免疫性血小板減少症
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

免疫性血小板減少症の概要

免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia, ITP)は、自己免疫の異常によって血小板が破壊されたり、作られにくくなったりする病気です。このため、血小板数が減少し、出血しやすくなることが特徴です。

免疫性血小板減少症の原因

ITPは、免疫の働きが過剰になり、自分自身の血小板を攻撃してしまうことが原因です。この攻撃を引き起こす抗体(抗血小板抗体)は、以下のメカニズムによって作られると考えられています。

ウイルス感染による抗体の産生
特に小児の場合、ウイルス感染症の後にITPを発症することがあります。
ウイルスが持つ抗原と血小板の表面にある抗原が似ているため、免疫が血小板を間違えて攻撃してしまいます。

自己免疫反応による抗体の産生
血小板が免疫細胞に取り込まれた際、正常では免疫が反応しない仕組みがありますが、この仕組みが破綻すると抗血小板抗体が作られます。
この過程には、免疫細胞(T細胞やB細胞)の異常な活性化が関わっています。

抗血小板抗体が血小板や骨髄内の巨核球(血小板を作る細胞)に作用すると、次のような影響を及ぼします。

血小板の破壊が増える
抗体が付着した血小板は、脾臓や肝臓のマクロファージ(免疫細胞)によって捕捉され破壊されます。
血小板の産生が低下する
抗体が巨核球の成長を妨げるため、血小板を作る能力が低下します。

これらに加え、制御性T細胞の機能低下や補体(免疫反応を助ける物質)の関与も報告されています。

免疫性血小板減少症の前兆や初期症状について

ITPは、明確な前兆がないまま突然発症することが多いことが知られています。以下のような出血症状が初期に見られます。

軽度の出血症状

  • 点状出血:皮膚に小さな赤い斑点が現れる。
  • 紫斑:皮膚に青あざのような痕ができる。
  • 鼻血や歯茎からの出血。

重度の出血症状

  • 消化管出血:吐血や血便など。
  • 頭蓋内出血:命に関わる場合があり、特に注意が必要。

その他の特徴

  • 小児:ウイルス感染症後にITPを発症することが多いとされています。
  • 思春期以降の女性:月経過多が問題になることがあります。この場合、鉄欠乏による貧血を合併し、だるさや疲労感などの貧血症状が起こる可能性があります。

上記の症状が該当する場合は、神経内科もしくは内科を受診しましょう。

免疫性血小板減少症の検査・診断

1. 血液検査

血小板数の減少
血小板数が10万/μL未満になるのがITPの特徴です。

他の血液細胞
赤血球や白血球には異常が見られないことがポイントです。

網状血小板の増加
血小板が破壊されることで骨髄での血小板産生が増え、骨髄から新しく作られた「網状血小板」が血液中に出現することがあります。

血漿トロンボポエチン(TPO)の上昇
ITPではTPOの値が上昇するのが特徴です。しかし、上昇しない場合もあるためほかの検査もあわせて診断します。

2. 末梢血塗抹像

異常細胞の確認
血液を顕微鏡で調べ、白血病や骨髄異形成症候群などに認められるような異常細胞がないか確認します。

血小板サイズの変化
ITPでは血小板の寿命が短縮するため、比較的大きな幼若血小板が見られることがあります。

3. 骨髄検査

実施のタイミング
骨髄検査は必ずしも必要ではありませんが、以下の場合に行います:
血液検査で異常な形態の細胞が見られる。
ITPの治療に効果がない。
他の血液疾患が疑われる。

骨髄検査での特徴
骨髄では、血小板を作る細胞である「巨核球」の数が正常または増加しており、形態に異常は見られません。

4. その他の検査

自己抗体検査
他の自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデス)が関与している場合に検査を行います。

