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高血圧緊急症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

高血圧緊急症の概要

高血圧緊急症とは、血圧が急激に上昇し、臓器に重い障害を引き起こす危険な状態を指します。例えば、脳出血や脳梗塞、心不全、腎不全などが発生する可能性があります。目安として収縮期血圧が180mmHg以上、拡張期血圧が120mmHg以上になることが多いですが、それだけではなく、臓器への影響が重要な判断基準です。症状としては、頭痛、視力障害、胸や背中の痛み、息苦しさ、麻痺などが現れることがあります。放置すると命に関わるため、迅速な対応が必要です。治療では、病院で血圧を徐々に下げながら、臓器障害を防ぐことを目指します(参考文献1)。

高血圧緊急症の原因

高血圧緊急症は、血圧が急激に上昇し、重要な臓器に深刻な障害を引き起こす危険な状態です。血圧が高くても臓器障害の急速な進行がない場合は高血圧緊急症ではなく、高血圧切迫症と判断されます。
高血圧緊急症には以下のような場合が該当します。

  • 高血圧性脳症
  • 急性大動脈解離を合併した高血圧
  • 重症高血圧により肺水腫をきたした急性心不全
  • 高度の高血圧を伴う急性心筋梗塞や不安定狭心症
  • 褐色細胞腫クリーゼ
  • 子癇や重症高血圧を伴う妊娠
  • など

ここで、「重症高血圧」とは、それぞれの病気において緊急で降圧が必要であるとされる血圧のレベルが考慮されます。例えば妊娠している女性においては、収縮期血圧≧ 180mmHgまたは拡張期血圧≧ 120mmHgとなった場合は高血圧緊急症であると判断されることになっています。
このように、血圧の高度な上昇により脳や心臓、腎臓、大血管などの臓器に急激な障害が進んでしまうと高血圧緊急症となります(参考文献1)。

高血圧緊急症の前兆や初期症状について

高血圧緊急症では、血圧の急激な上昇によってさまざまな症状が現れます。これらの症状は、血流の異常が体の重要な臓器にダメージを与えることで引き起こされます。
まず、頭への影響として、頭痛や意識の混濁、気持ち悪さや吐き気、さらにはけいれんや麻痺などの症状が現れることがあります。また、視力に関係する血管が影響を受けると、目のかすみや視力の低下が起こることもあります。
心臓に関しては、胸の痛みや動悸、息切れなどの症状が出る場合があります。特に心不全を伴うと肺に水が溜まり、呼吸困難を起こすことがあります。大動脈解離などを起こすと背中に強い痛みが出ることもあります。さらに、腎臓へのダメージが進むと、尿が出なくなったり血尿が出たりすることがあります(参考文献1)。

高血圧緊急症の検査・診断

高血圧緊急症では、血圧の測定に加えて、臓器への影響を評価するための検査が重要です。まず血圧は収縮期血圧が180mmHg以上、または拡張期血圧が120mmHg以上となることが多いですが、血圧は短時間で変動するため何度も繰り返し血圧測定を行うことがあります。次に尿検査血液検査で腎臓の機能を評価し、腎不全の有無や電解質、糖、LDH、CKなどの値の異常を確認します。また、心電図検査胸部X線検査も行い、急性心筋梗塞や急性心不全などの発症の有無を評価します。症状から脳神経障害が疑われた場合は頭部CTやMRIで脳出血や脳梗塞がないか確認します。
これらの検査結果を総合すると単なる血圧の上昇(高血圧切迫症)ではなく、臓器障害を伴うと高血圧緊急症と診断され、早急な治療が必要となります。(参考文献1)

高血圧緊急症の治療

高血圧緊急症は命に関わる危険な状態のため、迅速かつ慎重な治療が必要です。治療の主な目標は、臓器障害を防ぎながら血圧を徐々に安全な範囲に下げることです。
治療は通常、集中治療室(ICU)などで行われ、最初に静脈注射で投与する即効性の血圧降下薬が使用されます。ここで、必要以上に急速かつ過度に血圧を下げ過ぎてしまうと、脳梗塞や心筋梗塞、腎機能障害の進行などの臓器障害を引き起こす可能性が高くなります。そこで、通常は治療開始後1時間以内に平均血圧を20~25%程度下げることを目指します。その後、数時間から数日にかけて血圧をさらに安定させます。ただし、高血圧緊急症の背景にある疾患によっては血圧を下げる目標値はより低くなることもあります。そして初期治療の降圧が目標に達したら、注射薬を少しずつ減らして、代わりに内服薬に切り替えます。(参考文献1,2)

高血圧緊急症になりやすい人・予防の方法

高血圧緊急症は、特に降圧薬を十分に飲めておらず血圧を適切に管理できていない人治療を中断した人に多く見られます。そのため、予防のためには、医師の指示通りに服薬をすることが最も重要です。また他にも、日常生活の中で血圧をコントロールする工夫をすることができます。塩分の摂取を控えめにし、バランスの良い食事を心がけることが基本です。過度な肥満の人は減量することも重要かもしれません。運動不足も血圧を上げる要因となるため、適度な運動を習慣化しましょう。また、ストレス管理や節酒も大切です。これらの対策を行うことで、高血圧緊急症のリスクを減らすことができるかもしれません。(参考文献3)

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