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先天性赤血球形成異常性貧血
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

先天性赤血球形成異常性貧血の概要

先天性赤血球形成異常性貧血(せんてんせいせっけっきゅうけいせいいじょうせいひんけつ)とは、以下の症状を特徴とする疾患群です。

  • 慢性の不応性貧血
  • 黄疸
  • 胆石
  • 無効造血
  • 続発性ヘモクロマトーシス

生まれつき赤血球のもとである赤芽球(せきがきゅう)に異常があり、赤血球が正常に成熟できない病気です。 この異常は、形成異常と呼ばれます。赤芽球の形成異常は、本来細胞内に1つしかない核が2つ以上あるといった状態を指しています。医学的にはこれを異形成(いけいせい)といいます。 Ⅰ型からⅢ型の3つの型に分けられますが、いずれの病型にもあてはまらない亜型も存在します。 海外(西欧)のデータではⅠ型、Ⅱ型ともに10万出生あたり1人の頻度で発生すると言われています。Ⅲ型はより少なく、日本国内では臨床診断としてⅠ型からⅢ型まで報告されています。

先天性赤血球形成異常性貧血の原因

先天性赤血球形成異常性貧血は遺伝子の病気であり、型によって病気の責任遺伝子が異なるといわれています。責任遺伝子とは、遺伝子と疾患の間の因果関係が完全に証明されていなくても、その遺伝子の変異があると疾患の出現頻度や重症度などが変化するような遺伝子を指します。型ごとの責任遺伝子は、以下のとおりです。

Ⅰ型

CDAN1、C15ORF41という2つの遺伝子が原因です。 I型の特徴は、細胞内の構造に異常がみられることです。また、遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝をとります。Ⅰ型は慢性的な貧血を有する型です。

軽症の場合は、生涯にわたる輸血は不要です。しかし、重症の場合は、出生直後から輸血に依存しなければならない場合があり、貧血の程度はさまざまです。また、一部の症例では隣り合った指の一部または全部がくっつく合指(ごうし)などの骨格系異常(こっかくけいいじょう)の合併が報告されています。

Ⅱ型

SEC23Bという遺伝子が原因です。 Ⅱ型の特徴は、赤芽球の核が2つ以上と多い(本来、核は1個です)赤芽球がみられることです。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)遺伝です。 Ⅱ型の場合、貧血の重症度はさまざまですが、軽症例が多くしばしば成人してから診断されることがあります。

Ⅲ型

KIF23という遺伝子が原因です。 Ⅲ型の特徴は、赤芽球の核の数が多い、または巨大赤芽球がみられることです。また、遺伝形式はⅠ型Ⅱ型とは異なり、常染色体顕性(優性)遺伝をとります。

亜型

Ⅰ〜Ⅲ型には属さない多様な遺伝子が原因だとされています。さまざまなタイプの先天性赤血球形成異常性貧血が含まれています。

先天性赤血球形成異常性貧血はまれな疾患で難病に指定されています。診療科としては、小児科や血液内科を受診することをおすすめします。

先天性赤血球形成異常性貧血の前兆や初期症状について

先天性赤血球形成異常性貧血は、生まれつきの病気です。そのため、特異的な前兆や初期症状はみられません。以下のような症状がみられますが、ほかの病気との鑑別が重要です。

不応性貧血

不応性貧血とは、鉄剤やビタミン剤などの治療に反応しない貧血をいいます。先天性赤血球形成異常性貧血では、赤芽球がうまく成熟できないため赤血球の数が十分作られず貧血になります。このため、赤血球の材料である鉄剤やビタミン剤を使用しても貧血は改善しません。さらに、赤血球の形態に異常が生じると脾臓などで破壊されやすくなります。このため、慢性的な貧血を引き起こします。

黄疸

黄疸(おうだん)とは、血液中のビリルビン(黄色の色素)が過剰になり、皮膚眼球黄色くなる症状です。全身にかゆみを生じることもあります。 通常、赤血球の寿命は約120日であり、寿命を迎えた赤血球は脾臓で分解されます。赤血球が分解されるとヘモグロビン(赤血球の成分)から水に溶けない間接ビリルビンが作られます。間接ビリルビンは、肝臓に運ばれ水に溶ける直接ビリルビンに処理され、胆汁に混ざり最終的には便とともに排泄されます。先天性赤血球形成異常性貧血は、形のおかしい赤血球が作られてしまうことで脾臓で破壊されやすくなり、作られた赤血球が次から次へと分解されます。その結果、過剰なビリルビンが作られ、黄疸というかたちで身体に現れます。

