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自己免疫性溶血性貧血
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

自己免疫性溶血性貧血の概要

自己免疫性溶血性貧血は、赤血球を認識する抗体が作られてしまうことにより、自分の免疫システムによって赤血球が破壊され、貧血が進行してしまう病気です。
日本には2020年時点で1,000人程度の患者さんがいることが知られています (参考文献 1) 。
自己免疫性溶血性貧血の原因は不明なことも多いですが、感染症や膠原病、悪性リンパ腫といった疾患を背景に発症することがあります (参考文献 1-4) 。
患者自身の症状のほか、血液検査、クームス試験の所見を組み合わせて診断します (参考文献 4) 。
自己免疫性溶血性貧血の分類にもよりますが、各種免疫抑制剤を使うほか、寒冷環境が誘因となるタイプでは保温が基本となります (参考文献 2-4) 。

自己免疫性溶血性貧血の原因

「溶血性貧血」は貧血の分類の中の一つの分野で、自分の免疫システムの異常によって起こる溶血性貧血を自己免疫性溶血性貧血とよびます。
自己免疫性溶血性貧血では、赤血球の表面の抗原に対して反応する抗体が産生されてしまい、抗体のくっついた赤血球が免疫システムにより破壊され、赤血球が足りなくなってしまいます。

精査しても原因がわからない場合も多いですが、他の自己免疫疾患や感染症、悪性腫瘍を背景に発症する場合があることが知られています (参考文献 1-4) 。
自己免疫性溶血性貧血のほとんどは体温に近い温度で抗体と赤血球が反応する温式自己免疫性溶血性貧血とよばれるタイプですが、寒冷環境で抗体と赤血球が反応する冷式自己免疫性溶血性貧血もあります (参考文献 4) 。

自己免疫性溶血性貧血の前兆や初期症状について

自己免疫性溶血性貧血の経過はバラつきが大きいことが知られています。
急性発症の温式自己免疫性溶血性貧血では、発熱や倦怠感、呼吸困難、意識障害、心不全症状、尿の色が濃くなる、尿の量が減るといった症状が出るほか、他の人からでも分かる徴候として黄疸があります (参考文献 2, 4) 。海外の研究では、病院受診時にみられた症状は倦怠感や呼吸困難感、めまい感といったものが多かったことが報告されています (参考文献 5) 。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、息切れや動悸などの貧血症状の他、寒い環境に身をおいたときに指先などの体の末端が白色や紫色になったりする、腕や足に網目状の皮疹が現れるといった皮膚症状が現れることがあります (参考文献 3, 4)。

疲労感や息切れといった貧血症状があれば近くの内科を受診していただき、原因を精査したいというのが医師側の気持ちです。他にも黄疸は肝臓、尿の量が少なくなった時には腎臓の病気や合併症が起こっていることが疑われますので、このようなときは直ぐに病院を受診しましょう。

自己免疫性溶血性貧血の検査・診断

症状として貧血や黄疸があるか否かに加えて、血液検査、自己免疫性溶血性貧血用の検査の所見を組み合わせて診断します。

血液検査では赤血球の量や、若い赤血球の割合、赤血球の破壊が増えていたら上昇するマーカーの測定をして、貧血の原因が溶血性貧血か否かを調べます (参考文献 1) 。
自己免疫性溶血性貧血用の検査にクームス試験というものがあります。簡単に説明すると赤血球に反応する抗体の有無、抗体がくっついた赤血球の有無を確かめる検査です。クームス試験の結果によって自己免疫性溶血性貧血の分類や、他の溶血性貧血がではないかをチェックをします (参考文献 4) 。

自己免疫性溶血性貧血の治療

温式自己免疫性溶血性貧血のメカニズムは解明されていない部分も多く、治療はステロイドを中心とした治療になります (参考文献 4)。治療の初期には高用量を用いて病態を落ち着けた後は、病状の経過に併せて徐々にステロイドの投与量を減量していきます (参考文献 4) 。
冷式自己免疫性溶血性貧血の治療では、寒い・冷たいといった症状の誘因を取り除くことを前提に、場合によっては血漿交換免疫抑制剤を使って疾患のコントロールをしていきます (参考文献 3, 4) 。

自己免疫性溶血性貧血になりやすい人・予防の方法

温式自己免疫性溶血性貧血の原因の約半数は原因不明とされていますが、基礎疾患を背景に引き起こされた症例では、全身性エリテマトーデス (SLE) などの膠原病悪性リンパ腫などのリンパ系腫瘍が背景として多いことが知られています (参考文献 2, 4) 。
慢性リンパ性白血病や SLE 患者では約 10% の患者さんが自己免疫性溶血性貧血を合併するのではないかとされています (参考文献 2) 。
冷式自己免疫性溶血性貧血患者の背景として有名なのは感染症、SLEや関節リウマチなどの膠原病悪性リンパ腫などのリンパ系の疾患です (参考文献 3) 。
感染症のなかでもマイコプラズマ肺炎の原因として有名なマイコプラズマ感染症、伝染性単核球症として有名なEBウイルス感染症が誘因になることが知られています (参考文献 3) 。
これらの疾患を背景に持つ患者さんは自己免疫性溶血性貧血になりやすいと言えるでしょう。
背景疾患を持つ患者さんで、紹介したような症状がある場合には、重症化予防のためにかかりつけ医に相談するのがよいでしょう。
また、寒い環境で症状がでることが分かっている方は、寒い環境を避けることが症状の予防にもなります。


関連する病気

参考文献

  • 参考文献1:難病情報センター. 自己免疫性溶血性貧血 (AIHA) (指定難病61)
  • 参考文献2:UpToDate. Warm autoimmune hemolytic anemia (AIHA) in adults
  • 参考文献3:UpToDate. Cold agglutinin disease
  • 参考文献4:自己免疫性溶血性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド 令和 4 年度改訂版 (2022)
  • 参考文献5:Roumier M et al. Characteristics and outcome of warm autoimmune hemolytic anemia in adults: New insights based on a single-center experience with 60 patients. Am J Hematol. 2014 Sep;89(9):E150-5.

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