監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
目次 -INDEX-
末梢動脈疾患の概要
末梢動脈疾患(PAD:peripheral arterial disease)は、手や足の動脈が狭くなることで血流が悪くなる病気です。発症する時期によって急性虚血と慢性虚血にわけられます。
末梢動脈疾患は、冠動脈以外の末梢動脈に病変が生じる病気のことであり「閉塞性動脈硬化症」や「下肢慢性動脈閉塞症」なども当てはまります。
動脈が狭くなると、血液がうまく流れずに痛みやしびれが生じます。特に、歩行中に足の痛みを感じることが多く、進行すると安静時にも症状が出ます。適切な治療をおこなわないと、日常生活に支障をきたすだけでなく、重篤な合併症を引き起こすこともあります。
早期の段階で治療を始めることで、症状の進行を防ぎ、生活の質を維持できる可能性があります。治療を早く開始することで、歩行時の痛みやしびれなどの症状を軽減し、将来的な合併症のリスクを下げられます。日常生活での不安を少しでも減らすためにも、早めの対応が重要です。
末梢動脈疾患の原因
末梢動脈疾患の主な原因は動脈硬化です。
動脈硬化は、動脈の内壁にコレステロールなどがたまることで血管が狭くなる状態です。動脈硬化には大きくわけて「粥状硬化」と「中膜硬化」の2つがあります。
粥状硬化は、悪玉コレステロールが血管内に溜まって、プラークと呼ばれる物質になって血管を狭くしたり詰まらせたりする状態のことです。一方、中膜硬化では血管の中膜と呼ばれる部位にカルシウムが溜まることで血管が硬くなります。
動脈硬化が進行する原因には、喫煙や高血圧、糖尿病などが挙げられます。特に、喫煙は動脈硬化の大きな要因であり、禁煙することでリスクを大幅に減らせます。
末梢動脈疾患の前兆や初期症状について
末梢動脈疾患の前兆としては足の冷えやしびれが生じたり、歩行中に足の筋肉が痛くなったりすることがあります。初期症状は、歩くときに特に強く現れます。
休むと症状が和らぐことが多いため、病気であると自覚できず放置されるケースが多いです。放置すると、病状が悪化して安静時にも痛みが出るようになります。
また、足の傷は治りにくく、潰瘍ができたり、壊死したりすることもあります。
重症例では手術が必要になる例もあるため、症状を感じた場合には、速やかに医師に相談することが重要です。
末梢動脈疾患の検査・診断
末梢動脈疾患の検査には、足関節上腕血圧比(ABI)という血圧の測定方法が使われます。ABIは、足と腕の血圧を比較して血流の状態を確認する検査です。
また、超音波検査も用いて血管の狭さや血流の速度を調べます。必要に応じて、CTやMRIなどの詳しい画像診断がおこなわれることもあります。
さらに、末梢動脈疾患の重症度や緊急度の判定や治療方針を決定するため、皮膚の上から血流をチェックする検査をおこなったり、カテーテルを用いた検査をおこなったりすることもあります。
早期発見のためには、定期的な健康チェックが重要です。特にリスク因子がある方は、症状がなくても定期的に検査を受けることで、病気の早期発見につながります。
末梢動脈疾患は自覚症状のないまま発症リスクが高まることが多いため、、定期的な検査を心掛けましょう。早期の検査によって、重篤な症状を未然に防ぎ、生活の質を向上させることが期待できます。定期的な診察を受けて、必要に応じたアドバイスを得ることが、健康管理に役立ちます。
末梢動脈疾患の治療
末梢動脈疾患の治療には、薬物療法と血行再建術、日常生活の指導などがあります。
薬物療法
末梢の動脈を広げて血流を改善するために血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗血小板薬などを使った薬物療法をおこなうことがあります。
また、基礎疾患として高血圧や糖尿病、脂質異常症などがある場合には、それらに対する薬物療法が行われます。
血行再建術
末梢動脈疾患が重症の場合や薬物療法では効果がなかった場合には、カテーテル治療やバイパス手術など、血管を広げるための外科的な治療が必要になることもあります。
手術では狭くなっている、もしくは閉塞している血管を避けてほかの血管をつなぎあわせることで、血液の流れる道をつくるバイパス術や、閉塞した血管を切開して血栓や硬化した内膜を取り除く血栓内膜摘除術などがおこなわれます。
生活習慣の改善
薬物療法や血行再建術をおこなうのと同時に、生活習慣の改善に努めることが不可欠です。
喫煙をやめることや、適度な運動に取り組むこと、バランスのとれた食事を摂ることを心がけましょう。
とくに下肢のバイパス血管(側副血行)は歩行によって育つため、積極的に歩くことが推奨されています。
医師や看護師と相談しながら、患者さまに合った治療とケアを進めていきましょう。治療は患者さま一人ひとりに合わせておこなわれるため、医療チームと連携して進めてください。治療過程で不安や疑問があれば、遠慮せずに医療スタッフに相談し、サポートを受けながら進めていきましょう。
末梢動脈疾患になりやすい人・予防の方法
末梢動脈疾患になりやすいのは、高血圧や糖尿病を持つ方、喫煙習慣がある方、肥満の方です。
これらの要因が動脈硬化を引き起こし、末梢動脈疾患のリスクを高めます。予防のためには、禁煙や適切な食生活、定期的な運動を取り入れることが大切です。
また、ストレスをためない生活を心がけ、定期的に医師の診察を受けることで、リスクを減らすことができます。患者さまが自分の体を守るために、生活習慣の改善を日常生活で意識して取り組むことも重要です。
健康的な生活を続けることで、末梢動脈疾患を予防し、快適な生活を維持していきましょう。