胆石

赤血球の異形成により、赤血球が壊れやすいため、赤血球の分解産物であるビリルビンが増えます。ビリルビンの過剰な蓄積胆石形成のリスクを高めます。

脾腫

脾腫(ひしゅ)は、脾臓が大きくなる症状です。血液が壊れやすくなったり、細菌が血液中に入ったりすると、脾臓の機能が亢進するため脾臓が大きくなります。

無効造血

無効造血(むこうぞうけつ)とは、赤芽球が赤血球へと成熟する過程で異常が生じる成熟障害や、赤血球として血液中へ送り出される前に造血組織である骨髄内で破壊されてしまう骨髄内溶血が起こる状態を指します。このため、骨髄で赤血球を作っているにも関わらず血液中の赤血球数は減少します。

続発性ヘモクロマトーシス

無効造血により赤血球が破壊されると、赤血球の中に大量に含まれる鉄が血液中に放出され、血液中の鉄が過剰な状態になります。その結果過剰な鉄が身体のあらゆる臓器に沈着し、肝疾患心筋症糖尿病勃起障害および関節障害などがみられることがあります。

先天性赤血球形成異常性貧血の検査・診断

先天性赤血球形成異常性貧血の診断には、以下の問診や検査所見がみられた場合に、骨髄穿刺遺伝子検査(CDAN1,C15ORF41,SEC23B,KIF23,KLF1,GATA1)などを行います。また、似たような症状を起こすほかの先天性疾患を除外する必要があります。 なお、小児期には軽症のため診断されず、大人になってから診断される例もあるため注意が必要です。 また、まれな疾患であり、診断には専門的で高度な判断を要するため1施設では判断せずに、先天性赤血球形成異常性貧血の診断ガイドライン作成者などと協議したうえで診断されるべきだと言われています。

  • 黄疸の有無、あるいは黄疸の既往がある方
  • 重度あるいは遷延性(せんえんせい)新生児黄疸がある方
  • 輸血歴、輸血依存性がある方
  • 大球性貧血(だいきゅうせいひんけつ)がある方
  • 脾腫がある方
  • 原因不明の慢性貧血の家族歴がある方
  • 手足や骨格の奇形がある方
  • 赤血球形態異常 診療の参照ガイドに該当する方
  • 原因不明の貧血がある方

先天性赤血球形成異常性貧血の治療

先天性赤血球形成異常性貧血は、型によって治療法が異なり、以下のような方法があります。

輸血療法

先天性赤血球形成異常性貧血は、多くの場合生涯にわたり貧血が続きます。しかし、貧血の程度は軽症~中等症であることが多く、輸血が必要となることは少ないと言われています。1回でも輸血が必要となった例は、I 型の50%程度、II 型の10%程度で、その後も輸血に依存するのは一部のみだと言われています。

除鉄

輸血をしていなくても体内に鉄が過剰な状態となりうるため、定期的な採血でモニタリングし、鉄キレート剤(体内の鉄分を除去する薬)を服用することで除鉄(じょてつ)を行います。

摘脾(てきひ)

先天性赤血球形成異常性貧血は、赤血球の寿命が短いため、II 型など一部の症例では、手術で脾臓(ひぞう)を摘出する方法が有効であるといわれています。脾臓には赤血球を分解する役割があります。脾臓を摘出することによってヘモグロビンは上昇し、血清ビリルビンは減少します。輸血の回数が大きく減ったり輸血が不要になる場合もあります。しかし、鉄過剰自体を防ぐことはできません。脾臓は、乳幼児期の免疫組織として重要な役割を果たしているため、脾臓摘出は原則として5歳以上が適応となります。 II 型以外でも摘脾の有効例は報告されていますが、摘脾の効果を予測することは困難だと言われています。摘脾によって血小板数が増加することでほかの病気を発症することがあり注意が必要だと言われています。

インターフェロン

インターフェロンとは、がん細胞や病原体を攻撃する代表的な免疫細胞から分泌されるタンパク質群のことです。インターフェロン治療はこのタンパク質を点滴で体内に投与します。 I 型では有効例の報告がありますが、II 型には無効であると言われています。

葉酸やビタミンの補充

赤芽球過形成に対してビタミンB12葉酸の補充が行われることがあります。また、ビタミンEの有効例も報告されています。

造血幹細胞移植

輸血依存性の先天性赤血球形成異常性貧血において、適当なドナーがいる場合は、造血幹細胞移植が考慮されます。造血幹細胞は、すべての血液細胞のもととなる細胞です。この細胞を造血幹細胞移植でドナーの細胞を移植することで、正常な赤血球が作られるようになり輸血が不要になる場合があります。

先天性赤血球形成異常性貧血になりやすい人・予防の方法

先天性赤血球形成異常性貧血は遺伝子の異常であり、以下のようなリスク要因があると言われています。

リスク要因

家族歴 血縁者に先天性赤血球形成異常性貧血の患者さんがいる 人種 I型は中東系II型は南欧系に多い傾向がある

予防策

現時点で発症を防ぐ方法はありません。ただし早期診断により合併症を軽減できます。先天性赤血球形成異常性貧血は生涯にわたる管理が必要ですが、適切な輸血除鉄治療などを行うことで通常の生活を送ることや妊娠・出産も可能です。

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