ヘリコバクター・ピロリ菌検査
ピロリ菌感染がITPの原因になる場合があり、除菌療法が有効なことがあります。

5. 診断基準

ITPの診断は除外診断といい、ほかの血小板が減少する病気を否定した上で診断します。そのため、以下の条件を満たすことが目安となります。

  • 血小板数が10万/μL以下。
  • 血液検査や塗抹標本で、赤血球や白血球に異常がない。
  • 他の疾患(白血病や感染症など)が否定される。

免疫性血小板減少症の治療

ITPの治療は、患者さんの出血の重症度や病状、生活の質(QOL)を考慮して個別に決定されます。治療の目的は、血小板数を正常化することではなく、命に関わる重篤な出血を防ぎながら、患者さんが日常生活を送れるようにすることです。
重篤な出血を予防しうる血小板数(3万/μl以上)に維持し、治療薬の長期投与によるQOLの低下がないように治療が行われます。

治療の基本方針

緊急対応
著明な出血や手術を控えている場合、緊急治療が必要です。
自然寛解を目指す
小児では、自然に回復する可能性があるため、治療介入は慎重に行われます。
患者の生活を考慮
治療によって生活の質(QOL)が損なわれないよう配慮します。

1. 緊急時の治療

緊急の場合や外科的処置が必要な場合、以下の治療が行われます:
血小板輸血
ITPは輸血をしても抗体で血小板が壊されてしまうため、通常は血小板輸血の対象とはなりません。しかし、出血が止まらない場合や、脳出血や消化管出血など重篤な症状が懸念される場合に行われます。
免疫グロブリン大量療法
免疫の異常を抑えるため、免疫抑制の効果がある免疫グロブリン大量療法を行います。ステロイド療法より血小板数を早く増やすことができることが特徴です。免疫グロブリン製剤を数日間投与して治療を行います。
ステロイドパルス療法
免疫グロブリン大量療法と同様に免疫の異常を抑えるため、高用量のステロイドを短期間使用します。感染症などの副作用に注意が必要です。

2. ピロリ菌除菌療法

日本人のITP患者さんでは、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関連している場合があります。
除菌療法を行うことで、一部の患者さんで血小板数が増加するとされています。

3. ファーストライン治療(第一選択の治療)

副腎皮質ステロイド(CS)療法

  • 副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロンを数週間投与し、徐々に減量します。
  • 効果は数日以内に現れることが多いですが、長期間の使用はステロイドによる感染症、糖尿病などの副作用のリスクが上昇するため。

免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)

  • 血小板数を早く増やす目的で使用します。
  • 特に重篤な出血の際に効果的です。

4. セカンドライン治療(第二選択の治療)

トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬

  • 巨核球の成熟を促進し、血小板産生を増やす薬です。エルトロンボパグやロミプロスチムがTPO作動薬にあたります。ステロイドが効果がなかった場合に使用されます。
  • 治療開始後1週間以内に効果が現れます。

リツキシマブ療法

  • 抗血小板抗体を産生するB細胞を傷害することで抗血小板抗体量を減らし、血小板を増加させる治療法です。

脾臓摘出術

  • 血小板を破壊する臓器である脾臓を摘出する治療です。永続的な効果が期待できますが、脾臓は免疫系において重要な役割を果たしているため感染症のリスクが上がります。特にインフルエンザ菌b型、髄膜炎菌などの重症感染症にかかりやすくなるため、適応は慎重に判断されます。
  • 最近では、他の治療法が発展したため選択される頻度は減少しています。

5. 無治療経過観察

  • 軽度の出血症状や血小板数が一定レベルを保っている場合、治療を行わず経過観察を選択することがあります。
  • 出血が悪化した場合に備え、24時間対応可能な医療機関との連絡体制が必要です。

免疫性血小板減少症になりやすい人・予防の方法

ITPは自己免疫疾患であり、発症メカニズムは完全には解明されていません。現時点では特異的な予防法は確立されていませんが、次の点に注意することでリスクを減らせる可能性があります。
感染症の予防
手洗いや消毒を徹底し、ウイルス感染を防ぎます。
適切なワクチン接種を受けることも有効です。

生活習慣の改善
規則正しい生活や十分な睡眠で体調管理を保つことが重要です。


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