血球増加症であれば、腎機能や電解質の異常などが起こる場合があります。 また、エリスロポエチンの値を測定し、高いことを確認します。 真性赤血球増加症との鑑別が困難な場合は、真性赤血球増加症で異常を示すJAK2遺伝子を測定する場合もあります。また、血液をつくる骨髄での造血能を調べるため、骨髄検査が行われる場合もあります。

画像検査

赤血球増加症の原因として肺疾患や心疾患が疑われる場合、CTやエコーでの精密検査が行われることがあります。エリスロポエチン産生腫瘍が疑われる場合は、腫瘍の場所を検索するためにCTでの精査が行われます。

二次性赤血球増加症の治療

二次性赤血球増加症の治療は、以下の2つに大別されます。

禁煙

二次性赤血球増加症の原因で多いのが喫煙です。喫煙により身体が低酸素状態に陥り、身体が反応し赤血球を多くつくるようになります。 喫煙をしている場合は、まずは禁煙を行います。禁煙によって赤血球数が正常化するとされています。基礎疾患がある場合でも、赤血球増加の一因となっている可能性があるため、禁煙を行います。

基礎疾患の治療

二次性赤血球増加症は、赤血球が増加する原因が背景にあり発症する疾患です。そのため、まずは原因である基礎疾患の治療が行われます。 例えば、慢性閉塞性肺疾患がある場合は吸入薬や、低酸素が続く場合は在宅酸素療法が行われます。 睡眠時無呼吸症候群がある場合は、CPAP(持続陽圧呼吸療法)という機械を睡眠中に装着する場合があります。 エリスロポエチン産生腫瘍の場合、腫瘍摘出によって赤血球数は正常化します。 基礎疾患の治癒が難しかったり、病勢のコントロールが困難な場合は、赤血球増加症に対する症状管理と合併症予防に対する治療を行います。

瀉血(しゃけつ)療法、抗血栓療法

基礎疾患の治療が困難である場合、身体から血液を抜く瀉血療法が行われることもあります。定期的に一定量の血液を抜くことで体内の赤血球数を減少させ、血液の循環を改善させます。 また、抗血小板薬である低用量アスピリンを用いて血栓の予防を行う場合もあります。 いずれにしてもまずは基礎疾患の治療が優先されます。

二次性赤血球増加症になりやすい人・予防の方法

以下のような生活習慣や病気をもつ方は、二次性赤血球増加症になりやすいとされています。

  • 喫煙者
  • 高地居住
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • エリスロポエチン産生腫瘍
  • 先天性心疾患

二次性赤血球増加症の治療で大切なのは、原因となっている基礎疾患に対する対応です。 喫煙をしている場合は、まずは禁煙をしてください。また、上に挙げたような基礎疾患がある場合は、赤血球数が上昇する前に治療を行うことで赤血球増加症を予防することが可能です。

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