

監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
低カルシウム血症の概要
低カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が低下する状態を指します。通常、血清カルシウム濃度は8.5~10.5mg/dLの範囲内にあるとされていますが、これが8.5mg/dLを下回ると低カルシウム血症と診断されます。カルシウムは、骨や歯を構成する重要な成分であるだけでなく、神経の伝達、筋肉の収縮、血液の凝固など、生命活動に不可欠な役割を果たしています。そのため、カルシウムが不足すると、体のさまざまな機能に影響を及ぼし、筋肉のけいれんやしびれ、骨の脆弱化などの症状が現れることがあります。
この状態は、慢性的な栄養不足や特定の病気、ホルモンバランスの異常などが原因で発生します。特に、高齢者や栄養状態が不十分な人、腎臓や副甲状腺に問題がある人は、低カルシウム血症のリスクが高くなります。重症化すると、意識障害やけいれん発作などを引き起こすこともあり、早期の診断と適切な治療が求められます。
低カルシウム血症の原因
低カルシウム血症が起こる主な原因は、カルシウムの摂取不足、吸収障害、排泄の増加、またはホルモンの異常によるものです。まず、カルシウムの摂取不足が原因となる場合、食事からのカルシウム供給が不十分であることが関係します。特に、乳製品や小魚、緑黄色野菜などのカルシウムを多く含む食品を十分に摂取していない人は、体内のカルシウム濃度が低下しやすくなります。
次に、カルシウムが適切に吸収されない場合も、低カルシウム血症が引き起こされます。腸の病気や手術の影響でカルシウムの吸収が妨げられることがあり、特にビタミンDが不足していると、腸管からのカルシウム吸収が低下します。ビタミンDは、日光を浴びることで体内で生成されるため、日光をあまり浴びない生活を送っている人は、カルシウムの吸収が不十分になりがちです。
さらに、カルシウムが体外に過剰に排泄されることも原因の一つです。腎臓の機能が低下すると、尿中に多くのカルシウムが排出されるため、血液中のカルシウム濃度が低下します。また、一部の薬剤、特に利尿剤や抗けいれん薬は、カルシウムの排泄を促進し、低カルシウム血症を引き起こすことがあります。
ホルモンの異常も、低カルシウム血症の重要な原因の一つです。副甲状腺ホルモン(PTH)は、カルシウムの血中濃度を調整する働きを持っていますが、副甲状腺の機能低下によりPTHの分泌が減少すると、血液中のカルシウム濃度が下がります。この状態は「副甲状腺機能低下症」と呼ばれ、先天的な疾患や手術の影響で発症することがあります。
低カルシウム血症の前兆や初期症状について
低カルシウム血症の症状は、カルシウムが神経や筋肉の働きに大きく関与しているため、神経系や筋肉に関連した異常が多く見られます。初期段階では、手足のしびれやピリピリとした感覚が現れることがあります。このような異常感覚は、軽度の状態では一時的にしか感じないこともありますが、カルシウム濃度がさらに低下すると、頻繁に症状が出現するようになります。
次に、筋肉のけいれんやこわばりが起こることがあります。特に、手や足の筋肉が突っ張るような感覚や、無意識のうちに筋肉が強く収縮する現象が見られます。重症の場合は、顔面や喉の筋肉にけいれんが生じることもあり、話しにくさや呼吸のしづらさを感じることがあります。
また、低カルシウム血症が進行すると、精神的な症状が現れることがあります。イライラしやすくなったり、不安感が増したりすることがあり、集中力の低下や記憶力の減退が見られることもあります。さらに重症化すると、意識障害やけいれん発作が発生し、命に関わる場合もあります。
低カルシウム血症の検査・診断
低カルシウム血症を診断するためには、血液検査が基本となります。血清カルシウムの測定を行い、基準値よりも低いかどうかを確認します。ただし、血液中のカルシウムはアルブミンと結合しているため、アルブミン濃度の低下が影響を及ぼすこともあります。そのため、アルブミン補正カルシウムの値を計算し、正確なカルシウム濃度を判断します。
また、低カルシウム血症の原因を特定するために、副甲状腺ホルモン(PTH)の測定が行われることがあります。副甲状腺機能が低下している場合、PTHの分泌が減少し、それに伴ってカルシウム濃度も低下します。さらに、ビタミンDの血中濃度を測定することで、カルシウム吸収の異常が関与しているかどうかを評価することができます。
その他、腎機能や尿中のカルシウム排泄量を確認するための検査も行われることがあります。腎臓の異常が原因でカルシウムが過剰に排泄されている場合、それに応じた治療が必要になります。
低カルシウム血症の治療
低カルシウム血症の治療は、原因に応じて異なりますが、基本的にはカルシウムの補充が中心となります。軽度の場合は、カルシウムを多く含む食品を積極的に摂取することで改善を図ることができます。乳製品や小魚、緑黄色野菜などを食事に取り入れることが推奨されます。
中等度以上の低カルシウム血症では、カルシウム補充剤の内服や、ビタミンDの補充が行われることがあります。ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける働きがあるため、腸管からのカルシウム吸収を促進し、血中濃度の正常化に役立ちます。
重症の場合は、静脈点滴によるカルシウム補充が必要になります。特に、けいれんや意識障害がある場合は、迅速な対応が求められます。併せて、副甲状腺機能の異常や腎疾患が関与している場合は、それらの治療も並行して行われます。
低カルシウム血症になりやすい人・予防の方法
低カルシウム血症になりやすいのは、高齢者、栄養状態が不十分な人、慢性疾患を持つ人です。予防のためには、カルシウムを十分に摂取することが重要です。日光を浴びてビタミンDの生成を促進することも有効であり、適度な運動を行うことで骨の健康を維持することも大切です。
参考文献
- UpToDate Etiology of hypocalcemia in adults
- UpToDate Clinical manifestations of hypocalcemia
- UpToDate Diagnostic approach to hypocalcemia